偽善者と叶わぬ平和
バーリ街道
リオンから新情報を聞いてから数日、再びクラーレたちと合流をする。
……久しぶりにプグナへと戻ってきたな。
森人との交渉や裏路地での販売に関する印象が濃い。
……小さな依頼をこなした記憶が、アレを使わないと全然思いだせないや。
クラーレたちはどうやら、まず体を慣らすことから始めるそうだ。
リアルのイベントでAFOができてなかったしな。
俺のように完全一体状態でも無い限りは、現実とのギャップに少し違和感を感じるのが普通か。
と、言うわけで今回は、体の違和感を無くすために街の外で狩りを行っているぞ。
「いやー、暇だねー」
「メルちゃん、さすがに気を抜きすぎです」
「今回はみんなのための慣らしだからねー、私は何もしなくて良いと思うのー」
「もう……、せめて観ていてくださいよ」
「はーい」
緊急時のみ動く俺と、支援担当のクラーレは基本的に楽である。
体の動作に齟齬があると言うのに、いきなり激強な魔物に挑むほど、彼女たちは愚かではない。
戦っているのは雑魚ばかりなので、魔法で攻撃をしなきゃならないプーチはともかく、いつでも使える支援系の魔法を使うクラーレは暇と言うことだ。
(厄介なのがいるな――“魔法の雨”)
「メルちゃん、何かしましたか?」
「ううん、何もしてないよ」
「そう、ですか……」
<八感知覚>で見つけた存在は、遠くから物凄い勢いでこちらに走ってきていた……後ろに魔物を引き連れて。
いわゆる、MPKというヤツを行おうとしていたんだろうな。
やることも無いし、今の彼女たちだけではすべてを相手取ることも不可能だったので、狙撃をして一気に殲滅した。
「(エナ、ディオ。すまないが倒した魔物を仕舞って置いてくれ)」
《《了解しました》》
うん、これで大丈夫だろう。
(自動解体)もあるし、あまり時間は掛からない。
あまり迷惑をかけたくはないが……魔法の分身ではスキルが使えないし、スキルによる分身は職業スキルでしか持っていなかった。
前の屍鬼で使った影ならばスキルを使えるが、すでに別の所で使っているので呼びだすことはできない。
なので、俺の気力から生み出せる分体である二人に頼んで回収を行ってもらう。
……普段は夢現空間に居るんだけどな。
一度生み出して固定した分体は、自在に召喚できるので頼めば直ぐに呼びだせる。
眷属と違って自由に存在を俺の中に出入りできるから、緊急時でも即座の対応が可能であった。
「うーん、やっぱり平和が一番だよー」
「そうですねー」
俺とクラーレでは考える平和のレベルが異なるとは思う。
それでも、日本人のような温和な人種は平和を愛している(……巻き込まれたくない、と思っているだけとも言えるが)。
例え闘争を望む者であろうと、歪んだ形で平和というものを願っている。
限り無い争いこそが、恐らくソイツにとっての平和であろう。
それでも人が平和を願うことに、違いは無いのだろう。
……ん? なんか意味が分からなくなってきたな。とりあえず簡単に纏めると――
「今日も平和に過ごせますように、ってね」
「……みんな、戦っているんですけどね」
そっ、そういう無粋なツッコミはしないでほしいんだよ。
視界内で行われる戦いをボーっと眺めながら、俺はそう思った。
◆ □ ◆ □ ◆
「闘技大会?」
体を慣らし終え、再びギルドに戻った彼女たちがその話題をしていた。
「そうです! 昔、一部のプレイヤーだけで行われた第一回と異なり、今回の第二回闘技大会は誰でも参加できるらしいんですよ!」
「ふーん、そうなんだねー」
「あれ、メルちゃんはあまり興味ないんですか?」
「メルちゃんは~、強いのにね~」
「戦いが強いのと、戦いが好きなのは別なんだよ。私はあんまり戦いは好きじゃないの」
戦闘は、あくまで守るためにするべきだ。
力はいくらあっても困らないが、俺の場合はその力の大半が借り物だからな。
いちおう自分で使いこなせるようには修練しているが、眷属以上にそれらが使える道理はないのだ。
故に最低限の力があれば充分である……世界最強を倒した奴のセリフじゃないけど。
「それで、みんなは参加するの?」
「もちろんですよ! 今回の大会、有名なプレイヤーがたくさん出るらしいんです」
「たしか……『ユニーク』からは全員が参加することが確定しているらしいわ」
シガンがそう言ってくる。
『ユニーク』ね、へー……アイツらがか。
まあ、メンバーのほとんどがそこで集まったんだしな。
もう一回参加して、メンバー集めでもするのか?
「強い人ばかりだねー」
「他にも『召竜姫』や『黒勇者』、『妖精王女』に『吸血姫』。それに『天魔騎士』や『死天』も噂だと参加するって掲示板に載っていたわ」
「……ん? 『死天』?」
「『死天』というのは、最近存在が知られるようになったPKKのことだ。詳しいことはあまり分かっていないらしいが、夜の闇に紛れて空から死を齎す姿から、そう名付けられたとのことだ」
「ふ、ふーん。そ、そうなんだー」
ヤバい、凄い心当たりがある。
たしか、宙を歩くことができる靴も渡したな……暗器を宙から落として、PKを始末するようにしたのか。
上からというアドバンテージも持てるし、結構考えて戦うようになったんだな。
「でもね、メルちゃん。プレイヤーが参加する理由の一つに、あの人と闘える権利があるというのも含まれるんです」
「……あの人って?」
物凄く嫌な予感がする。
わざわざ『権利』という単語を使うと言うことは、それなりに有名な奴。
さらに今まで会話に挙げられたプレイヤーよりも強くて、闘技大会に関わる人物と言えば……。
「――『模倣者』、つまり前大会の優勝者のことですよ」
うん、参加する理由が決まったな。





