偽善者と赤色の紀行 その15
「──ですがその前に、この場所から移動しなければなりませんね。先程のように会話の最中にちょっかいを出してくるような者が居る場所では、そう易々と情報を吐けませんからね」
いやいや、シリアスな話にしたいなら、それなりの場所に移動しなければならないじゃないか。
そういって、一度奴隷たちを説得してから部屋に置かれたボタンを押す。
そのボタンは、部屋にスタッフを呼ぶファミレスとかにありそうなボタンだった。
実際押した途端、近くで呼ばれるのを待機していたスタッフがこの場所に戻ってくる。
「お話は、お済みになったでしょうか」
「ああ、充分だ。お蔭様で魔力も完全に回復したよ。では、物品の方を貰おうか」
「そちらはまた、別の部屋での受け渡しの予定でして……。品はすべて、その場所に置いてあります」
「そうか。では、そこに向かおう。奴隷はこの場に置いておいても構わんのか?」
「すでに貴方様のものです。どう扱おうと私たちは一切関与しません。ただ、任せられればしっかりと管理しておくことは約束しておきましょう」
ニコリと営業スマイルを浮かべている。
たぶんそれは、本当なんだろうが……相手が相手だしなー。
その気になられると困るし、完全に任せるわけにはいかないか。
「では、部屋の外に警備の者を置いてもらえないだろうか。中には必要ない。私の話を反芻して揉める時間も、彼らにはいるだろう」
「分かりました、直ぐに伝えます」
スタッフは胸元から携帯電話のような物を取り出し、どこかへ連絡を行う。
内容は当然と盗聴していたが、俺の伝えたことを正しく連絡していた。
しばらくして用意された警備の者を確認して、俺とスタッフはこの場所から出ていく。
曲がり角を幾数回か曲がり、辿り着いた広い部屋の中に入室した。
「ほお、かなり買ったのだな」
「すべて、貴方様の物です。先程お渡ししたリストに書かれた物すべてが、こちらの場所に揃っております」
大きい物から小さい物まで、俺が適当な感じで入札した結果落札できた品の数々が、その場に鎮座している。
しっかりと種類ごとに分けられており、確認しやすくなっている……スタッフのサービス精神が行き届いているな。
「どのようにして、お持ち帰りに? ご予定が無いのならば、こちらで空間拡張鞄の方をご用意してありますが」
マジックバックとは、空間属性が付与された鞄……ただそれだけである。
しかし、それだけの作業を行うのが至難の業であるため、高級品として扱われているのが現状だ。
そんなレアアイテムを、ポンと渡そうとするスタッフ。
あれだろうか──ネット通販で一定以上の額まで商品を購入すると、なんと送料がただになる的な……違うか。
「いや、構わない。自前の物がある」
「申し訳ありません。差し出がましいことを申したこと、お許しください」
「それが仕事なのだろう。さぁ、早く済ませて彼らの元へ戻ろうか」
この世界で空間魔法を持つ物はかなり珍しく、マジックバックがあまり造られていない理由の一つでもある。
なので俺はあえてバック型の魔道具を持ち込み、その中に落札した物を入れていく。
……ま、空間属性じゃなくて時空間属性を付与したんだけどな(こっちの場合、国宝級の一品となるらしい)。
「──では、そろそろ話し合おうか」
「……え? それはどういう意味──」
スタッフが俺の言葉に首を傾げようとしていたが……答える暇は無い。
即座に結界を展開して、飛来した攻撃を防いでいく。
「こ、これは……!」
「分断も作戦の内、ということではないようだな。お前は自身の仕事をしっかりと達成した。お蔭でここまで腹を立てることなくやり過ごせてきた……感謝する」
「あ、ありがとうございま……すって、そうではありません! い、今すぐ警備の者を呼びます……あれ? 反応が」
無理無理、とっくに俺たちの周りに結界が張られているから。
魔力の波動も遮ってるみたいだし、連絡をさせるなんてミスは無いだろう。
「また同じ手で捕まりたいか。早くお前たちの依頼主が出した答えを聞きたい」
「──殺してでも奪え、策は用意した。それが答えだ」
まあ、分かっていたさ。
それで納得できるような奴は、端からこんな場所に来ることもないだろう。
「どこまで【傲慢】で【強欲】な回答なのだろうか。俺はそう容易く倒せる相手でない、そう報告したのだろう?」
「……したさ。だが、こちらにも依頼を受け続けなければならない理由があってな。死地に挑むつもりで来ている」
影から先程の集団が現れる。
さっきよりも人数が多いのだが、それは予め知っていたことなのでスルーしておく。
目が死ぬことを決意した──例えるなら、死亡フラグを立てた者のような色に変わっているので、本当に刺し違えてでも目標を達成しようとするだろう。
「おい……あー、名前を訊いてなかったな。とにかくスタッフ、結界を張ってあるから命は保障される。安心しろ」
「あ、安心できるはずないでしょう! ど、どうにかして警備の者たちを呼ばなければ、私たちは死んでしまいますよ!」
「スタッフよ、だから安心しろ。奴らはお前に指一本触れることはできない」
ギャーギャーと騒いでいるのが少々耳に響くので、一時的に音を遮断する。
「お待たせしました。一々口調を変えるのも面倒ですし、最初に会ったときの方で進めていきますよ。──本当に、いいんですね?」
拳を構え、臨戦態勢を取る。
相手が殺る気ならば仕方がない──俺も、彼らの流儀に則るとしよう。





