偽善者と赤色の世界 その11
(場所が違ったら完璧だったのに……)
ピューンと飛んで行った俺の体は、そのまま弧を描くように再び地面に戻ってきた……頭から着地して。
見事なまでに大地とコネクトしており、この場所が水の中であれば犬神さんの関係者と疑われたかもしれない。
この世界の海が灼熱のマグマであることを惜しみながら、さっさと脱出する。
地面に干渉し、硬さを軟らかい物へと変えて頭を抜くだけだ。
(いよいしょっと! ……ふぅ。さて、そろそろ元に戻るとしようか)
封印が解除され、この空間内の魔力が攻撃的な意思を持って侵入者を防ぐということは無くなった。
これで、俺もやっと魔石製作の作業から解放される。
肉体から隔離していた魂を再び定着させ、体と同一化を図る……うん、完璧だ。
体の調子を確かめるべく、色々な動きを試してみる。
伸びをしたり、腕を振って脚を曲げ伸ばしたり、腕を回したり……と、ラジオ体操を行うことで、確認中だ。最終的には第二の体操も踊って体はバッチリということにした。
ラジオ体操ってさ、ドラ◯えもんともコラボしているって知ってた?
主要キャラのCVが掛け声を当てたヤツも存在するらしいぞ。
それほどまでにアレは人気な体操――国民の体力向上と健康の保持・増進を目的にした体操――なんだ。
うちでも、幻の第四までできる奴はやっているぞ(身体能力が凄い奴が多いし)。
「それじゃあ、さっきの場所に戻るか!」
{夢現記憶}で座標は完璧に覚えているし、移動も即座に可能である。
(転移眼)を発動して、先程の場所へと転移した。
◆ □ ◆ □ ◆
世界は黒き炎に包まれていた。
何もかもを呑み込む禍々しいソレは、一人の少女を守るように燃え盛る。
広がる炎とは異なる、だが確かにその色を混ぜた髪を靡かせた少女は、炎の中心で瞳を閉じて倒れ伏しており、黒い炎を止められる者は……誰もいなかった」
うーん、やっぱり詩的な才能は皆無なんだよなー俺って。
フェニックスの種族性質として(詩的表現)がスキルとして入っているはずなんだが。
(演戯)みたいに、俺の無さすぎる才能を補正できていないのか?
現在、俺の目の前には先程語った通りの現状が広がっている。
黒炎は荒れ狂い、子猫を庇う親猫のように全てを警戒していた。
少女はそんな炎の中で暑さを気にもせず、死んだように眠っている。
本当、いったいどうやったらこんな惨状にできるのさ、昔の人類よ。
「(鑑定眼)……うわっ、炎で殺した対象を全て糧にできるって、チートじゃん。しかも神気だから普通の奴に防御不可能だし、糧にした死者をエネルギーに無限増幅する……あ、だからあんなに溜まってたのか」
いや、納得納得。
どうしてあんなに負の力がわだかっているかと思えば……そういうことだったのだか。
浄化してなかったらさっきの爆発ももっと凄いのになってたし、封印の破壊もできていたかどうか……ナイス選択だぞ、俺よ。
それと、放たれているのは神気は神気でも邪神の神気――つまり邪神気だな(瘴気では無いみたいだ)。
その神の持つ権能によって、効果も異なるらしいんだが……どんな邪神なんだ?
鑑定の結果、彼女に名前が無いことと彼女が邪炎神の転生体だということが判明した。
詳細は訊かないと分からないが、彼女の中に眠るその邪炎神の力が、目の前に広がる黒い炎を操っていると思われる。
まあそうした危険性を考慮して、人類は少女を封印したのだろう。
地上に居れば、いつか炎そのものか魔力で何かを殺めてしまう……意思は関係なく。
そうすればさらに力を増し、新たな被害者が生まれ――負の連鎖の完成だ。
そうした因果を断ち切るためにも、人類の決断は個を捨てて公を取ることを選ぶ。
最も効率のいい方法だしな。
……それが少女にとって、望んだことかどうかは別として。
「どうして簡単に話もできないんだろうな。俺、普通に会いたいだけなんだが……。ま、優しく接するのがベストな選択かな?」
体の周りに(変身魔法)を厳重にかけ、自分の姿を投影しておく。
ヤンの種族スキル(無限再生)と自前の<物質再成>を起動してから……炎の中を悠々と歩いていった。
(熱い! 熱い熱い熱熱熱…………熱い!)
まあ、心の中では叫び続けているが……。
ある部分は皮膚が真っ黒になって壊死をして、ある部分は一瞬で炭化してしまう。
再び生えた体が、また一瞬で同じような目に合い続けてしまう。
痛覚を切断して再び霊体の状態で体を操作しているが、もう被害状況からして熱さを感じてしまう程だ。
……(変身魔法)のお蔭で見えないけど、体が爛れちゃってるからね。
破壊と再生は延々と続いており、俺の歩みは牛歩のものとなってしまう。
おまけに黒い炎は霊体である俺の存在にも気づいているのか、魔力の糸で繋がった俺の体を通じて魂をも燃やそうとしてくる。
これには絶対に対処をせねば死んでしまうので、聖気と神気を合成した聖神気(仮)で結界を生成して魔力の糸と魂を防御する。
肉体は……耐性を付けたいのでそのままだけどな。
いろいろと工夫を凝らしながらも燃え盛る黒い業火の中を進んでいき――ついに少女の目の前へ到達する。
黒炎は『天照』っぽいものに、紅色を混ぜた炎をイメージしてください。





