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【更新不定期化】AllFreeOnline~才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します~  作者: 山田 武
第〇二章 過去は可変と簒奪し嗤う

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02-23 過去の王都 その07

加筆・修正しました(2018/12/24)



「……ああ、そういうことだったか」


 称号を見れば、ある意味俺がこれまで何をしてきたのかが客観的に理解できる。

 なぜなら称号とは、俺の行動がどう認識されているかで獲得できる者が変わっていると言ってても変わりないからだ。


 そしてそんなこの世界での経歴を調べ、俺が何を知ったのかと言えば──


---------------------------------------------------------

戦闘系

『高機動要塞』:己の意思で体を動かさずに高速で長距離を移動をした者に贈られる称号

常時行動速度が向上する(敏捷値とは別)

『戦う研究者』:十種類以上の魔物を単独で倒し、解析をした者に贈られる称号

魔物の解析に掛かる速度と情報開示率が向上する


最初系

『初めての迷宮発見者(迷宮感知Lv1)』:迷宮を見つけやすくなる

『初めての迷宮入場者(迷宮地図Lv1)』:迷宮のマップが頭に浮かぶ

一度通った所は、配置が換わるまで忘れない

『初めての迷宮攻略者(迷宮殺しLv1)』:迷宮内の魔物と戦闘時、レベル×0.1×ステータス分能力値へ補正が入る

『初めての単独迷宮攻略者』:???


特殊系

『運命改変者』:運命を塗り替えた者へ送られる称号

獲得した時点で、所持者の意思とは関係なく自動的に発動する

他者の運命に干渉し、本来あるべきだった未来を書き換えることが可能

所持者の指針によって、この称号は発動する効果が変更される

---------------------------------------------------------


「人の運命、変えちゃったでござる」


 実は迷宮関連の条件クリア、全部俺でしたなんてものは正直どうでもいい。

 一番最後の『運命改変者』、この称号こそが今回注目すべき点である。


「得た時点で発動する……まあ、思い当たるのは一つだけだよな」


 ふらりと見つけた怪しい地下、そこで聞いた少女の怨嗟混じりの救援要請(ヘルプコール)

 偽善を成すために俺は彼女たちを全員救いだし、安全な場所へ送った。


「それがトリガーとなって得たわけか……けどまあ、当然だよな。この称号を得られるのは。だって、過去なんだし」


 創作物でもよく描かれるであろう、誰かのささいな行動が運命を大きく塗り替えた……的な話は。


 俺たちプレイヤーは今、すでに定まった現在からはるか十年前の世界に居た。

 どのようなことであろうと、本来居るべきでない者たちが当時の人々に干渉すれば……必ずそこに変化が生じる。


 それがプラスであろうとマイナスであろうと、関わった時点でそれは起きてしまう。

 なぜなら世界は善悪なんて関係なく、起きた事象に沿って動き続けるからだ。


「いやいや、それだとさすがに話がデカくなりすぎか……少しサイズダウンするなら、クエストで出たヤツだけって感じか?」


 俺の場合は生贄となる奴隷を救え! 的な感じのクエストだったが、もし干渉が無ければ全員がナニカの贄となっていただろう。

 そうなれば、その触媒を用いた術式は成功し……今の未来に繋がると。


 だが俺がそれを阻止したことで、確実にその触媒を用いた儀式に変化が起きる。

 弱体化をするのか、それとも儀式そのものが失敗するのか……とにもかくにも、予定通りとはいかなくなるだろう。


「あっ、でもレイドイベントがあるかもしれないし……それだと全員がゲットできる可能性が生まれるか。さすがにその流れは、運営側も望んでないんだろうな」


 明らかに『運命改変者』の力は、清濁を呑み合わせた効果を所持者にもたらす。

 良くも悪くも周りへの影響が大きい、誰でも力を発揮できる称号だ。 


 創作物においても、なんやかんやで憶えてニューゲームをした主人公たちが記憶を頼りに前回の世界線に沿わない行動を振る舞った結果……誰かが救われ代わりに誰かが死ぬという話がよく行われるだろう。


「けど、実際にどう変わったかなんて誰も認識できるわけないよな。神様はどうか知らないけど、人に運命を視る力はない」


 だから変わった未来であろうと、それを知らぬ者たちは当然のように過ごす。

 当然だ、自分が今居る場所こそが普通であり、それ以外の場所は平行世界(パラレルワールド)とも呼ぶことができるのだから。


 AFOではどうか分からない、少なくとも元奴隷たちは自分たちが救われたと喜んでいるのは見た……けど、それがいったいどう救われたかを詳細に知っているわけじゃない。


 あくまで奴隷という不幸な立場から解放されたことを、救われたと認識しているだけであり、俺という偽善者が創りだした世界に監禁されているのだからある意味救われないではないか──そう思われないよう、偽善者は奮闘しているんだがな。




 思考を少し切り替え、レイドイベントについての考察を呟く。


「しかし、またレイドイベントか。相手はたぶん邪子鬼王、そしてその配下だろうな」


 迷宮は空いていたし、あの広い場所を独り占めというのもおかしいだろう。

 必ず部下がいっしょに居て、王とともに人族を滅ぼそうとする。


 それこそが擬似的な『魔物たちの騒動』となり、運命を覆すためのイベントとなる仕組みなんだろう。


「条件としてボスを倒したヤツには、間違いなくその称号が手に入る。偽善者としては、闘わずに他の奴らにプレゼントしてやるのが最善か……リョクと同じなら、魔力さえあれば無尽蔵に配下を生みだせるみたいだし」


 質より量を取る選択も、リョクに助力を得て召喚士プレイをすれば問題ない……いや、決して他意はないんだよ。



 閑話休題(けいけんちウハウハ)



「にしてもまあ、もう夜になってたのかよ」


 迷宮での騒動やメニューを操作しての一連の流れもあってか、すでに時間が入る前からかなり経過している。

 頭上には地球では見ることができないような、無限とも思える数の星々が輝いていた。


「星が綺麗だな……けど、この光景は今でも観ることができるんだろうか?」


 少なくとも排気ガスや眩しすぎる灯りという問題が無いので、星が見えなくなる理由は二つ(・・)しか存在しない。


 一つは爆発で無くなり、今見える光が過去の光だというモノ。

 そして、もう一つは──


「細かいことは俺の専門外だし、こればかりはグーの結果次第だな。けど、もし予想が最悪だったら……」


 そのときはきっと──偽善者業の中でもかなりハイレベルなお仕事になるんだろうな。






 五日目


 帰るのではなく還るのであれば、すぐにでも可能だったので実行した。

 毎度お馴染み“空間転位(リロケーション)”で座標を指定して、街へ戻ってきたわけだ。


 しかしその座標、俺が登録した本来の王都とは別の座標として登録されている。

 イベントエリアということで、そもそも設定が違うのか……細かいことは分からない。


 ただまあ、時間軸などの問題もあるのでどうせ空間魔法では通常エリアには戻れない。

 プレイヤーがそちらに向かうのであれば、一度王都の噴水前に置かれた転移門を使わなければならないぞ(無料)。


「時空魔法があるから、俺には関係ないが」


 だからこそ、奴隷たちを連れてこのエリアから脱出することができた。

 無駄に魔力を使う“時空転移(テレポート)”を使ったのには、そうした理由があったんだよ。




「しかしまあ、相も変わらず混んでいるな」


 ギルドに来た理由は、依頼の達成を報告するためだ。

 レイドイベントが予期されるフラグもあったし、一度口頭で説明しておいた方がいいかと思ったためだな。


 だがまあ、俺も無理に割り込もうとするほど野暮なことはしない……創作物では緊急だと割り込んでいるが、偽善者はちゃんと順番が守れる存在なのだ。


 時間潰しに鑑定と隠蔽の経験値稼ぎ、しれち開放された迷宮に関する情報をヘルプ機能から漁って待機する。

 依頼を受ける場所と報告する場所は別にあるとしても、早くランクを上げようと努力しようとすればそれなりに埋まってしまう。


「──踏破依頼、完遂しました」


『本当に……単独で……』


「提出する気はありませんが、奥にある物も回収してあります。こちらで見せた方が証明になりますかね?」


『や、止めてください! ……し、失礼しました。少し上司と相談がしたいので、お待ちしていただいてもよろしいでしょうか?』


 どうぞ、と言うと伝説の速歩きを見せて別の場所へ向かっていった。


 スキルとして、もしかしたら移動速度を上げるモノが存在するのかもしれないな。

 いわゆる、縮地とか瞬歩とか……古武術系も導入されているのか。


「壁に耳あり障子に目あり、なら何もない場所には何があるんだ?」


 答えは簡単──人そのものがあり、だ。

 情報屋でもやっているのだろうか、かなり高レベルの鑑定と隠蔽、五感強化スキルを持つプレイヤーが俺の方をチラリと見ている。


 リーの実力偽装スキルは完璧なので、怪しい部分は存在しないはず。

 なので最後に挙げた五感強化スキルで耳を澄まし、鋭い視線で口を読み取ったのかな?


「なあ、そんなところか?」


 声を出さずにそう口を動かすと、ソイツはペコリとお辞儀をしてからギルドを去る。


 うーん……情報屋か。

 偽善者として、主人公っぽい奴に情報提供するワンシーンはぜひやってみたいものだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ギルドの中を歩いていく。

 まったく説明をしていたなかったが、王都の冒険者ギルドは三階建てだ。

 一階は先ほどまで居た、まあ通常の会員や依頼者を迎える場所。


 通り過ぎた二階はちょいVIP──ギルドのランクが高い奴用のエリアである。

 ただ、限定開放エリアではなく、少し高級感のある場所だった……小洒落たカフェとかギルドで集めた資料を仕舞う部屋とか、馬鹿が来ないような環境にしてあった。


 そして三階、俺が居るこの場所は──


「こちらのお部屋です」


「ご案内、ありがとうございます」


 受付嬢は上司の指示を受け、俺をここまで案内する命を受けたらしい。

 いかにもイベント臭い動きをさせられたため、プレイヤーたちのさまざまな視線が向けられてしまったのはご愛嬌。


「えっと、ノックをすればいいですか?」


「はい。中から入室の許可が出ますので、そうしたら扉を開けていただければ……」


「分かりました」


 コンコン、とノックをして少し待つ。

 数十秒の間を空けて、内側から男性の少し高い声で『どうぞ』という声が聞こえる。

 念のためその場に立つ受付嬢に目で確認をしてから、ゆっくりと扉を開けた──


「うん、よく来てくれたね」


 そう言った先ほどの声の主は、入った正面にある席に着いている。

 だが上手く光が差し込み、その姿を捉えることができない。


 もう一人、かつても今もイケメンなご老人が立っているのだが……なぜか鑑定がいっさい効かないので、注意しておこう。


「呼ばれました、(くだん)の冒険者です」


「分かっているさ。私が君を呼んだ張本人、冒険者ギルドネイロ王国王都支部、ギルドマスターの『アーチ』だ」


 太陽が雲に隠れたのか、ようやくその顔が見れるようになり……ほんの少しだけ、驚いてしまう。


「──見ての通り、森人族(エルフ)さ」


 耳が少し尖がった、青年であった。

 だがその声にはただ若いだけの愚かさ? 的なものはなく、なんだか長生きしたご老人方のありがたーい言葉を聞いた時に感じるような深さを感じられる。


 まあ、長生きといえばエルフだしな。

 初期設定のテキストには魔力と耳の話しかなかったが、詳細はあとで訊いてみよう。


「は、はあ……どうもです」


「メルス君、だったね? うん、あの依頼を受けたのは君だけだったから覚えているよ」


「ああ、そういうことですか……しかし、他にも条件を満たせる人がいなかったので?」


 ちなみにだが、俺は王都までの道中で手に入る素材をギルドに出し続けていた。

 もちろん、『始まりの町』の方でやっていては怪しまれるのでそちらは別の物を売り、王都側のギルドでそういった品を出すことでランクを上げていたわけだ。


「あいにく、少しばかり厄介な依頼を頼んでいてね。その後に突然現れた迷宮は、危険で調査員を出してそれでお仕舞い……誰も向かうことができなかったんだよ」


 ああ、そういう運命(ルート)だったのか。

 王都という、いかにも強者が拠点に選びそうな場所に、なぜ危機が訪れる……その理由こそ、こうした要因なのだ。


 こそこそと今の王都を散策していた際は、居るには居るという話を聞いた。

 だが会えなかったし、あまり会う気もしなかった──そういう話は置いておこう。


「けど、君が解決してくれたようだね。それにコアも……見せてくれるかな?」


「いいですけど……没収しません?」


「もちろんしないよ。提出の義務はない、書いていないからね」


 偽善者はその気になれば権力者に逆らう、しかし基本的には従順なのだ。

 言われるがままに“空間収納(ボックス)”からコアを取りだして机の上に置く。


「……あまり魔力は無いみたいだね。すでに使用済み、なのかな? メルス君、君が見たモノを説明してもらうよ」


「はい。それはもちろん」


 スーによる無双プレイ……を言うわけにもいかず、魔物に関する情報のみを開示して説明していく。

 特に最後の部分、邪子鬼王とやらが起こすであろうイベントの可能性は特に念入りに。


 ただまあ、冒険者として切り札を隠すような考えは正しい。

 それはギルド長も隣に居るご老人も、なんとなく察しているだろう。


「──報告は以上です。最下層には魔物一匹いない状況、痕跡からそう推理しました。もしもの可能性を考えてください」


「…………そうかい。やはり、彼は相応しいようですね」


 ギルド長はそう言い、ご老人の方を向く。

 この敬語、副ギルド長じゃなかったみたいだな……それじゃあ、この人は。


「おや、気になっているようじゃのぅ」


「…………」


 無言で、だが確固たる意志を持ってご老人に視線を向ける。

 その反応で察したのか、ギルド長が説明を始める。



「隠しているのも悪いようだ。では、紹介しよう。この方こそ、この依頼を冒険者たちに委ねた──この国の国王様さ」



 うん、かなりお偉い様だったな。



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