偽善者なしの水着イベント後半戦 その13
祝600話!
これからもAFOをよろしくお願いします!
少年は焦った。
ここに彼女は居ないはずだったのだから。
少年の復讐に彼女は関わらせない……あくまで獲物だけ復讐する、そう決めていた。
「グラム、ジース、アポロ、ユーン……みんなヒューリ君がこんな風にしたの?」
しかし、現実は異なる。
目の前に、たしかに彼女は居るのだ。
いったいなぜ、などと問う必要はない。
それは、犯人が説明するだろうから──
「……おい、どういうことだ。陽炎」
そう、少年は彼女の後ろ辺りに詰問する。
「……決まっているだろう、これもまた儀式の一つだ……」
彼女の後方では、空気が歪める形でナニカがいた。
姿は見えずとも、そうした環境の変化が少年に存在を感づかせた。
陽炎と呼ばれた存在は、懐から結晶を取りだしながら答える。
魔力を注ぎ込まれ、中に仕込まれた魔方陣が投影されていく──彼女を中心として。
「え? あ、あの……」
「……あの方に誓ったはずだ、完璧な復讐を果たすと……」
「だからこそ、俺はアイツらを──」
「……そう、コイツはお前を救わなかったのだろう。ならば、お前の復讐対象だ……」
「ち、違っ!」
何も違わなかった。
強く否定することもできず、少年は詰まるように息を止めてしまう。
そこに重ねるように続けられる。
「……お前の意志がどうであれ、あのお方はそうお考えだ。ならば、あのお方から力を授かったお前には、そうする必要がある……」
「な、何を言って……」
「……何もしなかった罪は、何もできずに死ぬことで贖わせる。それが、あの方のご要望だ。お前はそれを、何もせず見ているだけで構わない。手を汚す必要は無い。救おうとした者が救われない、実に痛快だ……」
「うぐっ──」
魔方陣はそうしている間にも輝きを放ち続け、彼女は突然苦しみながら倒れた。
声を上げることもできず、息が漏れる音だけをカヒューと鳴らしている。
「……魔方陣には、少しずつ体を衰弱させる効果がある。最後には死んだと思えるぐらいの激痛が走り続けるが、死ぬことは無く永遠の苦痛として残る。止める方法は唯一つ、発動者を殺すことだけだ……」
「……悪魔め」
「……悪魔、悪魔か。仮に悪魔だとして、それと契約をしたのはお前だろう……」
そう、陽炎の言う『あの方』と契約をしたのは、少年自身である。
その者や、その使いである陽炎を悪魔呼ばわりするということは、彼らと手を組んだ少年もまた、悪魔と言っても過言ではない。
「俺は! 俺は……たしかにお前らと契約して──復讐を果たした。だけど、コイツは復讐対象じゃない。コイツは俺の復讐には関係ないんだ!」
「……関係ないということはないだろう。お前が復讐対象にイジメられる間も、直接庇おうとはしなかったのだろう……」
「だけど、本当に何もしなかった奴よりはマシだった。今まで耐えることと恨むことしか考えられなかったが、復讐を終えた今なら、別のことも考えられる」
少年は剣を陽炎に向け、告げる。
「──復讐の次は恩返しだ。お前らにとっては仇返しになるかもしれないが、それでも俺はやりたいことをやるんだ! 俺が何をしようと、お前らには関係ないだろう!」
陽炎は何も言わず、少年を──少年の持つ剣を注視した。
少年の復讐に燃える黒い心を表していた剣身は、透き通るような白い輝きを見せ始めている。
そのことを確認した、陽炎は自身の武器を取りだし、姿をいっそう隠蔽して身を隠す。
「……お前に勝てると思うか……」
「勝ってみせるさ。相棒も俺の意見に賛成だと言っているからな。お前の力、昔の持ち主たちに見せてやろうぜ」
「……せめて、足掻いて見せろ……」
一瞬の沈黙、両者は攻撃の瞬間を待つ。
「……カヒュー」
リッドから再び空気が漏れたその瞬間──両者は高速で動いた。
◆ □ ◆ □ ◆
少年と陽炎の闘いは苛烈を極めた。
白と黒の靄を操り剣を振るう少年と、光と影を操り多彩な暗器を放つ陽炎。
白い靄は防御を、黒い靄は攻撃を司り、暗器は靄に触れると盾にぶつかったかのように弾かれる。
光は回避を、影は放出を司り、靄と共に放たれる空飛ぶ斬撃はことごとく躱される。
リッドの苦しみは少しずつ深刻な状況へと向かっていき、その光景が少年の中で思考の鈍りとなって表れていく。
「……弱い、弱すぎる。これぐらいの力であれば、すでに経験済みだ……」
「……うる、さい。まだ、終わってない」
「……いや、終わりだ。見ろ……」
「──ッ! り、リッド……」
リッドは戦いの間に衰弱し、今では声も上げられないような状態になっていた。
体から完全に力が抜け切り、眼は虚ろな状態で宙を彷徨っている。
「……この空間内では、たしか現実に影響があるらしいな。ならこの場で死んだと強く認識した時、どうなるのだろうか……」
「アァ、アァァァァァァァァァァァァ!」
剣から生成される靄の色の比率が変わり、白色の靄が一気に減っていった。
黒色の靄が今まで以上に宙に散布され、陽炎を点では無く面で攻めていく。
「……外れか。先ほどまで、復讐に燃えていた奴とは思えない脆さだ……」
陽炎は靄をスイスイと躱し、少年の元へと少しずつ近づいていく。
「……あの方の期待に沿えないのならば、責任を取ってもらわねば……」
影を靄へと飛ばし、仕込んだ仕掛けを発動させて爆風を起こす。
靄は一瞬少年の周囲から消失し、隙だらけの少年だけが残る。
「……これで、終わり──ッ!」
心臓にナイフを突き立てようとした瞬間、嫌な予感を感じた陽炎は高速で後退する。
「……それでこそ、あの方が選んだ逸材。あの方は、これを待っていたのか……」
陽炎が見つめた先──そこには、眩い光を身に纏った少年がいた。





