偽善者と赤色の世界 その03
「うわっ、だんだん暑くなってたとはなんとなく感じてたけど……。こりゃあちょっと本格的に固めないと(――“魔纏化・豪雪”)」
ドローンが侵入できた最後の地点、そこには何重にも結界が張られていた。
そこをまあいつもの手で潜り抜けると……暑いったらありゃしないよ。
もう炎の勢いがその前から激しいなーとは思っていたけど、まさかここまでの熱気を帯びているとは……。
体に冷気を纏ってその熱風を防ぐ。
「炎が尋常じゃないほど魔力を帯びてるし、それは奥に行くにつれて濃くなってる。……やっぱりアレが関係あんだよな~」
魔視眼で覗く海の中には眷属パワーで強化されている俺程ではないとはいえ、かなりの量の魔力が満ち溢れている。
この世界って、魔素はどういう仕組みで流れてるんだ? AFOの方も理解できてないから別にどうでも良いんだが、漏れ出す魔力だけでこうなるのは……ちょっと普通じゃないよな。
「奥の方は……おいおい、濃すぎて視れないのはさすがに異常だろ。こっちの世界の最強でもいるのか? ……しゃあない、ちゃんと歩いていくか」
転移眼で移動しようと思ったのだが、魔力の奔流によって座標を視認することができずに失敗してしまう。
いつまでも不可能なことを思っていても仕方がないしのでゆっくりと歩いて空白地帯を記憶しながら地図を埋めていくことにした。
――あ、魔物の反応があるな。
◆ □ ◆ □ ◆
空白地帯。
メルスがそう称したその場所は、かつて人類が集結して封じ込めた厄災が眠っている。
人類は厄災を彼の地へと追い込むことはできたが、倒すことはできなかった。
そこで人類は厄災への対処法を、討伐ではなく封殺を選んだ。
要すればだいたいこんな感じである。
だが、厄災は封印されても人類へと被害を齎していた。
封印は厄災自身が持つエネルギーを使うことで機能していた……のだが、封印の使用量を超えたエネルギーは、そこから滲み出て漏れてしまい海を通じて世界へと届いてしまったのだ。
海に住む魔物は封印の地に近ければ近い程凶悪に変質し、時々海から上がった魔物が近くの街に赴いて被害を齎した。
封印から漏れ出すエネルギーもまたその影響か日々増加し、それを吸収した魔物もまた兇悪になる。
まさに負の連鎖であった。
――つまり、何が言いたいかというと。
「ハァ……、またかよ(――“一撃必中”)」
GUGYAAAAAAAAAAA!!
「せめて言葉を話そうぜ、ここってやっぱり終焉の島的な場所か?」
あまりに余裕な振る舞いをするメルスは、この世界の人々からすれば異常であるということだ。
海から飛び出した硬い嘴を持った海竜は銃弾を身に浴びて再び海の中へと落下する。今倒された魔物は、人類の英傑が集団で戦闘を行って死者を出しながらやっとこさ倒せるレベルの魔物であった。
そんな魔物を銃弾一発で倒す……AFO世界最強は伊達では無いのだ。
「……団体さん、いらっしゃーい(“拡散弾”に変更)」
メルスがそう呟いて銃弾を一発放つと懐中から先程の魔物が群れを成してメルスへと向かってくる──が、銃弾が途中で複数に破裂して全てに命中する。
GUYAAAAAAAAAAAAA!!
小さな銃弾が竜たちに命中して先ほど同様に悲鳴を上げて海へと沈んでいった。
メルスの使う神銃イニジオンは、銃弾を自在に変更できる。そしてその銃弾の効果もまた好きなタイミングで使えるのだ。
「次は……空からか」
GUOOOOOOOOOOOO!!
先ほどとは異なり亜竜ではなく竜が群れを成してメルスへと襲い掛かる。
本来ならばこれも人類にとってはかなり危険な現象なのだが……。
「燃やし尽くせ、フォノンメーザー!」
GUROOOOOOOOON!!
銃口から熱線が放たれ、高熱への耐性を持つはずの竜たちが焼き焦げて死に絶える。
振動数を上げた超音波が量子化されることで、熱線となる科学的な現象だ。
メルスはそれを(振動魔法)で再現した。
ため息を吐いてイニジオンを肩に担ぐメルスであったが、何となく理解できてしまった未来に再びため息を吐く。
「おいおい、まだまだ来るのかよ……」
メルスの<八感知覚>は魔物の襲来を察知していた。今までよりも凶悪で人類には未だ討伐できていない新たな厄災……それらはすべて異世界に住まう一人の厄災候補へと挑もうとしていた。
メルスはそんな光景にうんざりとしながらも、イニジオンを仕舞って新たに二本の剣を取り出す。
虹色に輝く剣と透き通る程に透明な剣、メルスの持つオリジナル神器の二柱である。
「技は……使わなくても問題ないか。とりあえず、増しで行こう――スピードモード」
メルスの着込んだ燕尾服、『寵愛礼装』。
眷属の力を借りるための装備であるがそれができない場合にも対応できるよう、いくつかの仕掛けが施されている。
その一つがスピードモードである。
服の色が緑色に変化してメルスの持つ素早さを極限まで高める。おまけに、風や雷の力まで自動的に纏わせてしまうので速さは力なりを地でいっている装備なのだ。
「――疾きこと風の如く」
有名な旗の一節を呟くと、メルスの姿は一瞬で消え去る。そのコンマ数秒後──竜たちは細切れになってこの世界から消滅した。
◆ □ ◆ □ ◆
「せっかく読んだんだから発動もさせた方がよかったのか? いや、でも使わなくとも速度で勝ってたし」
双剣を仕舞って今の戦闘のことを思い……そう呟く。読めば読むほど強くなるので、まあ読んだ方が得っちゃあ得だったんだよな。
「おっと……さっき言ったんだし、今は進まないと」
ゴールはそろそろだ。
そんな風に気持ちを切り替えて俺は再び前へと進んでいく。





