偽善者と三回戦 直前
セイの要求は比較的簡単な物で、少し専用の道具を作るだけで済むことであった。
……なのに、どうして前日よりもいろいろとヤバかったんだろうな。
羽繕いぐらいなら、と思って引き受けた自分にキツく勧告したいところだよ。
「──あいよっ、一つ完成だ!」
「おお、この瞬間を待っていたぞ!」
なんだかリアクションのデカいご老人にカツサンドを売りながら、そう思う。
今日は前日中に仕込んだカツサンドを、新作のタレと共に売り捌いているぞ。
トンカツソース+マヨ、味噌ダレ、そしてカレーなどが新たに加わり、店はかなり繁盛していた。
「らっしゃい、仕込んでおくからタレの味を選んでおいてくれ」
「……分かった」
ちなみにだが、できるだけ多くの客を視たいので一人一個の制限がある。
高家の使いが買いに来たり、裏でいろいろとやらかしているような奴まで視れるんだから、楽しいったらありゃしないよ。
タレを塗る前までのところまで進めている内に、寡黙そうな男が使用するタレを吟味している。
……俺のような下等な一般ピーポーが出している店なのに、どこかの街の騎士長様が来ているんだから凄いよな。
「……では、カレーで頼む」
「あいよぅ、カレーだな」
香辛料の類は、(遺伝子改変)で生み出された物を使っている。
危険性が無いことは解析班が太鼓判を押しているし、一部の国民に試食してもらっているから大丈夫だろう。
そうして作られたカレーソースを塗り、男に渡す。
暴力的なまでの香りが周辺に漂うので、さらに集・収客率アップだな。
「へい、カレーカツサンドだよ!」
「……感謝する」
「そう言ってくれるんだったら、またぜひ来てくれよな」
「……そうさせてもらう」
そう言って、男は自分のいるべき場所へと向かっていった。
客は……まだまだいるな。
ストックはまだあるし、今並んでいる人の分はある。
それじゃあ、そろそろフィナーレだな。
魔法で印を出すと、そこで最後尾に並んでいた奴がラストオーダーになる……それは初日から決めてあったし、屋台の目立つ所に注意書きとして張ってあるんだ。
だから後から何を言われようとそれを示すだけだし、新規の客はもう受け入れない。
「み、見つけたぞ──メルス」
「お客さん、張り紙を見なかったのかい? 今日はもう店仕舞いだよ」
「そうかそうか、ならお前は暇になったということだろう。さあ、共に来てもらうぞ」
そうしていたんだが、ナックルが俺を見つけだしたようだ。
どうやって見つけたのかは分からないが、どうせ俺が墓穴を掘っただけだろうな。
「……すいません、俺は同性の人とそういう関係になるのはちょっと」
「安心しろ、それは俺もだからな」
傍から見ると、青年とおっさんが絡んでいる姿となってしまう。
どこからか腐った単語が聞こえたこないことを、心の底から【希望】するよ。
「(“遮断結界”)……それで、どうやって見つけたんだ?」
「今のプレイヤーに、お前以上の生産チートができる奴はいない。香辛料なんて、まだ極僅かしか発見されてないぞ」
「おっと、そりゃあバレるな。今度『始まりの街』の方に回しておくよ」
「……すまん、訂正しよう。お前以外に香辛料を入手した奴は、いっさい発見されてないからな」
おお、もともとリーンにあった商会を使って、香辛料も売り捌き始めていたからな。
それでプレイヤーにも購入者がいたのか。
《メルス、この者をさっさと排除しても構わないか? このままでは吾の時間が減ってしまう》
「(落ち着けって、ちゃんといっしょにいる機会はすぐに来るから)」
催促の念話が来るが、そう約束して沈黙させておく。
放置しとくと勝手に来るだろうし、先に予告だけはしておくか。
「どうした? まるで娘に全然約束を守ってくれないと言われた父親みたいな顔をして」
「……かなりいい線までいってるな。護衛がそろそろ姿を現したいと言っていてな、そういうわけだから出すぞ」
「? それは、別に構わないが」
ナックルの了承も出たし、周りに細工をしてから――許可を出すと。
「──ほう、実際に視てみるとなんとも不思議な色だ。普通のプレイヤーとやらはこうした輝きを持つのか」
「おいおい、俺も一般のピーポーなんだぞ。例外みたいに扱わないでくれないか?」
「……ほう、実際に視てみるとなんとも不思議な色だ。普通のプレイヤーとやらはこうした輝きを持つのか」
「使い回して聞こえなかったフリをするな。俺にも悲しいという感情はあるんだぞ」
冷酷無慈悲なマットサイエンティストとは違い、一般ピーポーは健やかな環境で育ったからな。
「吾も先ほどまで寂しいと思っていた。奇遇だな、メルス」
──だがまあ、これを言われてしまえば俺の負けは確定だ。
「悪かったって、これが終わったらフラフラと練り歩いてみるか──それで、用件は一体何なんだ?」
「このタイミングでそれを訊くか? 隣の奴が凄い見てくるんだが……」
最近は梳かしているからなのか、だいぶ綺麗な白髪を携えてネロは現れた。
磨き上げられた髪は、輝く沸石のように太陽の光を浴びて煌いている。
いや、いろいろあったからな(遠い目)。
指輪のせいでネロもだいぶ変質したよ。
ナックルはそんな彼女が恐いようだ。
……そうか? 普通に可愛いんだけどな。
「ほれほれ、俺を探してたんだろ? 聞きたいことがあるなら早く訊けって」
「なら、なら訊かせてもらう。ここにいるお前が本物なら、闘技大会に出ているお前は、いったい何者なんだ?」
俺の分体の一つを渡してあるからか、ある程度予想はついているみたいだな。
眷属がやっていることを適当に話して、話は終わる──はずだった。
忘れた方へのキャラ紹介
ネロ:魂の研究家 アンデッドを操る 調教中





