偽善者と赤色の世界 その02
ふと思った。
生まれも育ちも日本な俺なのだが、もっとも暑いと感じたのはいつなのだろうかと。
気温が高い時? 湿度が高い時? 密閉した空間に閉じ込められた時?
いやいや、そういうことじゃないだろう。
最もそう感じる時、それは――。
「暑い~~! 暇~~!」
何もすることがないときだろう。
何かを行っている時、人は集中することで暑さなんて感じなくなる。
――まさにチャラ、ヘッチャラだ。
しかし、何もしないときは体の感覚がフルで機能して暑さを感じ取ってしまう……本当に暇で暇でしょうがないよ。
ドローンで確認した地図はバッチリに記憶してあるので、俺のテンションが上がればすぐにでもそこへ向かえる……が、暇とは別に存在する理由がその行動を邪魔してのんびりと歩くことしかできない。
うーん、やっぱりどうせ歩くなら空白地帯にでも行ってみるかな? 異文化交流も素晴らしいが空白地帯に眠るナニカを求めるのが男のロマンってもんだろうよ。
「進路転換、目的地は空白地帯!」
言っててあれだが、やっぱりテンションは上がらないな。せめて美女の一人や二人見れば変わるんだけどな~。
眷属を召喚しても良いがこんな暑い所に呼ぶのは可哀想だし、何よりそんな思いをさせたくないしな~。
「そーらを自由に、飛ーびたーいな。はい、『パーティエンス・ブーツ』! (濁声)」
再び(空歩)を発動して空の旅へと赴く。
ハァ……、せめてドMな銀龍ぐらい呼んどいた方が良かったのかな?
「そして、空の旅には妨害がつきものだな」
『オレ、オマエ、マルカジリ』
??? Lv40
魔物? アクティブ
天空 格下
赤色の空を歩いているとこれまた魔物が出現した……見た感じで言うと亜竜だな。
腕が無くて翼が腕の代わりみたいに見えるし、何より馬鹿っぽい……うん、たぶん亜竜だろう。
そんな亜竜だが実は――。
『ニンゲン、メシ、ゴハン』『オマエラ、ダメ、オレノモノ』『メシ、メシ、メシ』
今回は団体さんでの来店であった。
数にして十体、やれやれ面倒なことになっているもんだな。
全員が全員、口から涎をボタボタと垂らして炎の海へと落としている。そのため水分が蒸発してジューッという音が<八感知覚>で捉えられてしまう。
ヒーッ、何が悲しくて涎の蒸発音なんて聞かなきゃいけないんだよ!
「まあいいや。ほら、さっさとこっちに来てみろよ」
『メシーーーー!』
亜竜たちは涎を飛び散らせながら、俺の元へと一気に飛んでくる。
――うわっ、ばっちぃ。
「ほらほら、どんどん食べろ食べろ! (――“魔法雨”)」
『メシメシメシメシメルシィイ!』
適当に微弱な魔法を放ち続けて少しずつ亜竜へダメージを与えていく。
まあ、持ち前の再生力があるからMPを1しか籠めて無い魔法なんてこれっぽっちも効いてないんだろうけどな。
……というか、なんで感謝されたんだ?
「はいはい、お代わりもあるからな(――“魔法雨”+(龍殺し)=“滅龍逝雨”)」
『メシメシメ……しぃ……』
調子に乗って魔法をパクパクと口の中に入れていた亜竜たちは、突然もがき苦しんで炎の海へと墜落していく。
……ふっ、我ながら恐ろしいことをしてしまったな。体内から龍をも殺す力を取り込んでしまったのだ……こうなってしまうのも仕方がないだろう。
サンプルとして一体は回収済みなので、あとは海の中の魔物を栄養源にでもなってくれた方がありがたい。
「さて、もう少し進みますか」
今の俺を止める者はほぼいない。
できるものとすれば――眷属か神か国の奥様方ぐらいだろう。……うん、あの威圧には絶対逆らわないようにしているよ。
一度、男たちで集まってそのことについて討論している瞬間を目撃された時なんか……ウッ、男たちの可哀想な姿が頭の中で蘇ってくる。
せっかく記憶に蓋をしていたのに。可哀想だったよな、……まさか土下座技を魅させてもらうことになるとは思っていもいなかったけど。
さて何度も言うが、暇すぎるとどれだけ冷却態勢を整えても暑いと感じてしまうので暇潰しを行おうと思う。
「レッツフィッシング! (――“天網”)」
『天魔創糸』を海へと沈めて武技を発動させることで網のような形を取らせる。
目視で魔物がいるかどうかなんてのはよくは分からないが、俺にはソナーである<八感知覚>が付いてる。その知覚能力に全てを委ねてただ歩きながらその瞬間を待つだけである。
「……ッ! しゃあ、キタコレ!!」
網の中に何かが入って来た感覚を察知して一気に網を掬うように持ち上げる。
少しだけ重みを感じたが、眷属補正でプレイヤーとしてはありえない程に強化された俺のパワーにとっては軽いものだ。
グイッと糸を引っ張ると網が海上から一気に飛び出してくる。その勢いのまま上空にいるはずの俺すらも軽く超えて……思いっ切り激しい音を立てて地面へと叩き付けられる。
「さってと、何が釣れたのかな……って、マジかよ」
さすが異世界って感じだな。
もしこんなのが現実世界で釣れたのなら、いったい海の中がどうなっているのかを一度研究者たちは調査し直した方が良いと思うほどの代物だ。
ま、ここは異世界だから良いんだが。
さて、とりあえず釣れたものは処理できたし──空白地帯に進みますか。





