偽善者と赤色の世界 その08
入った先はとても昏く深い穴のような場所だった。
どこまで続くか分からない暗闇が足元で広がっている……怖いな。
扉の中は外とは比べ物にならないぐらい魔力が迸っている。
扉自体の性質が魔力が出るのを防いでいたのかな? なんだか魔力に重さ的なものを感じるぐらいには濃密さを感じるよ。
――やっぱり、今回は一筋縄じゃいかないことばかりだなー。 こんなとき、下へ進む方法といえば……あれだろうか?
「それならさっそく結界を張ってーっと」
これからやる作業の下準備として、扉の入り口に強力な結界を展開する。
今は漏れる魔力で防がれていたが、俺のやる行いによっていつかは侵入されていただろうし……。
本格的に<常駐魔法>と<多重魔法>を使用して守ることにした。
「さて、それじゃあ始めますか!」
濃厚な魔力に手を触れて封印されている者の魔力の波紋を読み取っていく。
そして、魔力を<集束魔法>によって空の石に丁寧に押し込んでいくと……。
「はい、人造魔石の完成だ」
ま、あくまで下にいる奴専用の魔石なんだけどな。
この方法は俺と眷属にしか行えない製造方法なんだが、魔力を特定して籠めなきゃいけないという前提条件と、使えるのがその籠められた魔力の持ち主だけという使用条件さえ除けば、簡単にMPのストックができる便利な作り方である。
ま、要するに有り余ってる魔力を有効利用しようとしているってわけだな。
俺は魔力の波紋を自在に変更できるので、今回作った魔石も使える。リサイクルをするのに越したことは無いからな。
魔力の壁は排除できるし、俺は人造魔石を作れる……一石二鳥だ。
「ほい、ほい、ほい、ほい、ほい……」
次々と石を取り出し、人造魔石を製造していく。{夢現工房}の補正もあってか、石自体はすぐに出来上がる。
しかし、石が小さいためなかなか下へ進むことはできない。
あれだろうか――どれだけコップで水を掬おうと、海の水全てを集めるのはほぼ不可能的な?
壁を少しずつ掘ろうとも、別の部分にある魔力がその穴を補ってしまうので、実際には全然進んでないんだよ。
「“不可視の手”、巨大な石を複製っと」
手が足りないので手で補う。
俺にしか見えない手を生み出し、用意した巨大な石を複製して手に持たせていく(今即座に作った)。
そして、空間内の至る場所へと魔手を伸ばすと魔力の壁を石の中に封じ込めていく。
「うわー、頭がー」
棒読みで今の状態を言ってみたが、実際ダメージがあるな。【怠惰】な俺の代わりに仕事を行ってくれる“不可視の手”であるが、多ければ多い程面倒事が増える。
乱雑に暴れさせるだけなら簡単だ。
だが、寸分の狂いも許されないような繊細な操作ともなると……集中力を切らしたら最後、即失敗するんだよ。
主人公として選ばれた奴なら覚醒イベントでも経て簡単に使えるんだろうが、俺にそれは無理。
一つの操作をほぼ確実に成功させるので、どれだけの時間を費やしたことやら……。
そんな疲れる動作を何十、いや何百も同時に行うのは眷属のお蔭で手に入れたスパコン級の処理能力でも骨が折れる。
多少無茶だろうと、あとで自分が楽を擦るためだ。
例え目が充血しようとも、血流操作を同時に行えば楽になる。
例え頭を殴られるような衝撃を受けようとも、操作の一部を直勘で行えば楽になる。
例え胃の中が逆流する吐き気に苛まれようとも、神経の信号を止めれば楽になる。
なんだか、生産が物凄く壮大な作業に聞こえてきそうだが……生産中は器用だからな。
いちおう片手間でできているぞ……というか、本当にヤバい時はただひたすら黙って作業をするもんだろ?
棒読みをする分の力が残っているんだから大丈夫さ。
「さて、そんなこんなで魔力も少しずつ消費され、気がつけば100mぐらいは進んでいました。……え? 全然進んでない? ま、たしかに底が全然見えてないもんな」
進んでいる証拠など増えていく魔石と消耗していくMPぐらいしか無いじゃないか。
どこまで行こうとも、目の前に広がるのは闇の世界のみ。
はたして無事に辿り着くのだろうか?
「……なんて、考えてるわけにもいかないんだよなー。このままだと、聖炎龍との契約も失敗しそうだしな……しゃあないか」
動かしていた魔手を操って一つの場所へと集束させていく。
だんだんと魔手は巨大化していった。
最終的には、魔手の大きさは東京のアナログ電波塔にも引けを取らない大きさとなる。
「デッカイのを操作って、結構面倒なんだけどな~。終わらないし、仕方ないか」
巨大な魔手にはそれと同じように巨大な石が握られている。
俺はそれらを丁寧に操り、空間内の魔力を一気に集束させて魔石へと変えていく。
「あー、魔力の操作がー。<物質再成>連続起動で対処対処」
石の中に大量の魔力が詰め込まれるので、逆流しないようにそれを制御する必要も増えてしまう。
そのため処理がついていかず、体の一部が壊れ始める。
それらは<物質再成>で元の状態に戻すことでどうにかなるのだが――結局、これ以外の方法が見つけられなかったので、何度も何度も体をリセットする羽目になっていた。
「……さて、少しキツイがこのまま進むぞ」
自壊を起こす体を無理矢理動かして、下へ下へと落ちていく。





