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【更新不定期化】AllFreeOnline~才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します~  作者: 山田 武
偽善者と決意交わる水着イベント 十月目

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偽善者と赤色の紀行 その02



(……あれは、一体……)


「強い想いに誘われて、西へ東へ異世界へ。例えそこに何が在ろうと、そこに強き願いがある限り、そこに参上──偽善者現る!」


(ぎ、偽善者……?)


 少年の前に現れた者は、そう名乗りを上げてホブゴブリンの後ろからやってくる。


 見た目は平々凡々の男、これといった特徴もなく、だからこそ少年の目にはその者──偽善者が強く印象に残った。


「……おいおい、いつもお前らはそれしか言わないな。いちおうでも話す口があるんだから、たまにはインテリジェンス感溢れる言葉ぐらい言ってほしいもんだな」


(い、いんてり? それに、もしかしてコイツに話しかけてるのか? 魔物も言葉を話せたのか!)


 知らない言葉や知らない知識、少年は新たな何かをこの一瞬で学び続ける。


 少年はいつしか、目の前で棍棒を構えたホブゴブリンに恐怖を感じなくなっていた。


 偽善者の余裕が少年の中で不思議と安心できるものだと認識され、少年も気付かぬ内にそうした負の感情を抑えているのだ。


 しかし、そうであろうと少年の危機的状況に変わりない。

 今もホブゴブリンは、棍棒を振り下ろそうとしているのだから。


「ま、とりあえずそこから離れてもらうぞ」


 偽善者はそう言って、パチンと指を擦り合わせて音を鳴らす。


 すると、少年の前にはホブゴブリンではなく偽善者が、偽善者の居た場所にはホブゴブリンが立っていた。


「ほらほら、俺が来たからにはコイツに喰われることは無くなったぞ。ほれ、とりあえずこの薬を飲んでくれ。無駄に美味しい味にしてある……って、自分で飲むのは無理そうだな。流し込むから、味わってくれ」


(あ、美味しい)


 偽善者に流し込まれた薬は、少年が今までに食べたどの甘味よりも甘く、それでいて少年の舌に丁度よい旨みを感じさせた。


(……熱い。全身が燃えるように。あれ? 全身から感じる? ……あ、治ってる!)


 偽善者が飲ませたポーションによって、少年の負傷は全快する。


 本来のポーションでは、傷を修復するのが精一杯なのだが……少年は今までポーションの存在を知らなかったので知る由もない。 


『……飯、遠ク、オ前、邪魔──殺ス!』


 ホブゴブリンは自分の身に起きたことに少し戸惑ったものの、直ぐに意識を殺意に集中させて偽善者へと向かう。


『飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯ーーーッ!』


「……お前ら、思考が同じだよな。殺すって言った奴に言うセリフじゃないぞ」


「あ、危ない!」


「大丈夫大丈夫、任せておきなさいな」


 ホブゴブリンが棍棒を大きく振り被り、偽善者の内臓を狙って横に払う。


 偽善者はそれを見切り、前転をしてホブゴブリンの足元に移動する。


「まずは──“蹴り上げ(ハイキック)”」


 地面に手を突いた勢いを使い、逆立ちをするようにして顎に後ろ蹴りを行う。


 脳を震盪され、棍棒を振るうことのできなくなったホブゴブリンは、そのまま宙へと飛ばされた。


「次に……というか止め──“踵落とし(アクスキック)”」


 偽善者もまた地面を蹴って空へ駆けると、ホブゴブリンの上を取る。

 そして片足を空高く掲げ、そのまま脳天に打ち下ろす。


「ゴーメンクダサーイ!」


 やけに高めの声でそう言うと、そのままホブゴブリンと共に大地に戻ってくる。


 突然不思議なことを言いだす偽善者に戸惑うが、少年はそれでも偽善者の目をジッと見つめる。


「……さて少年、少し話をしようか。君の願いを、本当にしたいことを言ってくれ」


 偽善者は少年の前でしゃがみ、ニコリと笑みを浮かべる。

 ……ただ、少年にはそれが、とても歪んだ笑みに見えたらしい。


  ◆   □   ◆   □   ◆



 ホブゴブリンを地面に叩き付けた後、恢復させた少年の願いを訊いてみた。



「──つまり、友人の病気を治そうと薬草を探しに来たけど、ホブゴブリンに襲われて死にかけたってことか」


「はい……というか、もう貴方が来なかったら死んでしました」


「だからこそ俺は来た。俺が来なくとも、お前が動かずとも、世界は変わらず動いてる。お前は本来ここで死ぬのが運命だったんだろうな」


「……そう、かもしれない。神に祈っても、悪魔に縋っても何も起きなかった。ただ死にたくないと心から思ったら、貴方がここに現れた」


 この少年、まだ七歳らしいのだがこの冷静さ……異世界って凄いな。


 そう、神に願っても結局戦うのは自分だろうし、悪魔に縋っても対価として絶望が訪れただろう。


 その点、偽善者は好いぞ。

 自分に利があると分かっていれば、どんな願いだろうと叶えてくれるんだからな。

 ……ま、絶望の代わりに切望が必要なんだけど。



「そう、願いは純粋でなければならない。少年はあの時、生を渇望した。俺の偽善は一度きりじゃないからな。最初にお前を救って、次にお前の行動目的を手伝ってやるんだ」


「……なら、ボクはすぐに友人を救ってもらいたい。そうでなくとも、時間が欲しい!」



 友人とやらの病気、死に至るのはまだまだ先らしいが体が麻痺していくらしい。

 手が痺れ足が痺れ、最後には心臓が痺れて死ぬ……そんな病気とのことだ。


 一刻も早く友人を望む形で救うには、すぐに完治させるか病気の進行を食い止めるのがベスト。


 薬草を俺に採って来てもらい、薬として友人に呑ませる時間もないのだ。



「……とりあえず、お前の友人の元に案内してくれ。魔法で友人の時間を停めて、病気が進行するのを食い止める」


「! あ、ありがとうございます!」


「礼なら全部が解決した時にしてくれ。それより、今は早く頼む」


「は、はい!」



 少年の誘導に従って、俺は少年の住まう村へと移動した。




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