偽善者と赤色の世界 その15
あ、急に解説みたいなことを言うが、俺の書いた文字は文字では無いぞ。
:言の葉:を混ぜ込むことで、文字に籠められた意思を読み取っているだけである。
そもそも、どのような言語であろうと俺の字の汚さは機能してしまう。
この問題は俺の中の三大問題の一つとして挙げられるぐらいには、眷属たちでも解決できていない(残りは桜桃問題と成長しない一部のスキルだ)。
よくよく考えれば、俺はこの世界の言語についてまったく知らなかった。
少女は未だに一つとして意味を成す単語を発していないし、邪炎神との会話には言語は必要としなかった(高度の知性を有する者は、俺とは別の方法で意思を直接伝えられる)。
そのため、この世界の言語を知る機会など一度もない。
「ん? もうできたのか?」
コクコク
「そっか、じゃあ早速……って、分からん。絵……なんだよな?」
コクコク
少し距離を取ってから、少女が描いた絵を見てみる。
……自分で考えていても結局分からないんだし、聞かぬは一生の恥だよな。
少女の絵は、数枚用意されていた。
まずはその中の一枚──一筆で書いた大小の人間(?)が描かれた絵を訊こうか。
「えっと、この絵は……人だよな?」
コクコク
「もしかして、俺と君か?」
コクコク
「……手が繋がれているんだが、手を繋ぎたいのか?」
……コクコク
「そっか、なら手を繋ごうか」
人の温もりがほしかった的なヤツか?
少女にスッと手を伸ばし、彼女が掴むのを待つ。
少し、おずおずとした様子であったが、最後には少し余裕を持たせて俺の手を掴んでくれた。
……小さいな。
炎にも負けずにその美しさを保ち続けた少女の肌は、とても柔らかくてプニプニとしていた。
これ以上は、深く思考しない方が良い気がしてくる。
どこかで紳士認定されてしまいそうだ。
さぁ、今度は二枚目と三枚目の絵を一気に見てみよう。
二枚目は先ほどの小さい方の人間――つまり少女が、有象無象に接触しようとする……のに×が付けられたものであった。
そして三枚目、そちらは先ほどと同じく有象無象と少女の邂逅の絵である。
ただ異なっているのは、◯が付いていることと先ほどの大きい人間――たぶん俺が描かれていることだ。
「一人で行くのは怖いか?」
……コクコク
「だから、俺といっしょに行こうとする?」
……フルフル
「あれ、そうなのか?」
ん? どうやら違ったみたいだな。
てっきり、付き添いがほしいとかそういうパターンかと思ってたんだが……。
それじゃあ、いったいどういう絵なんだ?
単独で行くのは嫌だけど、俺といっしょなら問題ないと。う~ん……。
「君は、誰かといれば外に出ようとするのかい? 例え、俺でなくて――」
ブルブル!
「……俺じゃないと、駄目なのか」
ブンブン!
二つの質問に激しく首を動かす。
……刷り込みってヤツか?
俺がこの少女に封印されてから一番最初に関わったから、少女は俺に懐いている?
まあ、一時的なものだとは思うし、別に問題ないけどさ。
それに刷り込みというのなら、[眷軍強化]の対象になった眷属たちすべてがそれに該当してしまう気がするし……今さらだよな。
うーん、気を取り直して四枚目だ。
描かれた絵はこれが最後の一枚だけど……うん、これは分かる。
「一緒に住むのか? 俺が君とこの家で?」
コクッ
「うーん、悪いがそれは難しいな」
少女が書いた絵には、再び大小の人間が手と手を繋いだ様子が描かれている。
そして、それらがいるのは家の中。
……間違えようはないだろう。
しかし、俺には家族とも呼ぶべき眷属たちが待つ場所がある……最近帰ってないけど。
この家で少女と住むのも良さそうだが、自分で作ったメルヘンチックな家に住むのはさすがにな……。
いや、それが主な理由ってわけじゃないけどさ。
基本的に天空の城か夢現空間で過ごしている俺は、そこで繰り広げられる眷属たちとのやり取りをとても大切にしている……最近、帰って(ry。
ま、何度も言っているが俺にとって、眷属はかけがえのない大事な存在だからな。
それは、さっき召喚されたが即送還されたアマルであろうと同じことだ(男色ってことではないぞ)。
少女と一緒に住むということは、眷属たちとの別離を意味する。
こうした理由をまあそれなりに、少女へと説明しておく。
「……って、わけなんだよ。君がいっしょになるなら、俺の家族にならなきゃならない。無理矢理迎え入れるのはあまり好まないし、何より君がさっき会ったと思う奴のこともあるからお薦めしない。――って、早いな」
少女はビシッと自分の描いた絵を指差している。
──手を繋いでいる絵……つまり、そういうことなんだろうな。
少女は今までにない表情をして、ピスーッと鼻息も荒く、顔を自慢げにしていた。
「本当に、それを選ぶのか? 君の未来は、今ならまだ自由を求められるんだぞ? 俺の眷属になると、君の思いは――折れる」
…………
「俺は君のように優しい心は無いし、誰にでも手を差し伸べるわけじゃない。君がいつか誰かを救おうとしたとき、それを邪魔するような奴なんだ。俺はただの偽善者だからな、君が思うその気持ちに応えられるほど、真っ当に生きることも――生きる気も無い。それでも……それでも選ぶのか? 俺より優しい奴はごまんとしるし、俺より君の力になれる奴も沢山いる。俺は君のためだと勝手に思ったことしかしないが、本当に君の望むことをしてくれる奴も必ずいる……まだ、変わらないのか?」
俺自身、真っ当な人間ではないだろう。
優柔不断で支離滅裂な選択をし、独り善がりを好む曲がった奴だ。
──それでも、それが俺であり俺以外の何者でもない。
変わる気は無いし変わろうとも思わない。
俺はそんな自分が自分らしいと思うし、この自分だけが自分だと信じている。
……ま、ここら辺は{感情}の影響があるのかも知れないけど、似たようなことをもともとAFOを始める前から考えていたし……まあ、たぶん大丈夫だろう。
「…………うーん、結局そっちを選ぶのか」
少女の答えは……まあ、そういうことだ。
次回で赤色の世界は最後です。





