偽善者と自己紹介 その15
夢現空間 居間
炬燵で食べるミカンは最高だ。
家は炬燵より灯油ストーブ派だったから、割と本気で憧れていたんだよ。
作ってからは何度かやっているんだが、何度やっても似た感想を思うよ。
あえて体温を下げ、炬燵の仄かな温さを感じられるようにしている。
「うーん、本当によかったのか?」
「はい、お父さんはお母さんに説得されてましたので。フーリも今日は友達と一緒に遊んでいると……」
「お父さん、災難だな。にしても、長期滞在したって特に得るものなんてないのに、どうしてだ?」
いっしょに炬燵でミカンを食べる少女に、そう問いかける。
普段はリーンで売られている可愛い服を着ているのだが、今回はなぜか水着イベントの際に渡した制服を着用している。
もともと俺の願望混じりな衣装なので、本当に似合っています。
「私とフーリは普通でしたから。メルス様は弱かった私たちに力をお与えになりましたけど、眷属のみんなと比べると……やっぱり普通だなって思うんですよ」
「考えすぎだと思うけどな。俺だって、借りた恩恵を切られればただの凡人だ。それに、ちゃんと頑張っているんだろう? 自分じゃ気づかないことだけど、俺はその努力が絶対に実ると思っている」
「ですが、同じ練習をしていても、私よりもフーリの方が必ずいい結果を出すんです。あの子は私よりも才能があって、可愛くて、強くて……凄い妹、ですよね?」
あんまり共感しづらいけどな。
どちらも優れた部分があり、フーリだけが優れているわけではない。
ただ、先にできるのがフーリ、その印象が強く残っているのだろう。
「──フーラ、君はできる子だよ。フーリが一度でも、君を駄目な姉と言ったことがあるか? ないだろう」
「でも、それは、違っ、だけど──」
「才能なんて関係ないさ。たとえフーリの方が優れている妹だろうと、フーラはフーリのお姉ちゃんだ。姉に勝る妹はいない。俺と出会う前、フーラはフーリと違って病気に負けることは無かった。フーリが弱かったわけでもないけど、姉は最強だからね。あのとき、絶対にフーリを守ろうとしていたんじゃないのか? その心さえあれば、お姉ちゃんはいつまでも無敵なんだよ」
「メルス様……」
はい、だいぶ話を逸らしております。
姉妹の問題に首を突っ込む程、俺も腐ってはいないさ。
目に視えるステータスも、そうでない才能とやらも、全部姉力には関係ない。
感情は時に、人を強くする。
怒りでパワーアップした野菜の人たちのように、激情のままにすべてを捨て去る覚悟をしたハンターの少年しかり。
下の子供を守ろうとする姉や兄の気持ち、俺にはないその感情もまた、人を強くするトリガーの一つなのだろう。
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「──さて、そろそろ始めるか」
「は、はいっ」
「第十五回質問ターイム! 今回のゲストは可愛い【英雄】、フーラさんでございます」
「よ、よろしくおねがいします」
まだ初々しい緊張しきった表情で、律儀にカメラへとお辞儀をしている。
小説で齧った姉論を、エキサイトして語ったのが良かったのだろうか。
その表情は少し赤らんでいた。
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「問01:あなたの名前は?」
「フーラです」
「問02:性別、出身地、生年月日は?」
「女性で、元サウンド王国オーヴァ領ラルゴ村、神歴1988年10月18日です」
「神歴ってのはこっちでの紀年法だ。神代はその初期の時代のことだ。余談だと、今うちの国だと善歴を使ってるぞ……無理矢理承認させられたからな」
「問03:自分の身体特徴を描写してください」
「身長は136cm、髪は煤けた金色で、瞳は茶色です」
「髪の捕捉で、首の辺りまで伸びたゆるふわパーマってヤツか? 似合ってるぞ」
「あ、ありがとうございます」
「問04:あなたの職業は?」
「村人……と英雄です。全然実感が湧かないですが、頑張って務めてみます」
「問05:自分の性格をできるだけ客観的に描写してください」
「少し、悲観的な考えが多いです。フーリは私と違って、いつも前向きなんですけど」
「問06:あなたの趣味、特技は?」
「趣味は裁縫と料理です。まだ、メルス様には及びませんが」
「問07:座右の銘は?」
「えっと、救世済民とやらです。メルス様のような人になりたいからです」
「問08:自分の長所・短所は?」
「どちらも、後のことを考えていることだと言われました」
「問09:好き・嫌いなもの/ことは?」
「趣味が好きなことです。嫌いなことは特にありませんが、ミントちゃん以外の虫は苦手です」
「問10:ストレスの解消法は?」
「深呼吸をしています」
「問11:尊敬している人は?」
「当然、メルス様です」
「問12:何かこだわりがあるもの/ことがあるならどうぞ」
「あれ以降(過去の王都)、病気にならないことを心がけています」
「問13:この世で一番大切なものは?」
「家族です」
「問14:あなたの信念は?」
「この身を、メルス様に尽くすことです。私たちは本来、あの場所で凍えるような檻の中で生を終えていたのですから」
「問15:癖があったら教えてください」
「すぐに顔に出る、と言われますね」
「問16:ボケですか? ツッコミですか?」
「ツッコミです」
「問17:一番嬉しかったことは?」
「一番最初にメルス様に出会ったときです」
「問18:一番困ったことは?」
「その前の時間です」
「問19:お酒、飲めますか? また、もし好きなお酒の銘柄があればそれもどうぞ」
「飲めません」
「問20:自分を動物に例えると?」
「犬のように、尽くしたいと思います」
「問21:あだ名、もしくは「陰で自分はこう呼ばれてるらしい」というのがあればどうぞ」
「【英雄】姉妹、なんて大げさな呼ばれ方をされたことがあります。フーリならともかく私は……と思ってました」
「問22:自分の中で反省しなければならない行動があればどうぞ」
「メルス様にご心配を掛けたことです」
「気にするな。むしろ、気付けなくて悪かった。今まで俺も、しっかり者のフーラに甘えていたのかもな」
「メルス様っ……」
以下、甘い空気通ります
「問23:あなたの野望、もしくは夢について一言」
「立派な大人になって、メルス様の役に立ちたいです」
「問24:自分の人生、どう思いますか?」
「メルス様に救われた人生です。奴隷商に捕まったことも、【英雄】を封印されたこともすべて、メルス様が救ってくれました」
「問25:戻ってやり直したい過去があればどうぞ」
「メルス様に救ってもらわず、メルス様を救えるようになりたいです」
「いや、何度でも、俺の方が救ってやる。絶対に負けないぞ」
「問26:あと一週間で世界が無くなるとしたらどうしますか?」
「眷属のみんなと一緒に、メルス様と過ごしたいですね」
「問27:何か悩み事はありますか?」
「先程の件が悩みでしたが……お蔭で気が楽になりました」
「問28:死にたいと思ったことはありますか?」
「それはまだ、ありません」
「問29:生まれ変わるなら何に(どんな人に)なりたい?」
「メルス様を守れるような存在に」
「問30:理想の死に方があればどうぞ」
「メルス様の役に立って死ぬこと、それが本望です」
「……いや、なら死なないで生きてくれ」
「はい!」
「問31:何でもいいし誰にでもいいので、何か言いたいことがあればどうぞ」
「フーリ、お姉ちゃん負けないからね!」
「問32:最後に何か一言」
「だって、お姉ちゃんなんだから」
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「はいカット! 今度、一緒に特訓してみるか? フーリもだけど、少し別の内容をやらせるから大丈夫だろう」
「はい、お願いします!」
頑張って姉力を上げてもらいたいものだ。
今も相当高いけどな。





