偽善者と水着イベント後半戦 その08
さて、『庵楽』に辿り着いたんだが……。
「す、凄い数の客だな」
少し大きめに建てた海の家から人が溢れ出し、燦々と照りつける日差しの中、長蛇の列に並ぶ者が続出していた。
どれだけ眷属たちが必死に捌こうとも、プレイヤーの数は膨大だし、恐らく普通の手段ではこれらすべてを退かすこともできない。
「ま、とりあえず休業にしますか。少し空けてもらえれば、話はすぐに済むし……」
そういえば営業時間について適当にしか説明してなかったなーと思いつつも、念話を繋いで一旦客を店の外に出すように指示する。
すると、暫くして客がぞろぞろと店の中から出てきて、長蛇の列の先頭の部分に合流していく。
フーラとフーリがペコリと頭を下げて詫びているので、誰からも文句は出ないし、その意見も封殺される。
なのでどんな客も大人しく、習性的に並ぶのである。
うん、こうして真面目に並んじゃうところが、日本人の性なんだろうな。
そう思いながらも、身を隠して『庵楽』の中へと入店する。
「メルス様!」
「……いらっしゃいませ」
「ああ。二人共、よく働いてくれているな。よしよし……」
「め、メルス様のためになれたなら、良かったです」
「……嬉しい」
出迎えてくれたフーラとフーリに、感謝の意を籠めて頭を撫でる。
……ここで子供じゃないと言って、手を弾かれていたら泣いたな(もちろん俺が)。
うん、夢現空間で着ていたメイド服を改造したんだが、やっぱり美少女は何を着ても最高に似合っている。
スカートをセミショートにしたり、肩を露出させてみたりして、男心をくすぐれるようにしてみました。
それをあどけない姉妹が着て、客引きを行う……うん、ちょっと危ないかな?
レイドボスを守ることとは別件で、この海の家を使って調べたいことがあった。
その調査を二人に頼んでいたのだが、制服着用も込みで受け入れられてしまったのだ。
「えっと、客の中で渡しておいた魔道具に反応があったのは、大体どれくらいだ?」
「はい。かなりの数の人が来ましたけど、赤色の人はいませんでした」
「……でも、他の色なら光った」
「へー、やっぱりか。完全な状態ならともかく、半端な状態ならまだ普通に並んだりできるだけの理性はあるか──こっちの人は来ていたか?」
「はい、プレイヤー以外にも来ていまし」
「……大人気、だから気になった?」
「そりゃあ、ありがたいことで」
そう話しながら、先ほどの言葉を思う。
俺が渡したのは、侵蝕度別に人造魔石が光る魔道具だ。
もっとも侵蝕率が高い場合は赤、そこから七色の順で侵蝕率別で光る色が変わるのだ。
ちなみにだが、今までに会った奴らで色を分けてみると──『ユニーク』のメンバーが紫か青、シャインが水色、シガンが黄色だ。
赤色は本当にヤバく、【固有】スキルの性質が持ち主の行動全てを決めてしまうので、店に入って物を買うなんて高度なことはできない。
だからこそ、試してみたんだが……ま、来ない方が安全か。
ちなみに俺が使うと、マーブル模様ができるので判定できない。
侵蝕、やっぱりされてるんだろうな。
「フーラ、フーリ。ちょいと店を大きくするけど、対応できそうか? 店員も増やすし、敵意に反応する結界も用意しておくが……」
「それだけしていただければ充分ですよ!」
「……変な人ばっかりで疲れてた」
「ふ、フーリ!」
姉が妹を叱ろうとしているので、そっと頭に手を乗せて沈静化させる。
そして、向き合って謝っておく。
「おっと、ゴメンな。俺もまさかあそこまで人気になるとは思ってなかったんだよ」
「……お詫び?」
「ああ、イベントが終わったらもう一回、眷属みんなでどこかの海にでも行ってみるか。邪魔者は誰も来ないし、スキルを使って遊ぶのもOKだ」
「……楽しみ」
フーラとフーリとの会話はここら辺で切り上げて、店の奥の方へと進んでいく。
「あら、魔王様。ちょうどヤンが発狂しかけてたところよ」
「メルス! メルスメルスメルスm──」
リッカに言われて声が聞こえる先を見てみると、狂ったように俺の名前をコールして、料理を作り続けるヤンが確認できる。
負担をかけすぎたのだろうか。
「こっちも従業員を増加した方が良いか?」
「まあ、やれないことは無いんだけど……見ての通りね」
「メルスニウムが足りないんだよ! どいつもこいつもこっちを観察するような目を向けて来てさ、本当止めてほしいよね!」
……お、俺としては、先に包丁を振り回すのを止めてほしいかな?
メルスニウムに関しては置いとくとして、たしかにそう考えると俺も嫌だ。
女なら別に良いが、男が俺の家族を舐めるように見ているだと?
……うん、ヌッコロ案件だな。
おっといけない、対応策を考えねば。
「……ガラス張りは止めておくか? 前に説明したけど、客が料理を安全かどうか見れるようにしておいて、美少女が作ってるって付加価値も付けようとしてたんだけど」
「せめて、時間を限定してほしいわ。ゲリラでしか観れない方が盛り上がるでしょ?」
「まあ、そうだな」
「ヤンの発狂率も下がるし、何よりこっちで調整ができるようになる。悪くない話よ」
無いとは思うが、煉獄の炎を客に振り回すのはさすがにな……。
アイデアは、受け入れておいた。
「リッカの方でやる時間を決めるか? それとも、一定時刻ごとに開けるか?」
「前者でお願い。そっちの方が楽だわ」
「あいよ、すぐに仕掛けを作るから待っていてくれ」
そうしてリッカとヤンとの会話をしつつ、ガラスに幾つかの仕掛けを施してから更に奥へと進んでいった。
「レン、アン。売り上げの程は?」
「主様の場合は元が低コストでしたので、当然黒字。おまけに家が建てられますよ」
「いや、家も低コストで造れるから」
「メルス様。それを言うと、物で例えることができなくなります。金銭は物を買うために使う物ですので、すべての物を創れるメルス様には本来不必要ではないですか」
……(生産神の加護)って怖いな。
たしかに、なんだか金銭感覚がズレてきた気もする。
適当にある金を出せば大抵の物は買えるだろうし、そもそも金を使って無いし。
数字に(政治関係で)目を通すだけで、俺自身は全然金に触れていない。
「一度リーンとサウンド王国で市場の違いでも確かめてくるとしよう。……何か伝えなければならない、取り立てて言わなければいけないこととかはあるか?」
「でしたら、営業時間の方を定めておいてください」
「そこは現場の判断で頼む。その間に店の拡張はやっておくからさ」
「分かりました。ですが、あまり広くしすぎるのも問題ですからね」
この後、店の広さを延ばして従業員を用意したら、また別の場所に移動した。
えっと、次はどこに行こうか?
忘れた方へのキャラ&用語(?)紹介 折角なので持っている【固有】も
フーラ:英雄姉妹(姉) 奴隷から英雄へと、成り上がっていく運命だったが…… 【英雄】の持ち主
フーリ:英雄姉妹(妹) 姉の英雄道のため、礎として死に逝く運命だったが…… 【英雄】の持ち主
『ユニーク』:AFO開始直後に【固有】スキルを手に入れたプレイヤーの大半が入ってできたギルド 主人公も所属している
シャイン:扉を開いた勇者(TS) ハーレムギルドの主 【闇勇者】の持ち主
シガン:【固有】にかなり侵蝕されていた少女 女性限定ギルドの主 【未来先撃】の持ち主
リッカ:主人公を魔王様と呼ぶ幻魔族の少女 メイドである 【精神魔法】の持ち主
ヤン:明るいヤンデレ 足が生えてる蛇娘 【嫉妬】の持ち主
レン:ダンジョンコアの擬人化 第四世界の管理人 【ダンジョンマスター】の持ち主
アン:種族[不明]の意思が擬人化 機械っ娘 【知識】の持ち主
まあ、一部のスキルは成長しているんですが……敢えて過去のデータで。





