偽善者と月の乙女 その04
慣れない無重力での戦闘。
彼女たちはその感覚に戸惑いながら、メルスと戦っていた。
剣を振るにも盾で防ぐにも、地に足が付かないため力が入らないのだ。
投擲武具にはあまり変化がないが、それでも一つ一つの威力は振り下ろされた剣に劣るため、結界を破壊できずに無駄打ちとなる。
唯一変わらず結界を破壊できる威力を保ったもの──それは魔法だった。
「ウェイウェーイ! 推進力を細かに切り替えないと、いつまで経っても俺を止めることは不可能だぞー。ちなみに、(立体機動)スキルがあればワイヤーなしでも可能だぜ」
「……ウザいですね」
「たとえなんと言われようとも、せっかくの機会だから楽しもうという気持ちは止められない。少し風で押せば動けるんだ、どんどん攻めて来たまえ若人たち! 下と同じ大きさで壁も用意してあるから、安心したまえよ」
何もない場所を蹴り、変則的な動きで彼女たちを翻弄するメルス。
ただ(空歩)で移動しているだけなのだが、同時に使用している(立体機動)の効果で動きに磨きがかかっていた。
しかし、先ほども言ったが彼女たちは無重力での戦闘に慣れていない……否、そんな(この世界でも)非日常的な場所での戦闘は、今回が初めてであった。
移動方法は、プーチの魔法で纏った風を魔力でコントロールするというもの。
魔力を消費するが、メルスと違って直線的な行動にならないのが利点である。
そのため数度調整を失敗し、物凄い速度で壁にぶつかりそうになった。
が、メルスが予め衝撃吸収機能を持った結界を四方に展開していたので、失敗した者たちも大事には至らなかった。
一旦攻撃の手を緩め、彼女たちを情報を共有し合う。
普通にやっていても、この場所はメルスの独壇場。
状況を打破する一手を打たなければ、勝利は決して望めないと理解しているのだ。
メルスにバレないよう、ウィスパー機能を使っての密談である。
【結局のところ、メルスは何をしたいのかが分かりません。わたしはてっきり、開始早々敗北になると思っていたのですが……】
【そんなに凄いの、本気は】
【メルのときから隠しているのは分かってたけど、実際どれくらいなのよ】
【首を落とされても生きていましたね】
【やっぱり~、化け物よ~】
【むぅ、そんな相手にどうやって勝てばいいのだろうか】
【もう自爆技でも使った方が勝てるんじゃない? ほら、ルール的に死んでも戦闘には参加できるんだしさ】
この戦闘ではHPが0になっても、直接的な攻撃をしないのならばほぼ変わらずに戦闘に参加できる。
なのでコパンの提案でもある自爆技を使おうとも、魔法による補助などは可能だった。
【でも死んじゃうと、アタシの場合補助としてできることがないんだよね。破壊技って、全部攻撃として判定されるし……】
【そもそも、自爆技程度で勝てるとも限りませんよ。ステータスに制限がかかっているとは言っていましたが、何処まで下げたかを明言していません。結界があれだけ堅いのですから、コパンの作戦は失敗するかと】
【そっか、なら止めよっか】
クラーレの意見に、コパンはあっさりと意見を翻す。
彼女としても、意味のない自爆はやらない方が良いと分かっている。
希望があるならば試してみるが、絶対に勝てないのならば控えて仲間のアイデアを待つ方が賢明、そう考えていた。
【メルスの言う通り、私の【未来先撃】も当たらなくなった。どうにか下に戻れば、こっちも戦いやすくなるけど……】
【というより、なぜあのように動けるのだろうか。普段は無重力で活動しているのか?】
【いえ、そういうことはないかと……】
クラーレもさすがに、無重力で生活するとは考えられなかった。
ただ一つ言うならば──夢現空間には、無重力の部屋もある。
話も纏まり、再び戦闘に集中する。
話し合いの最中はメルスも攻撃を少し控えていたので、彼女たちも戦えていた。
「作戦会議は終わりか? どんな選択もどんな考えもどんな手段も……俺の前では無意味だぞ。この場所から解き放たれければ、俺が使う魔法すべてを封じるべきだな」
「どちらにせよ、このままじゃ勝つことは難しいわね」
「だろ? だから──」
「だから、こうすればいいのよ」
シガンが指示を送ると、残りの五人がいっせいに動き出す。
「“魔力共有”~」
「“絶界防盾”!」
「“武具射程拡張”!」
「“八岐大蛇之術”!」
「――“破現一撃”!!」
「……あー、なるほどな」
瞬間、空間に罅が入る。
それは一ヶ所からではなく、八ヶ所から同時に音を鳴らした。
メルスは崩れていく無重力の空間と、魔法が解けてゆっくりと地上に落ちる彼女たちをそれぞれ眺め……呟く。
「プーチが俺の繋げた魔力の供給線を全員に繋げ、ディオンが一定時間攻撃を無効化する武技を発動。クラーレとノエルで補助魔法やスキルを使い──コパンの一撃……いや、八撃で全部を壊していったか」
重力緩和と風力操作を魔法で行い、安全に着陸する。
ディオンが落下ダメージを0にしているので、誰も着地でHPを減らしていなかった。
「……やれやれ、軽気功があるから問題は無かったんだけどな。そこは、どれだけ安全策があっても心配になるか。でも、『発芽』にはもう少し経験を重ねる必要がある……嫌だけど、仕方ないか」
ため息を吐いて足を動かすメルス。
階段を降りるような仕草で、ゆっくりと彼女たちの元へ向かう。
――『発芽』を育てる、『肥料』を用意しながら。
次回、いろいろと変化する!
p.s.
その内 ●月目というのが変更になる可能性が大です
……そういうの、曖昧な方が詰め込みようがあることに気付きました





