偽善者と五回戦 その02
最初に動いたのは、『物真似』だった。
地面を力強く蹴りだし、勢いよくこちらへ向かってくる。
「ほらほらどうした、素手で勝てるなんて思うんじゃねぇよ!」
「うっ!」
武具を持っていることが分からないように調整しながら、振るわれる斬撃の数々を捌いていく。
この時点で俺の捌き方にクセがあることを見抜かないと、『物真似』が勝つことはできない。が──
「おいおい、防戦一方じゃねぇか。とっととスキルでも使った方が良いだろ? ほら、早く使ってみろ、よ!」
「がふっ──」
一瞬の隙を狙われ、『物真似』の脚が腹に喰い込んで飛ばされる。
全然気づいていないというか、スキルを使う方法でしか勝てないと思っているのがなんとも滑稽だな。
「う、う……あっ」
「調子に乗るなよ。俺がお前に求めてるのは正々堂々の勝負なんかじゃねぇ、圧倒的力による蹂躙ってヤツなんだよ。お前がその力を振るわない限り、絶対に俺に勝つことはできねぇ。──早く使わねぇと、ぶっ殺す」
「ひ、ひぃいいっ!!」
『物真似』の放った威圧に合わせて、怯えた反応を示していく。
顔は引き攣り、体は震える……うん、完璧な演技だな。
だが俺のそんな反応を見た『物真似』は、物凄くイラついた表情を浮かべていた。
「つまんねぇ、つまんねぇ……つまんねぇなお前。ハァ、もう死ねよ──“断罪”」
ユウの持つ断罪の力が、剣に宿った。
演技を続けながら、(鑑定眼)にちょっぴりの(神気)を混ぜてそれを調べていく。
(……へー、やっぱり誓約があるのか)
ストック数と劣化、それに侵蝕率の加速。
だけど、それを置いておいても良いと思える利便性だな。
能力のコピーは当然のこと、姿や動作のコピーもできるらしい。
【傲慢】や【臨模】ではスキルしか真似れなかったので、別の視点から考えれば上位スキルでもあったんだな……負けた気分だよ。
そうこう解析を楽しんでいる間に、ガクブルな俺の元に『物真似』がやってくる。
失禁寸前、みたいな様子の俺を見て舌打ちしてから、そのまま縦に俺を切り裂いた。
四肢を切り落とされて、二つに裂かれているのだが、何も起きない。
「……おい、なんで終わらねぇ」
「あ、あぁ、あぁ……!」
「チッ、なんでだよ!!」
さらに惨たらしく切り刻み、『物真似』は試合終了の合図を求める。
だがしかし、それは一向に訪れることは無かった。
「と、当然です。僕はまだ、死んでませんから。勝負はまだ、これ、からです」
「どういうことだ、たしかにこのスキルは強力だった。だが、お前はスキルを使っていないはずだろうが!」
コピーできたがどうかで把握しているんだろうが……なら、自分が使っている能力に関しても調べておけよ。
「だ、【断罪者】っていうスキルは、相手の業値に合わせて、い、威力が変わるスキルだと言われています。な、なら僕みたいなプレイヤーには、こ、効果がありません」
「……へえー。お前、結構知ってるんだな」
「こ、この大会に向けて、調べましたから」
いいえ、本人から訊きました。
というか『物真似』、俺の話を聞いている間もずっと切ってくるんだけど。
実害が無いから別に良いけど、怯えた演技がだんだんと面倒になってきたな。
「そうか、ならこれは知ってるか!」
お次は剣に嵐の力を纏いだす。
普通なら『職業:魔戦士』関係とでも答えれば正解なんだろうけど……ここまで自慢するってことは、違うか。
「……ぼ、僕の対戦者の一人が使っていた、風のスキルですか?」
「正解だ! 予選で使ってたからな、つい借りちまったよ! 【暴嵐】ってスキルらしいぜ。風を自由に操れるんだ」
嵐属性のスキルということは、基本の風をベースに雷属性が元なのか?
……いや、これは俺の魔法スキルとしての考えだけか。
荒れ狂う嵐は雨をも伴う。
水属性関係の力も混ざっているかもな。
「や、やっぱり──貴方は、スキルをコピーできるんですね」
「へっ、ようやく理解できたみたいだな。試合中に気づいた奴全員、すぐに恐怖に染まった顔をしていたぞ」
そりゃそうだ、少なくとも関係者にはそういう演技を頼んでいたんだから。
だいたい、スキルのコピーなんて俺がやったことあるんだから慣れているんだよ。
──そういう背景を知ってしまうと、コイツが可哀想に見えてくるよ(確信犯だが)。
「さぁ、早く死んでくれ!」
「……う、うわぁあ(──“転移眼”)!」
神のスキルをコピーできないのは調べてあるので、眼の力を用いて回避を行う。
振り下ろされた剣から暴雨と雷が狂ったように飛び出してきたが、薄皮程度に張っている魔力を用いて無効化しておく。
「おっと、まだ何か隠してたのか。なあ、もう一回見せてみろよ!」
「ま、負けません、貴方のような人の努力を踏み躙る人なんかには」
「そういうことは、もっと強くなってから言うんだなガキが!!」
そこ、ブーメランとか言うんじゃない。
風の力を借りて、剣から鎌鼬のような斬撃が放たれている。
脚を縺れさせ、素人のような逃げっぷりをしながら、もう少し詳しく調べていく。
【暴嵐】、すでにリュシルが解析を終わらせているスキルだから簡単に摸倣できた。
自身か指定した座標から、風や雷、大雨を
起こすスキルのようだな。威力や持続時間は魔力やレベルで変動し、自由に操作可能。
うん、たしかに便利なスキルだよな。
風には目に見える形が無いからこそ、発展する形を自由に設定できる。
いちおう自由性が高いんだ、風ってのは。
だけどそれも、あくまで本人が使っていた場合だ。
『物真似』の使う【暴嵐】は、やけに威力も無いし、動きが一直線だ。
劣化しているからだろうか、速度も足りずに俺の回避を許している。
「そらそらそら、どうしたどうした! 早く本気を出してくれよ!」
「──そうですね、分かりました」
「なん、だとぅぶふぅ!」
頼まれたからには仕方がないなー。
瞬脚で『物真似』の死角まで移動して、一気に腹を蹴り飛ばす。
さっきのアレ、結構ムカついたんだよね。
「て、てめぇ……一体何しやがる!」
「貴方は見たいんでしょう? 僕の力を。良いでしょう、今回だけは特別です」
「……上等だ。お前の力を暴き出して、ソイツで止めを刺してやるよ!」
「へえ、それはそれは、凄く楽しみですよ」
少しキャラも変わったが、いろいろと侵蝕されている『物真似』は気にしていない。
さぁ、次の段階に進もうか。





