偽善者と五回戦 その後
視界が戻る。
野郎の心象世界から出て、元居た闘技場に認識が帰ってきたのだ。
目の前には槍を突き刺した『物真似』がいる……はずだった。
「あれ……、どうなってるの?」
目の前に居るはずの『物真似』はおらず、俺はなぜか右手に握った『無槍』を振るい、会場のあちこちから放たれる魔法やスキルを捌いている。
左手にはお持ち帰りした魔剣が握られており、現実でもたった今、魔力による仮初の契約が結ばれていた。
《おや? お早いご帰還ですね》
「(なぁなぁアンさん、こりゃあいったいどういう状況なんでござんすか?)」
困ったときは、アンに訊くのが一番だ。
《そうですね……まったく動かない二人に会場が揉めていましたので、代わりにわたしがメルス様を演じて凌いでおりました。その後他の眷属たちが干渉してきまして──なんやかんやの末、現在の状況に至ります》
「(……俺はその、、なんやかんやの部分が知りたいんだよ)」
《主犯格が判明しておりませんので、一部の愉快犯の仕業だとお考えください》
まあ、別に良いけどさ。
『無槍』に吸収系の力を持たせ、消費した分のエネルギーを補給していく。
心象世界での闘いとか、魔剣との契約でだいぶ消耗したからな。
既知の能力は、全部吸収で良いか。
放たれた技の数々を眼で視て捌いていく。
欲しいスキルはこの身で受けて解析、要らなスキルは槍に触れさせてエネルギーを吸収する。
一息吐くと、再び念話を繋ぐ。
「(それで、大会の方は?)」
《『物真似』の様子がおかしいとのことで、三位決定戦とエキシビションマッチは明日に延期されました》
「(へえ、そりゃあ良かった)」
《この会場に、イベント時に確認された偽者の反応は確認されていません。全くの別人、あるいはギリギリで生成されるかが当て嵌まるかと》
「(生成って、自分のコピーなのに同情を覚えずにはいられないな。要所要所でしか必要にされない虚しさ……うんうん、実に俺らしいところが可哀想だ)」
《メルス様に限っては、自業自得な部分が多いですがね》
まったく、失礼なことを言う眷属だ。
たしかにな、最近の俺は何もすることが無くてボーっとしていることが多かったぞ。
赤色の世界や森人との交渉などもやっていたが、結局詰めは眷属が動くのだ。
俺はあくまで仕立て役、物語で言うならば起承にしか出てこないようなキャラだな。
コピーは一応転結ぐらいには出られそうだが、それでも中途半端な登場という点では変わりない。さすがは俺のコピーだ。
《では、御自身で行われるのですか? 世界間の変化や差異の調査、それに森人族と民達との折り合いや条約の締結、教育や情報交換と言った事柄を──》
「(…………すいません、俺みたいな奴じゃあやっぱり無理でした。これからも最初の方だけやらせて頂ければ充分ですので、申し訳ありませんがよろしくお願いします)」
《はい、承知しました》
くっ、次こそは口撃で勝って見せる!
そんな念話間で行われた口撃はさておき、未だに攻撃の方は続いていた。
関係者からの攻撃は無いが、それでも大会参加者の一部から攻撃がされている。
ちゃんとした証拠もある、だって客席じゃない場所から攻撃が来ているんだから。
簡単に言うと──上から降り注ぐのが大体観客の攻撃で、それ以外は全部参加者の攻撃だと思われる。
「(えっと、アンはどんな口調で挑発してたか分かるか? さすがに急なテコ入れはビックリされるだろうし)」
《そうですね……たしか『へいへいこの──が! お前の自慢の────は────なのかよ!! テメェらもテメェらで──────じゃねぇか!!』などと言っていましたね》
「(放送コードに引っかかりすぎだろ。今時ヤンキーでもここまで言わないぞ)」
《資料だけなら図書館に沢山ありますから》
適当な発言は止めてほしいな。
それに前半、俺も心が折れそうになったから気をつけてね。
「(ま、いつまでも黙っていると怪しまれるだろうし……って、そういえばこれ、いつまで逃げれば終わるんだ?)」
《…………神殿に戻るまでかと》
「(死んじゃうから! 今の俺じゃあ死に戻りが転生と直結しちゃうから!)」
《冗談ですよ。……ほら、ちょうど聞こえて来ますよ?》
≪残すところ後一分、皆様頑張って狙い当ててくださいね!≫
「(え? ……これ、運営公認なのか?)」
まさかの、公認でイジメですか!?
《メルス様の言葉は、運営神や運営の方々にも届いたのでしょう。当てたら景品と言う言葉に釣られて殆どの方が動きました。関係者は当然、後が怖いとの見解で辞めましたが》
「(……正解だよ、やっていたらとっちめていただろうさ)」
生徒たちとやった屍鬼の強化版、そんなものでもやろうか。
鬼は俺と俺のコピー、捕まったら罰ゲームルーレットでも回させそうか……ふははは。
「(ま、とりあえず理解できた。アンは解析作業の方の手伝いに回ってくれ。魔剣も仮の契約だからいつまで居てくれるか分からん。早い内に、今の分だけでも頼む)」
《了解しました、御武運を》
そう言って念話を閉じ、一度“抑力の霧”で周囲の攻撃を一旦遮断する。
そして、腹に力を入れて──叫ぶ。
「おいおいおいおい、もうこれでお仕舞いかよ! 所詮────なお前らじゃ俺に攻撃を当てることすら不可能だったんだな! それにそこの────共! 力を入れるのは──の時だけかよ! そんなんだから、いつまで経っても────なんだよ! もっと──をやれよこの────がぁ!!」
するとまぁ、みんなのげんきがもりもりわいてきたよ。
──わーい、みんなやればできるフレンズだったんだね。
残り時間が0になるまで、こうしたやり取りが続いた。
――の中身は皆様のご想像にお任せします。
次回からはこの章最後のバトル――ラスボス戦です。
描写不足は皆様のイマジネーションで補ってください。





