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【更新不定期化】AllFreeOnline~才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します~  作者: 山田 武
偽善者と決意交わる水着イベント 十月目

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偽善者なしの水着イベント後半戦 その13

祝600話!

これからもAFOをよろしくお願いします!



 少年(ヒューリ)は焦った。

 ここに彼女(リッド)は居ないはずだったのだから。


 少年の復讐に彼女は関わらせない……あくまで獲物(たいしょう)だけ復讐する、そう決めていた。


「グラム、ジース、アポロ、ユーン……みんなヒューリ君がこんな風にしたの?」


 しかし、現実は異なる。

 目の前に、たしかに彼女は居るのだ。


 いったいなぜ、などと問う必要はない。


 それは、犯人(こたえ)が説明するだろうから──


「……おい、どういうことだ。陽炎」


 そう、少年は彼女の後ろ辺りに詰問する。


「……決まっているだろう、これもまた儀式の一つだ……」


 彼女の後方では、空気が歪める形でナニカがいた。


 姿は見えずとも、そうした環境の変化が少年に存在を感づかせた。


 陽炎と呼ばれた存在は、懐から結晶を取りだしながら答える。

 魔力を注ぎ込まれ、中に仕込まれた魔方陣が投影されていく──彼女を中心として。


「え? あ、あの……」


「……あの方に誓ったはずだ、完璧な復讐を果たすと……」


「だからこそ、俺はアイツらを──」


「……そう、コイツはお前を救わなかったのだろう。ならば、お前の復讐対象だ……」


「ち、違っ!」


 何も違わなかった。

 強く否定することもできず、少年は詰まるように息を止めてしまう。


 そこに重ねるように続けられる。


「……お前の意志がどうであれ、あのお方はそうお考えだ。ならば、あのお方から力を授かったお前には、そうする必要がある……」


「な、何を言って……」


「……何もしなかった罪は、何もできずに死ぬことで贖わせる。それが、あの方のご要望だ。お前はそれを、何もせず見ているだけで構わない。手を汚す必要は無い。救おうとした者が救われない、実に痛快だ……」


「うぐっ──」


 魔方陣はそうしている間にも輝きを放ち続け、彼女は突然苦しみながら倒れた。


 声を上げることもできず、息が漏れる音だけをカヒューと鳴らしている。


「……魔方陣には、少しずつ体を衰弱させる効果がある。最後には死んだと思えるぐらいの激痛が走り続けるが、死ぬことは無く永遠の苦痛として残る。止める方法は唯一つ、発動者を殺すことだけだ……」


「……悪魔め」


「……悪魔、悪魔か。仮に悪魔だとして、それと契約をしたのはお前だろう……」


 そう、陽炎の言う『あの方』と契約をしたのは、少年自身である。


 その者や、その使いである陽炎を悪魔呼ばわりするということは、彼らと手を組んだ少年もまた、悪魔と言っても過言ではない。


「俺は! 俺は……たしかにお前らと契約して──復讐を果たした。だけど、コイツは復讐対象じゃない。コイツは俺の復讐には関係ないんだ!」


「……関係ないということはないだろう。お前が復讐対象にイジメられる間も、直接庇おうとはしなかったのだろう……」


「だけど、本当に何もしなかった奴よりはマシだった。今まで耐えることと恨むことしか考えられなかったが、復讐を終えた今なら、別のことも考えられる」


 少年は剣を陽炎に向け、告げる。


「──復讐の次は恩返しだ。お前らにとっては仇返しになるかもしれないが、それでも俺はやりたいことをやるんだ! 俺が何をしようと、お前らには関係ないだろう!」


 陽炎は何も言わず、少年を──少年の持つ剣を注視した。


 少年の復讐に燃える黒い心を表していた剣身は、透き通るような白い輝きを見せ始めている。


 そのことを確認した、陽炎は自身の武器を取りだし、姿をいっそう隠蔽して身を隠す。


「……お前に勝てると思うか……」


「勝ってみせるさ。相棒も俺の意見に賛成だと言っているからな。お前の力、昔の持ち主たちに見せてやろうぜ」


「……せめて、足掻いて見せろ……」


 一瞬の沈黙、両者は攻撃の瞬間を待つ。


「……カヒュー」


 リッドから再び空気が漏れたその瞬間──両者は高速で動いた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 少年と陽炎の闘いは苛烈を極めた。

 白と黒の靄を操り剣を振るう少年と、光と影を操り多彩な暗器を放つ陽炎。


 白い靄は防御を、黒い靄は攻撃を司り、暗器は靄に触れると盾にぶつかったかのように弾かれる。

 光は回避を、影は放出を司り、靄と共に放たれる空飛ぶ斬撃はことごとく躱される。


 リッドの苦しみは少しずつ深刻な状況へと向かっていき、その光景が少年の中で思考の鈍りとなって表れていく。


「……弱い、弱すぎる。これぐらいの力であれば、すでに経験済みだ……」


「……うる、さい。まだ、終わってない」


「……いや、終わりだ。見ろ……」


「──ッ! り、リッド……」


 リッドは戦いの間に衰弱し、今では声も上げられないような状態になっていた。


 体から完全に力が抜け切り、眼は虚ろな状態で宙を彷徨っている。


「……この空間内では、たしか現実に影響があるらしいな。ならこの場で死んだと強く認識した時、どうなるのだろうか……」


「アァ、アァァァァァァァァァァァァ!」


 剣から生成される靄の色の比率が変わり、白色の靄が一気に減っていった。


 黒色の靄が今まで以上に宙に散布され、陽炎を点では無く面で攻めていく。


「……外れか。先ほどまで、復讐に燃えていた奴とは思えない脆さだ……」


 陽炎は靄をスイスイと躱し、少年の元へと少しずつ近づいていく。


「……あの方の期待に沿えないのならば、責任を取ってもらわねば……」


 影を靄へと飛ばし、仕込んだ仕掛けを発動させて爆風を起こす。


 靄は一瞬少年の周囲から消失し、隙だらけの少年だけが残る。


「……これで、終わり──ッ!」


 心臓にナイフを突き立てようとした瞬間、嫌な予感を感じた陽炎は高速で後退する。


「……それでこそ、あの方が選んだ逸材。あの方は、これを待っていたのか……」


 陽炎が見つめた先──そこには、眩い光を身に纏った少年がいた。



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