表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【更新不定期化】AllFreeOnline~才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します~  作者: 山田 武
偽善者と閉じた世界 十二月目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

717/2526

偽善者と赤ずきん その15



「毎度毎度のことだが、俺って何やってんだろうな……」



 さて、赤ずきんの物語もそろそろ閉幕の時だろうか。


 もともと『赤ずきん』とは、知らない人についてっちゃ駄目だよ、という教訓を学ぶための物語であり、決して食べられることに関しては回避不可能であった。


 実際、作者によっては食べられたまま救われずに終わる……なんて話もある。


 この世界では、赤ずきんが魔力を持っていたり狼男が餓えていたりといろいろ小さな違いはあるが、本来はその話と似た終わり方で幕を閉じていた。


 永遠に餓えた狼男が膨大な魔力を持つ少女の肉を欲し、その先に見つけたのは絶望。

 自身の才能に蓋を閉じたままの赤ずきんを食べようと、結局腹は満たされない。


 過去と向き合い、自分の体質を改善しようと努めることで……ようやくその腹は満たされるのだ。



「──おっ、どうやら起きたみたいだな」


「俺ぁ、いったい……」


「記憶がまだ混濁してるか? 姫様を喰い続けたクソ女神のループ、その一部始終をついでにぶっこんでみた。もともと【貪食】なんて代物を中途半端に使ってたみたいだし、そのお蔭で読み込みも早くいったんだがな」


「思い……だした」



 記憶の世界で現れた少年は、まさに彼の抗体とも言えるべき存在だ。


 忘れようとした記憶は一つの所へ纏まり、そのまま封印されていた。

 俺はそれが解放される手助けをし、見事あの状況を創りだしたというわけだ。



「お前の元へ戻ろうとする記憶を、先に人の形にして具現化する。それにちょいちょいっと細工をしてお前と対面させて……認識を改めさせたって寸法だ」


「…………」


「もともとアッチのお前は、行ったきた所業に対する罪悪感やら責任感を押し付けられていた奴だしな。なら、こうするのが一番なんだ──ドブゥ!」


「…………」


「え、なんで無言? それ、一番やられて怖い奴だから!」



 ゲシゲシと俺を蹴り倒し、踏み付けてくる狼男。

 なんだかリオンのときを懐かしく思えてくるが、美少女にやられるのとイケメン(・・・・)にやられるのとでは興奮の度合いが違う。


 ──そう、イケメンだった!

 どいつもこいつも、この世界の男共はナイスフェイスな奴らばっかじゃねぇか!


 眷属……特殊な状況下に置かれてなかったら、絶対こういうイケメンとつきあうぐらいの美少女ばっかりだしなー。

 俺のモブ顔じゃ、道端でバッタリ少女を見つけてもイベントフラグは立たないな。



「メル君!? というか、まだ生きてた!!」


「……ッ!」

「あっ」



 そうして蹴られ続けていると、遠くから赤ずきんがやってくる。

 姿は未だに少年のままなので、傍から観れば悪いのは完全に狼男の方だろう。


 せっかく救った狼男が再び殺されるのも少し嫌なので、即座に赤ずきんの元へ移動し、説得を開始する。



「ひ、姫様落ち着いて。わけがあるから、これからちゃんと説明しますので!」


「うん、分かってるよ……でも、先に退治をしておこうね」


「姫様っ!?」



 精霊たちが集まって、赤ずきんの命令に従おうとしている。


 慌てて聖霊魔法でそれを止めさせ、もう一度説得に──行こうとしたそのとき、狼男が動きだす。



「えっ?」

「ふーん」



 五体投地の構え──即ち土下座。

 尻尾を股の下に潜らせ、狼男は赤ずきんに向けてそれを行う。



「すまねぇ! 俺は、俺はお前に取り返しも付かねぇことをしていた!」



 まあ、そこからは必死に謝罪。

 ただし自分の過去が云々という、同情を買われそうなことはいっさい言わず──ただ真摯に、己の罪だけを話していた。



「え、えっと……どういうこと?」



 さすがに赤ずきんも気が引けている。

 そりゃそうだろう、一度は殺そうとした相手がなぜか生きていて仲間を蹴っているかと思えば、自分に気づいて土下座をしているんだから。



「要は、ごめんなさいと言うわけですね。姫様、どうされますか?」


「ど、どうされますかって……」


「彼のしてきたことは、本来許されるべきことではありません。姫様が動いたからこそ、事態は何かが起こる前に解決しましたが……すでに、犠牲者は出ているんですよ」


「…………」



 沈黙を貫く狼男。

 反論する気もなく、完全に責任をこっちに押しつけてますよ。


 どれだけ丁寧な言葉で装飾しようと、そのことに変わりはない。



「うーん…………よし、決めた!」



 悩んだ末に、赤ずきんは狼男を裁く。

 ゆっくりと五体投地中の彼に近づき──それを告げる。



「許してあげる、なんて上から言うわけにいかないね……えっと、メル君、もっと優しい言い方ってないかな?」


「いいよいいよ、といった感じでは?」


「じゃあそれで──いいよいいよ、別に。ワタシもおばあさんも、今はまだ何もされてない。メル君のせいかな? 他の未来? ってものを見たように話してたのは」



 少し違うけど、肯定した方がいいか。



「まあ、似たようなものです」


「そっか。けど、まだ貴方は何もしていないもんね。殺そうとしたワタシが言うことじゃないんだけど……気にしてないよ」



 バッと顔を上げようとする狼男。

 しかし頭は上がらず、上から圧力のようなものがかかる。



「よしよし、頑張ったんだね」


「…………悪かった。俺ぁ、俺ぁこんな奴を喰おうとしてたのか」


「はいはい、今は泣いちゃおうね。ワタシもメル君も、見えてないから」



 啜り泣く声が、狼男から聞こえてくる。

 赤ずきんはその間、ずっと優しく頭を撫でていた。


 ──美(少)女と野獣だな。




狼男も空気は読めます。

姫様の前でカッコつけようとするガキの一人や二人、そっとしておけるのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ