02-34 過去の王都 その18
加筆・修正しました(2019/03/12)
≪続いては──状態異常に関する説明です。新たに増えた三つのバッドステータスをご紹介いたしましょう≫
≪それは、空腹・酔い・欠乏でございます。読んで字が如く、皆さまの生活と密接に結びついた状態異常が追加されました≫
≪空腹は食事を必要とする種族の方、全員がなる可能性を持つ状態異常です。満腹度、と呼ばれる数値が一定量まで減少した際に発生してしまいます。発動中は減少した満腹度に応じて行動に制限が設けられます≫
≪酔いはアルコールの摂取だけでなく、自律神経の乱れによって発生します。AFOでは年齢制限を満たしている祈念者のみ、お酒を飲むことができます。過度の摂取はお控えください。発動中は思考にノイズがかかり、五感などにズレが発生します≫
≪欠乏は血や身力値が失われすぎた際に発生します。初期設定では出血はしませんが、一部の種族やスキルを習得するとその設定が強制的に解除されます。また、任意の設定でも変更が可能です。発動中は欠乏したモノを用いた能力などが使えなくなります≫
≪状態異常に対する耐性スキルがあれば、それぞれに対応した形で効果を発揮します。お求めの方は、ぜひお探しください≫
≪続いては──グランドクエストに関するご説明ですが……こちらは概要のみの紹介となります≫
≪運営側で定めた、この世界の果てへ向かうための運命の流れ……それを紡ぐものこそがグランドクエストとなります≫
≪依頼受注者に制限人数は儲けられておりません。ですが、依頼達成は一度きりとなります。たとえ集団でクエストに挑んでいても、最終的に報酬を得られるのは参加者全員とは限りません≫
≪極めて発見しづらいように準備されているため、今の皆様では受注することは難しいでしょう。しかし、もし見つけるようなことがあれば、これから私が言うことを思いだしてください≫
≪クエストの内容は、皆さまの行動によって大きく変化する場合がございます。やり直しは効かず、一度きりのチャンスです。自由であるが故に、その選択は無限の可能性を秘めることでしょう……どうか間違えないで≫
≪最後は──迷宮に関するご説明です。これは、あくまで現在皆さま方へ開示できる情報分でしかないことを、予めご了承ください≫
≪迷宮は条件を満たしたフィールドに突如発生する異空間であり、その中は千差万別なため同じ場所はなかなか見つかりません。その環境に応じた装備やスキルを整えることが、攻略のカギとなるでしょう≫
≪一定期間ごとにその内部構造が変化し、時間さえあれば魔物が尽きることが無い魔物たちの楽園。通常のフィールドとはその生息も異なる場合がございますので、それもまた対策が必要となります≫
≪迷宮の最奥地にはコアと呼ばれる核が存在し、それを台座から外すことで迷宮の活動が停止します……それをどのようにするのか、皆さまの選択が問われるでしょう≫
≪また、報酬的な面のご説明を。迷宮内には宝箱が出現し、通常ではなかなか手に入らないレアなアイテムが入手できる場合がございます。金銭や宝石、武具などに加え、使用することでスキルへの適性を無視してスキルを習得可能とするスキル結晶などが宝箱の中に入っていることがあります≫
≪しかし、宝箱自体が魔物であったり凶悪な性能を誇る罠が仕掛けられている場合がありますのでご注意を。迷宮は侵入者の身力を糧として成長を続けております……今回の最終イベントで出現した魔物もまた、迷宮から生まれた魔物であったことをご了承ください≫
◆ □ ◆ □ ◆
アップデートに関する情報は、どうやらここまでのようだ。
もう少し時間がかかるようで、最終イベントのダイジェスト映像を投影するとレイさんは言っている。
「まあ、オンゲーのアップデートと言えばだいたいこんな感じか」
新しい能力が増えたり、新機能が搭載されたり……ここら辺は普通のゲームのようにも思えるところだ。
ただ、それがどのようにしてこの世界に変化をもたらするのかが気になってしまう。
「ふむふむ、迷宮はそういう風に装う必要があるのか? それとも、そうしないとダメな理由が存在する? まあ、お土産を有効的に使うならもう少し調べる必要があるか……」
レイさんは隠してくれたし、ダイジェストの映像にも載っていないが──迷宮は俺が単独で攻略し、核も奪って保持している。
……本当、女神様だなレイさんは。
使い方は分からないが、グーの解析が終われば俺はそれを使えるようになるだろう。
対価は必要になるだろうが──無限に湧き出す宝箱と魔物たち、そしてそれを独占できる俺……完璧だ。
「ぐふふふ……夢が広がリングでござる」
特に意味は無いが、含み笑いが出てしまうのはなぜだろう。
やはり、迷宮に各種特典を求めるのは間違いではないようだ。
そう理解するように、自然と口からそのような笑い声が出ているのかもしれない。
富──は財宝を迷宮から出せばいい。
名声──はどうだか知らないが、なんだかリョクたちがやっていてくれる気がする。
力──うん、The・チート。
この世のすべてではないものの、王様に必要な三つを手に入れた俺ことメルス。
偽善者街道まっしぐらでござる。
閑話休題
やることをすべて済ませ、こそこそと噴水のある場所まで戻ってきていた。
そこで投影されているダイジェスト映像を眺め、アップデート完了までの最後の時間を過ごしている。
「にしても……うん、なんとも凄まじい戦いなんだろうな」
最終決戦──レイヴンの同類らしき二人組の邪神教徒が、その場に居る全員を相手に回して戦い続ける映像であった。
圧倒的な力を振るい、並み居る者たちを払い除ける……対価を支払うような力であろうと、一騎当千の猛者をも捻るように潰す力には感心してしまう。
「それと同格のレイヴンが暴走しても、俺は邪神の使徒ごと倒せた。やっぱり、{感情}スキルは異常なんだな。経験値にしても、能力的にも……」
主人公とは、時に挫折するものだ。
その経験を糧として喰らい、己の信念を貫くエネルギーとする……まあ、これが王道の物語というものだろう。
だが、凡人の俺が彼らの真似ごとをしているというのに、これまで一度として本当の意味で苦戦をしたことがない。
普通、俺のやってきたことを思い返せば、一度くらい訪れるであろうもの──困難。
「まあ、強いことに損は無いんだけどさ。異常感が際立ってるよなー」
それを不安に思うことはないが、オンゲーの上位ランカーと言えば恨み辛みが向けられる存在だ。
俺はそれすらも捻じ伏せる力があると、武闘会で証明した……だからこそ、直接的に何も言われることはない。
≪アップデートが完了しました≫
そんなことを考えていると、ついに終わりの時となった。
レイさんの声に少しのめり込んでいた思考が切り替わり、足元に展開された魔法陣に意識が向けられる。
≪皆さまを初期エリアに転送します。移動後はアップデート後のシステムに遵ることになりますので、変化をご確認ください。また、イベントでの貢献度の計測結果の発表は後日となります……お楽しみに≫
視界は閃光に包まれ、俺たちはこの世界から居なくなる。
□ ◆ □ ◆ □
イベントは幕を閉じた。
役目を果たした過去の世界は、虚構のものとなって滅びゆく。
抗えぬ神の選択、それは理不尽ではあるが誰も逆らおうとはしない。
神の選択は絶対、気づくこともできずに矮小な生物たちはその存在を消される。
──過去は終わり、現代へ……それは当然のことと受け入れられ、誰もが当たり前だと感じること。
だからこそ、たった独り抗おう。
神すらも必要としないのであらば、そのすべてを貰い受けようではないか。
運命なんて理由は不要、あるがままに欲するがままに……。
いろいろと含んだ話が多い説明回でした





