偽善者と水着イベント前半戦 その07
「……むっ。メルス、何か来るぞ」
「へ? …………あ、本当だな」
クエラムの言葉を聞き、<八感知覚>で周り一帯を探ってみると……大量の魔方陣が展開されていることが分かった。
それと同時に、どこからか声が──
≪ゲート:■■■■■■■■に生命体を確認
……認証失敗 侵入者と断定
戦闘力……規格外と推定
防衛プログラム起動──完了≫
すると、展開していた魔方陣から何かが飛び出してくる。
白い翼を生やした、無機質な人形たち。
天使、人はそれらをそう崇めていた。
「どうする、メルスよ」
「俺としては、二人でここを突破して先に進みたいんだが……やっぱり、あれを言ってみたいか?」
「当然だ。なんだか頼られている気がして、己も一度してみたかったのだ」
「ハァ……。死亡フラグだからな、あれは。じゃあ、ここはクエラムに任せるからな」
体が一瞬光ると、俺の姿はいつもの平凡なモブへと変化する……まあ、変身魔法を解除して本来の姿に戻っただけだが。
この先で何が起こるか分からないし、とりあえず魔力を温存しておかないとな。
「それじゃあ、行ってきまーす!」
「うむ、行ってらっしゃいだ」
クエラムとそう言葉を交わし、現れた天使には目もくれずに扉の先へと進んでいく。
「ゴホン……、では言わせてもらおう──ここを通るならば、己を倒してからにしろ!」
──最後に、そんなことを言うクエラムはしっかりと見ていたがな。
◆ □ ◆ □ ◆
???
「……って、いつもの空間なのか?」
その場所は、何も存在しない真っ白な空間であった。
入って来た際に使ったドアは消え、ただただ地平線の彼方まで白色が続いている。
「おーい、誰かー! 誰かいませんかー!?」
インターホンも無い場所だが、毎度こうして人を呼んでいるしな。
大声を張り上げて人を待つと──
≪はーい、ちょっと待っててくださいね~≫
先ほどと似たような、だが感情が籠められた声が脳裏に響いた。
これ、ゲームアナウンスだよな?
そういう使い方って、私的利用って言うんじゃなかったっけ?
ま、今の内に確認しておこうか。
ここは、GMたちがプレイヤーと話を擦るための場所だ。
本来は、GMコールで判明した案件の犯人や問題児を呼び、注意勧告や断罪などを行うのがこの場所の存在意義らしい。
いくら自由と言っても、限度と言うものがあるのだろう……というわけでもなく、あくまでネトゲで禁止されていることを実行した者を裁くだけ。
それ以外のことならば、呼ばれることはないとのことだ。
──そこら辺はAFOクオリティ、まさに自由な世界であった。
そして、それ以外の用途となると……俺とGMの密会の場所だな。
細かいことは聞かなくても分かるだろう。
(ん? そういえば、もう一つ機能があるって言っていたな。たしか……)
「おっ待たせしましたー!」
ピカーンと煌く発光エフェクトと共に、とても明るい声がこの場に木霊する。
「貴方がメルスさんですね? 貴方のことはレイ姉ぇから聞いていますよ」
「……そういう貴女も、レイから聞いているよ。天真爛漫な人だって」
「ぷっ、ハハハハッ! もう、レイ姉ぇから聞いたのはそれだけじゃないんでしょ? どうせシンク辺りが、もうちょっと詳しく言ってるんだしー」
「……無駄に明るいってのも、本当みたいだな。ちなみに正解、シンク談だ」
「イイねー! プレイヤーなんてさ、みんな担当がわたしだと舌打ちするんだよ? まったくもう、こっちだって好きでやってるわけじゃないのにねー」
そう言って笑いながらクルリと回ると、薄らと緑色に光るワンピースと短髪が、ふんわりと宙に舞う。
……うん、最初の丁寧な口調はどこにいったんだか。
彼女は『GM04』。
レイやアオイの妹であり、シンクの姉に当たる四番目のGMだ。
見た目はそうだな……髪と目が若葉色な、スポーツ系少女って感じか?
緑色なのは、風属性を担当しているからだと思う。
顔つきはキリッとしてるんだけど、なぜか面白いって感じの印象が強い……あ、頭頂部にピョコンとアホ毛が生えているからか?
「それで、メルメルならわたしに名前を与えられるの? いつまでも『GM04』なんてカッタイ識別コードで呼ばれるのは、もう疲れたからねー」
「め、メルメル?」
「あれ、駄目かな? わたしが担当したプレイヤーにそういうのを言うと、たまに喜んでくれたんだけど……」
それは……一部の業界の方だけだと思う。
「いや、別にどう呼んでくれても構わないんだが……急で驚いてな」
「そっか! なら、メルメルで決定! それじゃあ、今度はメルメルがわたしに名前を付ける番だよ!」
ワクワクしているのが、よく分かる目だ。
彼女の目が、なんだか本当にキラキラしている気がするよ。
名前か、名前ねー。うーん……。
魔力で宙に、考えた名前を描いてみる。
「──『フーカ』ってのでどうだ? お前の性格を名に表してみたんだが……」
そして、空にはそれを漢字にした物が表示されていた。
彼女はそれを見て……。
「ふーん、『風花』かぁ~。うん、良いと思うよ!」
「……毎度思うんだが、こんな簡単に決めて良いのか? 生涯ずっと使うかもしれないんだろ?」
「もう、メルメルは分かってないなー。面白ければ、全て良しなんだよ。わたしは名前という新鮮なネタが手に入る。メルメルは……まあ、守護を貰えるしね」
「……名前がそれで良いのは分かった。だけど、別に守護はくれなくても良いぞ」
本音を話すと、一瞬だけ表情を無に変えるGM04、改めフーカ。
だがすぐに明るい表情になると、首を傾げて尋ねてくる。
「ほえ、加護でもプレイヤーは欲しがってたよ? メルメルは要らないの?」
「いやいや、力だけなら異常な程に有しているから充分だ。それなら、最低限フーカと連絡さえ取れれば問題無いな」
「もしかして……秘密の密会? メルメルって、見た目はモブみたいなのに意外と肉食系なのかな?」
事実だから、微妙に頬が引き攣る。
そんな俺に、役知り顔を浮かべるフーカ。
普段だったら、即座に否定していたのだけれど……。
「──ああ、強ち間違ってないな。俺は、お前ともっと仲良くなりたいんだ」
「へー、どんな風に?」
「そうだな……一緒にゲームをやったり、一緒に悪戯でも考えたり……そういうの、フーカは嫌か?」
「ううん! やってみたいし、考えるだけでワクワクするよ! ……でも、どうしたわたしと? メルメルにはいっぱい眷属(?)がいるんでしょ?」
そうだな、たしかに頼めばつきあってくれる奴らはいっぱいいる。
「アイツらもやってくれるんだけどさ……全員が優秀な奴だからな。最初は良いが、だんだんと俺だけが不利になるんだよ。何度もやれば勝てるんだけど、勝てるようになるまでやるってのも時間がかかってな。でも、フーカとだったら対等に、それも楽しみながらできると思うんだ……駄目か?」
「なるほどねー、そういうことなら分かったよ。あと、その言い方だとわたしが馬鹿って言ってるみたいだね。よし! わたしがメルメルの遊び相手になってあげよーじゃーないか!」
「ハハーッ! ありがとうございますー!」
「うむっ! よきに計らえ!」
調子に乗って平伏してから、俺とフーカはさっそく遊び始めた。





