偽善者と神聖国
聖炎龍は神聖国に居る。
そんな厄介な情報を聞いた俺は、ついにこの世界で一番面倒臭そうな国へ向かうことにした。
……あの性格だから、騙されたか?
移動は徒歩を選び、しっかりと地面を踏んで進んでいく。
飛んでいると、聖炎龍に途中でバレるかもしれないからな。
……ほら、ドッキリとかサプライズの方がなんでも楽しいし。
《……現地妻?》
「ドラゴンって、最初性別ないだろ。召喚獣にするなら無性のままでいいさ」
《はてさて、どうなるんだか》
全然信用されてないな。
まあ、ソウという例があるので、俺もあんまり否定できないんだが。
そもそも、俺に現地妻っていないだろ。
ある意味洗脳とも言える眷属化を受けた眷属だけが、俺のハーレムなのだから。
……ちなみにリオン以降の眷属化には、当初からの情報共有がされなくなった。
必要なことは本で読ませればいいので、いきなり洗脳される必要はもともと無いのだ。
「それより、宗教国なんて初めてだな。日本には無かったからなー」
《仏教の建物なら、日本にもいっぱいあったじゃないか。寺にも行ったことあるんだし》
「……西洋系の宗教の建物に向かうのは、礼拝堂と転職用の神殿以外だと初めてだな。いや、結構行ってるな」
《やれやれ、修正のしようがないね》
物忘れが激しいというか、物に無頓着というか……。
覚えていても認識しなきゃ、記憶に意味などないのだろうか。
「にしても、まだまだ遠いな」
《嫌なら飛べばいいだろー》
「縛りプレー」
《まあ、そう言うなら構わないよ》
未熟ながらも全能の力を持っている。
選択肢が多すぎて悩むこともある。
そんな貴方にお薦め──縛りプレー!
あえて狭められた行動が、自身の新たな可能性を見つけだします! (めっちゃ高い声)
移動手段とチートの一部を縛っているぞ。
本当は空間属性で縛りたかった移動手段なのだが、“空間収納”も空間属性だったので止めておいた。
チートは神系のスキルと[スキル共有]を禁止中だ。
所持者が複数いるスキルは重複して共有できるので、それを応用するとチートになることを最近深く感じた。
閑話休題
歩いていても、必ず時間は過ぎていく。
神聖国は遠目に映る場所まで近づき、もうそろそろ辿り着くだろう。
「神聖国ってさ、どこら辺が神聖なんだろうか。神のご加護があるってことか? それともその加護を受けた法王がいることか? まあ何にせよ、それならリーンもルーンも神聖国って言えるよな」
《メルスは神様だし、みんなの中にも何人か神様はいるしね》
「クーも神だったろ」
《クーは例外だよ。イメージのベースが、神だったからそうなっただけ》
そう、クーはすでに受肉を果たしている。
本来はただ熾天使として受肉するはずだったのだが、元となったイメージが影響を及ぼして神の力を会得した。
能力が遊戯系だったのはご愛嬌だ。
「まあ、そこはさておき。何を以って、神聖と定義しているんだろうな。古き誓いも遠き未来では寂れてしまう。どれだけ神聖な決意も、過去の思いを朽ち果てさせる。……昔のホワイト教は知らないけど、今の噂だけを聞くと特にそう思えるよな」
《でも、宗教ってもともとそんなのだよ? 最初の決まりなんて、次代の者たちが次々と書き換えていくんだからさ》
「そうだよなー。次代に合わせて変化するってのは、良くも悪くも影響があるのか。そこでプラスが多いと言えないのが、なんとも人間の業の深さを示している気もするけど」
時代に合わない法典も、内容を書き換えれば継続して使われる。
だが、時の為政者によって自由に書き換えられ、なおかつそれをその先の者が続いて悪用すれば……っていうのが、何度も繰り返されてるんだよな。
「ま、そんなビックなことはどうにもならないしな。その場その場でどうにかしていくのが俺のベストさ」
《……考えるのが面倒になったみたいだね》
そうとも言う。
◆ □ ◆ □ ◆
そして辿り着いた神聖国。
前に一度確認した通り、国の外見は白一色で染まっている。
巨大な壁に開いた唯一の門の前で、現在入国審査中だ。
「──はい。偉大なホワイト教の総本山、一度でいいから拝みたいと思っていまして。始めて来ました」
「おお、そうですか! しかし……お独りで来たので?」
「すべては神のご加護のお蔭です。盗賊や魔物にも襲われることなく、この場に辿り着きました」
「なるほど! そうですか……はい、入国審査はこれで最後です。こちらの水晶に手を当ててください」
渡された水晶に手を置くと、中で淡い光を放つ。
犯罪者……そして宗教家だと別の色に光る仕組みだ。
「何もなし……。お疲れ様です、入国は許可されました」
「ありがとうございます、ではまた帰国時に会いましょう」
「滞在期間はどれほどで?」
「そうですね……三日程お願いします」
「……はい、では行ってらっしゃいませ!」
門兵の見送りを受けて、俺は神聖国へと入国する。
……ふと握らせた硬貨に目の色を変えていたのも、あの声のデカさの原因だろう。
まあ、三日と言ったが用件は一日足らずで済むと思う。
「どこに居るかな? 聖炎龍は」
宗教国家でドラゴンを探す、何やらシュールな気がするな。





