偽善者とルナ再誕プロジェクト 中篇
途中より、三人称になります
「貴様ぁああああああああああああ!!」
ダンジョンの中で、一人の森人の咆哮が木霊している。
イアス、結構頑張ってるぞ。
すでにレベルは森人の限界である50まで達し、現在は第二フェイズへと移行しているのだからな。
今も高速で矢を番え、三本同時に放って魔物を狙う――なんてことをやっている。
「おうおう、勇ましい勇ましい。だが、俺にそんなセリフを言っていると……死ぬぞ?」
「くっ。どうして貴様のような奴の元に、こうも強者たちが集うのだ」
「うーん、導士だからかな? お前も知っているだろう? 導士。俺は複数の導士の力があるから、導き易いんだよ。いちおう秩序よりのヤツもあるから、堕ちる心配はないぞ」
「そんなこと気にしていられるか! いつまでこうして戦わなければならない!」
「うーん、お前が俺の導きに入らないから次に行かないんだよ。俺という存在を否定してるだろ。だから拒まれてるんだ、導きに組み込むためのシステムが」
「そんな、傍観しているだけの、奴の言葉、が……信じられるか!」
はい、ごもっともですね。
ですが、いろいろと考える時間が欲しかったんだよ。
それに維持するのが大変でさ~。
「そうか。なら、俺が相手を務めれば何も文句は無いんだな(――全員下がれ)」
「……どうするつもりなんだ」
引き下がった魔物たちを見て、少し青ざめているイアス。
あ、一度長老の所でも脅しをしたもんな。
それを覚えていれば、ある程度の恐怖は感じるか。
……でも、それを乗り越えてもらわないと駄目なんだよな~。
「もちろん、俺がお前の相手をしよう。幸いこの場でなら、真の意味で死ぬことは無い。弱体化されたアイツらとやっていてアレなのに、この俺なんかを選んでくれるイアンには……無理矢理にでも忠誠を誓わせようかな?」
「おい、今不吉な言葉が聞こえた気がするのだが――弱体化、だと?」
えー、気づかなかったのー?
このダンジョンは俺が決めた中でも最上級の強さを誇るダンジョンだぞ。
中の魔物がお前と同格の、いわゆる雑魚なはず無いじゃないか。
「おうよ。アイツらは魔法によって真の実力が発揮できなかったんだぞ。ほら、広範囲に及ぶスキルを使う奴はいたか?」
「…………いない」
「武器はこれにしよっかな? ……おっと。つまりさ、イアスは今から死線を潜り抜けることになる。全力を振り絞り、限界を超えようとも抗うことのできない相手と闘い、その先でお前が何を掴むのか――楽しみだよ」
相手がルナ志望と言うので、俺はサン的な感じで行こうと思う。
太陽の象徴とも言われたフェニックスの因子を注入し、別の神話で太陽神とされた日本の神に捧げられた三種の神器、そのレプリカ品を身に着ける。
「さぁ、乗り越えてみようぜ。太陽が沈めば次は月が輝く。俺を拒むと言うのなら……その未来、自分で切り開いて見せ――」
「貴様が……」
「ん? ちょ、今めっちゃ良いセリフを言おうとしてたんだけど──」
「貴様が最初からその姿であれば、当に諦めて受け入れていたわ!!」
「え、ええー……」
何、何が彼にそこまで言わせるの?
太陽の神聖さか? 神聖さがやっぱり大事だったのか?
駄目だ、まったく分からない……が、既にイアスは俺に矢を放ってきてるし――もう始めるか。
「なんだか良く分からないが、とりあえず頑張ってくれよ――“刈り取れ”!」
なんらかの武技の効果で分裂した矢を、『天叢雲』の力で一気に振り払う。
全身が炎であることを活かし、足元を一気に燃やして得た爆発的な推進力によって、イアスの元へと向かう。
◆ □ ◆ □ ◆
当然だが、メルスは(実力偽装)によって自らの能力値を制限している。
そうしなければ、イアスが死んでしまうからだ。
メルスに迫られたイアスは、腰に仕込んでいた短剣を用いて、メルスの攻撃を凌ごうとする。
「甘い甘い。太陽の温度に勝てると思うな」
だが、それは叶わなった。
白銅色の両刃剣が真っ赤に輝くと、短剣だけをドロッと溶かしていく。
現在『天叢雲』には火属性の魔力が籠められており、短剣は一瞬で溶断されてしまう。
「くっ。やはり只者じゃないか」
「……いや、ずっと似たような者だっただろうに。どうして急に理解しているのさ」
現在のメルスは、容姿端麗な超級のイケてる面の持ち主だ。
実力に伴った姿というのは効果があるようで、イアスも今のメルスは何かしらの形で認めているのである。
メルスによって切り裂かれた短剣は、一瞬の内に元の場所に仕舞われている。
この場に張られている結界により、入って来る前との変化が、限り無く起こらないようになっていた。
そのため、消耗品は耐久値を消耗すること無く、消滅してもまた同じ場所に復活する仕組みになっている。
イアスは魔物との特訓中に短剣をすでに何十回か折られているため、その現象にイアンは何も感じなくなっていた。
なのですぐに短剣を引き抜き、メルスの頸椎の辺りを掻っ斬ろうとする。
「――これも駄目か!」
「そうだな。ちゃんと魔力で包む動作を忘れているぞ。魔の力を使うことで、物理現象を超越した行動が取れるんだ。同じく魔の力で炎と同一化している俺を倒すには……俺以上の魔力を通さないと駄目だぞ」
魔力で起きた現象を打ち破る方法の一つとして、それ以上の魔力をぶつけるという方法はたしかに取れる。
だが、使い続ければ使い続ける程、体から魔力は失われていき、最後には魔力酔いと呼ばれる状態に陥り弱体化してしまう。
――メルスは、その刻を待っているのだ。





