偽善者と五回戦 その03
「(……とは言っても、制限かかってるし。まあ、程々にやればいいか)」
《台無しですね》
「(全力でやるなんて言ってないんだから、別に良いじゃないか)」
遠く離れた場所にいる『物真似』に向け、武器を構えて──突き出す。
捻るように前に押すと『物真似』の鳩尾に当たり、空気を吐かせる。
「ぐ、ぐぉおおおお! て、てめぇ……今度は何をしやがったぁあああああ!!」
「当ててみてください、それか真似てみてくださいよ。ねえ、『物真似』さん?」
「な、舐めやがってぇエえエエええエエ!」
あ、壊れた。
目がイッちゃってる人のヤツだよ。
……まったく、侵蝕されすぎだろ。
武器を一度引っ込めもう一度、横に払うように振る。
大気を揺らす程の轟音が鳴り響き、『物真似』が弾かれるように吹っ飛ぶ。
「【亜空転移】ィいイいいイイイい!!」
「わぁお、便利」
自分の吹き飛ばされる方向に空間の罅を創りだし、そこへ入ることで飛ばされる勢いをその中で減衰させた。
その後勢いが治まってから上空方向に現れて、元の位置に着地する。
疲れ切っている様子を視るに、あまりコスパは良くないのだろう。
それにしても、亜空への転移ねぇ……。
亜空は物理法則が通用しない空間のことだよな、そこで慣性の法則的なものが消えれば勢いも無くなるのか?
地球において物理法則は何重にも存在しており、魔法があるこの世界でも一部がそのまま法則として機能している。
エントロビーやら万有引力やら、まあ色々あるわけだが……それならそれで理学魔法でも充分か?
《……解析完了しました、対【亜空転移】用に“抑力の霧”をアップデート──適応》
「(うん、なんか罪悪感が湧いてくるな)」
そう言いながらも辺り一面に無色の霧を散布し、同じ手は使えないようにしていく。
そして武器を再び初期状態で構え、今度は縦に振り下ろす。
「アぁアあアアああアアアあああ!!」
もう言葉も発せていない『物真似』は、剣でそれを受け止める。
強烈な重圧に足元に罅割れを作るが、それでも踏み止まっているんだから凄いよな。
適当なところで振り下ろしを止め、武器をまた戻す。
『物真似』は荒い息を吐きつつ、こちらを睨み付けるように見ていた。
「ヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセ……ヨコセェエエエ!!」
「(あーあ、完全に狂った。もうどうするんだよあ、これ)」
《まだスキルは隠しているでしょう。すべて曝け出すまでお待ちください》
そうは言ってもなー、『物真似』の魔剣がギラギラとどす黒い色で輝いているぞ。
持ち主を乗っ取ったのか? それならそれで、面白くなってきたから別に良いけど。
というか『物真似』さんよ、寄越せってのはつまり奪うってことだろ? 全く、領分を弁えて欲しいよ。
──【強欲】なのは、俺の仕事だろうに。
「ヨコソェエエエエエエエエ!!」
「……ウザい、行くぞ“無槍”」
今まで振るい続けた武具の名を呼ぶ。
薄らと槍の周りの空気が歪み、俺の呼びかけに呼応している。
虚にして実、実にして虚の性質を持つこの槍は、透明で伸縮自在な便利な代物だ。
敵が遠くにいるならば長く伸ばし、それを掻い潜って来たならば短くする。
透明であるが故にそれを視認することは叶わず、真実を知らぬままに死へと旅立つ。
え? 俺の動きでバレる?
ノンノン、そんな甘い考え捨てなさいな。
『物真似』は今まで以上の動きで、俺を攻め立ててくる。
右、下、回転からの左、右、上、左……暴力的な荒々しさの中に、凍てつくような冷静さが感じ取れた。
スキルと魔剣の侵蝕を受け、今の『物真似』はどうなってるんだろうな? そこだけ少し、気になるや。
《二つの意志は現在、メルス様を倒すという目的の元に手を取り合っているようです》
「(完全に悪役ポジだな。最後には本人の意志も混ざって覚醒ってか?)」
《……楽しみですか?》
「(ああ、当然じゃないか!)」
放たれる殺気などどうでもいいし、攻撃はすべて反射眼で捌いている。
だから早くしてくれよ、俺もたまには親切なことをしたいんだよ。
どんな奴の技も真似続け、並み居る猛者の権威を貶める最悪の存在。
思いも、歴史も、そして意思を踏み躙り、真似た先に何があるかは分からない。
だからこそ、それをやった先が気になる。
ラーニング+魔剣持ち? 大丈夫、主人公ぐらいなれるさ。
ちょいと弄らせてもらうから、こっちでは俺の楽しい傀儡になってくれよ!
「(『物真似』を補助するスキルは……あ、そうだ──“精神破壊”)」
「グォン!」
眷属の固有魔法──精神魔法を使い、一時的に『物真似』の精神を破壊する。
あ、ほら、元に戻すスキルもいくつかあるからさ、たぶん大丈夫だろう。
「さて、さっそく弄るか……って、そんなに簡単にさせてはくれないよな」
「ヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセ……ヨーコーセェエエエエエ!!」
《『物真似』の精神しか破壊できなかったようですね。スキルの意志と魔剣の意志、それぞれを折らなければ駄目かと》
再び攻めてくる『物真似』を、槍一本で捌き続ける。
途中、俺の動きを真似したり、コピーしたスキルを使っていたが、そこら辺はアンに任せ、面白いことのために思考を集中させる。
「仕方ない……かな? それじゃあ──無理な方法で入るか(──“精神侵入”)」
槍を媒介に発動させ、瞬脚で一気に切迫した『物真似』に一刺し。
そして俺は、『物真似』の心象世界へと侵入した。





