偽善者と孤児院 後篇
「みんな、アレを見て!」
俺が指差す先には二本の線が画面いっぱいに表示されている。俺とクソガキが触った二つの玉と同じ色をしており、そこにはHPと書かれたバーがある。
「ここで闘う人には、仮初の命が用意されるよ。あの線が対戦者のその命を示していて、アレが無くなるとここから退場になる。さっきの武器で相手に攻撃を当てれば線は減っていくよ。直接的な魔法は相手には効かないから、工夫を凝らして闘ってね」
そう説明をしてからクソガキに向けて懐中電灯を構える。
見た感じルールを聞いて考えているようだから、ただ無鉄砲に暴れるだけのクソガキではなさそうだな。
それならもう救いようもないし、偽善を施す気も完全に失せてた……良かったな、マシな性格で。
「私が勝ったら、君には一つ約束をしてもらうよ。その内容は――」
「そんなもん聞かなくても受けてやるよ。俺がチビになんか負けるわけがねぇ!」
……フラグだな。
クソガキは俺の言葉を遮って王道ともいえる西洋剣を出現させる。
そして、俺に吶喊しながら向かって来る。
「みんなー。この武器には、ほぼ全ての武器に関するスキルが登録されているよ。だからこれを使うと、持っていないスキルの武器でも少しだけ使いやすいのー」
「こ、の、クソッ! 当たれよ!!」
「それだけじゃなくて、そうやってスキルを使っている体が思い込んで、その武器のスキルを習得しやすくなったり、成長しやすくなるんだよ。だから、みんなも色んな武器を試してみてね」
「さっさ、と、負けろ、よ!」
クソガキの攻撃をスイスイと避け、ガキともに必要なことを伝えていく。
あくまで武器に付与できたのはLv1だからな――【武芸百般】の。
量産型に組み込むのはかなり苦労したのだが生徒たちにあらゆる武器を使えるように教え込もうとした際に必要となったので、試行錯誤と相談を繰り返して作り上げた最高の量産品だ。
閑話休題
クソガキには剣技の才能があるんだよな。
(鑑定眼)で覗いて視ると、現在進行形で(剣術)のレベルがガンガン上昇している。
こういう奴ってのはだいたい調子に乗って主人公キャラに負けるんだよなー。
最初の方であまり努力せずに手に入れた才能に現を抜かした結果、それ以上の強さを持つソイツに敗北。
裏で薬や魔法をキメて強くなろうとするけど、結局は死亡……かぁ、実に虚しい未来だよな。
(未来眼)を使って視たわけではないが少年から【傲慢】さが感じ取れる気がする。
……早めに心を折っておかないとそうなるのか?
いやでも、孤児院のリーダーってのは実は意外と良い奴ってパターンもあるしなー。
うーん、どうしよっかー。
「みんなー、武器は色々な物を使えた方が良いんだよー。例えば……」
クソガキに合わせて俺も剣を持っていたのだが、一旦解除して再び武器を投影する。
そして、その武器を用いてクソガキの剣を受けて話を続ける。
「盾があれば、攻撃を防ぎやすいよ。点でしか受けられない武器防御よりも、面で受けられる方が最初は安心だからね。盾の技術も他の武器で使えるし、他にも色んな武器があるから説明していくよー」
「……くっ」
「全部終わるまで、君は一方的に私に叩きのめされるよ。……それまで耐えてみてね」
「くそー!!」
さて、楽しい楽しい説明会だよ♪
依頼終了の時間がやって来た。
俺とクラーレは報酬を受け取るために子供の居ない離れた場所にいる。
「はい、依頼完了です。お二人とも、お疲れ様でした」
「いえ、わたしは大人しい子たちといっしょでしたので……メルちゃん、どうでした?」
「うん、楽しかったよ。最後はみんなで遊んでいたしね」
「そうですか」
依頼人のシスター風の女性には幻覚を見せていたので俺が何をやっていたかは分からないだろう。
少年少女には今回の依頼の間で俺への恩を売りつけまくったので将来がどうなるか楽しみである。
そうこう会話をしているとクソガキ――いや、ファイが俺たちの元に来て彼女に声をかける。
「み、ミーラ……姉」
「どうしたのファイ……って、え? ファイ……今、ちゃんと――」
「今まで、ミーラ姉のことを呼び捨てにしてて……ゴメンなさい」
真心込めた一礼をファイは彼女に示す。
そんな様子を目をパチパチさせながら彼女はジーッと見つめている。
そして、自分の額をファイの額へとくっつけ――。
「熱は……無いみたいね。でもファイ、どうしたの急に?」
「な、何でもねぇよ!!」
「あ、こらっ!」
ファイの懸命な言葉はあんまり伝わっていないようだな。
それにショックを受けたのかファイはそのままこの場から逃げ去っていった。
……まあ、伝わったんじゃないか?
「ファイったら……メルちゃん、貴女が何かしたの?」
「うーん、自分に正直になるように教えてあげただけだよ。詳しいことは本人から聞いてあげてね。ただ、ファイは素直じゃないだけみたい」
「そうですか……分かりました。ファイも、少しずつ大人になっていくのね」
「子供の成長は、早いですから」
まあ、こんなことを話していたしな。
こうして俺とクラーレが受けた依頼は無事完了となった。





