偽善者とアップデート
夢現空間 居間
「そういえばさ、プレイヤーって結局どの範囲まで大陸を攻略しているんだ?」
「……今さらですね、主様」
「いやあな、もう大陸の地図自体は完成しているわけだろ? なんだか急に……あ、そういえばって思うようになったんだよ」
「それで、プレイヤーとの橋渡しを担当する私に訊こうとした、ということですか?」
「そうそう。本当に問題があって攻略ができていない場所があるって言うなら、アイテムの援助でもして、発破をかけなきゃならないし、その原因がどういった理由でできたものなのもかも調査しないとならない。それが、偽善者の仕事ってもんだろうよ」
ある日、そのような会話が行われていた。
本当に今さらなんだが、掲示板を読まない俺には調べる方法が無いんだよな。
本で識るにも限界があるが、やっぱり情報は必要なものだ。
なので、本当に俺の代わりにプレイヤーとの交流を行う我が家のダンジョンコア(人化)に訊いてみることにした。
「主様にそのような仕事は無いと思うのですが……仕方有りません。主様は最近のシステムとしての変化。ご存知でしょうか?」
「システム? いや、さっぱりだな」
「システムコンソールを使い、アップデート機能を発動すればできますので、いづれ行ってくださいね。ごくまれに、主様の役に立つ機能も更新されるていますので」
「へえ、知らなかったなあ」
「……いえ、私は今やれと暗に伝えたわけでは無いのですけど」
ん? 便利な機能って言うからさっそく更新しているんだが……駄目なのか?
状況を説明するならば――この場所にこの瞬間、ドーンと一つの機械が設置された。
うん、システムコンソールを用意して、早速使っているわけだ。
「……指輪も連動するんだな」
アップデートを行うと、コンソールといっしょに『挑む者の指輪』が光る。
まあ、同じ機能を搭載してるからな。
一々コンソールの機能を組み込むのも面倒だったし、俺としてはありがたい。
「――って、話はプレイヤーの攻略範囲の話だったな。レン、分かっている範囲で良いから教えてくれ」
「はい、ではご説明しましょうか」
アップデートの待ち時間……まあ、だいぶかかりそうだしな。
ゆっくりと待ちますか。
レンの解説をつまみに、本当のつまみを食べながら時間を潰していった。
「――と、言う状況ですね」
「まあ、少しずつ進んでいるってことか……西以外は」
「森の中の霧が全てを惑わせ、隙を見せた者は即座に死に戻りさせられるそうですよ」
「ゲームバランスがおかしいな。まあ、称号効果とかクエストで中の奴と関われば意外とイケるのか。でも普通、主人公みたいな奴がそういうイベントはすぐに起こすもんじゃないのか?」
さて、しばらく会話を進めているといろいろ分かったことがある。
そして一番重要なことは──未だに始まりの町の西に位置するフィールドのエリアボスが、倒されていないということである。
いちおう説明すると、その場所は『迷いの森』と呼ばれている。
要は終焉の島にある、『彷徨の森林』と似たような場所だな。
条件を満たしていないプレイヤーはその場所ではマップ機能を使えず、一部の魔法(転移など)も発動できない。
そんな場所だから、確かに攻略に時間はかかると思ったんだが……いくらなんでもかかりすぎだろ!
ちょっと前、クラーレたちが受けたクエストで見つけた主人公君のような奴。
誰も行っていない新天地の開拓を、彼らが行っていく――そう思ったんだけどな。
「何人かこちらで目星を付けていた者もいましたが、残念なことに全員別の方角へと進んで行ってしまいました。そちらではそうした活躍もあると報告があったので、彼らの内幾人かを森へと向かわせれば可能かと……」
「でも、必要なのは今だしなあ。無理矢理行かせるのもどうかと思うし……眷属の誰かを派遣してやらせるか? あ、アイツに依頼するのもまた一興だとも思うけど」
「あの者ですか……眷属では無い者に委ねるので?」
「スカウトしたの強そうだからだし、誰でもいい。いつの間にか死に戻りってパターンなら同じ暗殺者タイプだろうし、案外いい感じだと思うが」
あ、前に会ったPKのことだぞ。
たまに俺の依頼で動いてくれるようになったのだが……まあ、アイツもアイツで勧善懲悪のようなイベントをやっているらしいな。
「……いや、駄目か。最近は闇ギルドとドンパチやるって言ってたし」
「それでしたら、すでに終わったいるそうですよ。ただ、新たに犯罪者の捕縛依頼を受けたそうなので、今は無理かと」
「アイツ、ダークヒーローの才能あるよな」
「本人はいろいろとツッコみそうですが」
世が世なら、アイツは13な人でも暗殺一家にでもなれそうな程に優れた技術を有している。
俺があのとき勝てたのは、まだこの世界で敗北を知らなかったからであり、今やったらどうなるか……考えるの止めとこ。
「うーん、森の中に何があるかも気になるしな~。今度行ってみるかな?」
「――お独りで、ですか?」
「…………ア、アハハハハッ!」
「…………」
ジト目は段々と冷えたものになり、いつしか俺の体感温度はマイナスの域に達する。
すぐ正座の姿勢を取り、軽く頭を下げる。
「すいません。今回は誰か連れて行くことを誓います。ただ、今回は条件を付けさせて頂くことをお許しください」
「条件……ですか?」
ああ、条件だよ。
アップデートが終わるまでまだかかりそうだし、今の間に今後予定をだいたい纏めておこうかな?
<千思万考>でそれらをすぐに行い、レンに条件を告げておく。
みんなにも伝言してくれるだろうし、選考の準備でもしておこうか。





