偽善者と贈り物
「ノゾムさん、下がっていてください!」
「は、はい(――"異常眼")」
突然襲ってきた魔中鬼を見て、彼女は俺にそう指示する。
その指示に従って後方へ下がると、こっそりとホブゴブリンへと状態異常を起こす。
それによって少々弱ったホブゴブリンを相手に、彼女は杖を振り回して戦っている。
……結局、俺は彼女の事情は訊かないでおいた。
彼女にはパーティーがいるんだ。
本当に困ったら、きっと彼女たちがどうとでもするだろう。
――モブには、関係ないことだ。
強者たちは、決して対等の存在がどうにかしてくれるような悩みではなかった。
あとはどうであれ、上から支えるような救い方でなければ、例え主人公であろうと一度は失敗するようなイベント……それが強者たちの面倒事である(はい、面倒だったです)。
さて、強者のことは今は置いておこう。
魔中鬼の討伐適性レベルは──確か30。
イベント時は別だとしても、本来ならばかなり高いといえるだろう(今の俺だと、土下座もする暇も無く首をシュート! って感じになりそうだ)。
一方、彼女の(種族)Lvは33。
一応の適性Lvは超えているが魔法職、それも回復系統の職業だ。
そう簡単には倒せなかっただろう。
「凄いですね、さっきの戦闘。さすが、回復職でこの道を行こうとしていた実力の持ち主ですよ」
「…………」
「あ、あの……どうしましたか?」
「い、いえ。前に戦った時より、何だか弱くなっているなぁ、と思いまして。もしかしてノゾムさん、何かしましたか?」
か、完全にバレとるぅぅうう!!
お、落ち着けスティーブ。
待てばなる、待たねばならぬ柿の種だ(意味不明)。
ここは誠意を持って誤魔化せば……って、むしろ怪しまれるだろうが!!
「いえいえ、私は隠れることしかできませんでしたよ。レベルが上がったから、などの理由からではないんですか?」
「……確かに、そうかもしれませんね。あ、早く急がないとですね」
「はい、行きましょう」
そう言って、彼女は再び足を動かした。
……フゥ、危ねぇや。
やっぱり(異常眼)は禁止だな。
その気になれば即死にもできただろうし、一般ピーポーが使うようなスキルじゃないよな、これ。
あ、彼女は(解体)持ちじゃないのか、倒したホブゴブリンは光となって消えたぞ。
自動解体がなされて、インベントリの中に入ったのだろう。
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ウーヌム 転移門前
「……本当に、ありがとうございました」
「いえ、わたしはただ、ノゾムさんとお話をしていただけですよ」
「ハハッ。では、そういうことにしておきましょうか」
「フフッ。お願いしますね」
無事にウーヌムの入場審査も終えて、俺たちは町へと辿り着いた。
景観は……やっぱり中世のちょい田舎みたいな感じかな?
例えるなら、元過疎地?
まあ、とにかくThe・田舎って程ではないが、懐かしさを感じる、と言った場所とでも思ってくれ。
転移門に登録をして、現在の会話に至るというわけだ。
「……すいません。まさか、既にクエストに向かっているとは思いませんでしたので」
「いえいえ、もともと駄目元でって気分で言いましたので……あ、そうだ! ここまでわたしの会話の相手をしてくれましたので、お礼を差し上げたいのですが」
「えぇ!? お、お礼だなんてそんな! わたしは、そんなつもりじゃ……」
「それはさっき聞きましたよ……っと、これが良いですね。では、これをどうぞ」
ボッチに構ってくれる優しい人には、俺もしっかりと礼をしないとな。
そう思い、“空間収納”からある物を取り出して渡す。
「これは……結晶、でしょうか?」
「その通り、見ての通り結晶ですよ。嫌がらせという程に隠蔽や偽装系の効果が掛けてありますので、鑑定や看破系のスキルの育成用に使ってくれてもいいですよ」
「……この結晶って、どんな効果なんでしょうか?」
少し疑心の色が混ざった目で、彼女は俺にそう尋ねる。
まあ、そこまで怪しいですと勧めた物に、何もツッコまないのは少々問題だしな。
「簡単に言えば、召喚の媒体です。それを割ることで中の魔法が発動して、ちょっと面白いことが起こります」
「面白いこと……ですか?」
「えぇ、そうです。そのときに何を必要として使うかは分かりませんが、それが正しいことである限り、その際現れる存在は必ず手を貸してくれます。死者の蘇生であろうと、世界最強の魔物の討伐であろうと……復讐であろうと」
「…………」
それを聞いた彼女は、何やら思案するように目を伏せる。
「一度しか使えませんので、使い所をよーく考えて割ってくださいね」
「…………本当に、何でもやってくれるんでしょうか?」
「……はい?」
「例えば……友達を助けてほしいという願いでも……」
そう言った彼女の目は、あのときと同様に悲しみを帯びていた……気がするよ。
さっきから感情云々って言っているが、あくまでなんとなくだぞ。
なんでモブに、そんな細かいことが解るというのだ。
ま、質問の答えは決まっているがな。
「安心してください。手を貸すだけですが、必ずどんなことでも叶えてくれますよ」
「……そう、ですか……ありがとうございます。ノゾムさん」
「いえいえ、私自身が何もできないのが、とても残念なところです」
「フフッ。いえ、ノゾムさんはちゃんとしてくれましたよ。では、わたしは仲間の元へ向かいますので」
「はい、お気を付けて」
そう言って、俺たちは互いに別方向へと歩いていく。
……さて、使う機会なんて、無い方が良いと思うんだけどな。
暫らく他キャラサイドでの話が続きます
好まない方もいると思いますが、それがAFOクオリティでございます





