偽善者と速読
始まりの町 図書館
それからは……まあ、いろいろあったな。
町の中へ(空間魔法)で入ったら、その後は冒険者ギルドへ向かった。
そこでカードを提示したら、更新が遅いということで奥で説教を受けてしまったよ(そのときにまた懐かしのΩのスタンプをギルドマスターに押されてしまった……なぜだ)。
そして今、俺は図書館にいる。
盗難防止のためか、建物内では収納系や転送系能力の大半が使えなくなっている。
これなら確かに盗めないよな……それより何より、本に付いたタグが怖いけど。
別にここが世界で一番大きい大図書館と言うわけでも、禁書が封じられているというわけでもないんだが……ただ本を写本しておきたいな~と思ってここに来たのだ。
大まかに視た感じ、全部で十万冊ぐらい置いてあるんじゃないか?
「すいませ~ん、本を読みたいんですけど」
「あ、はい。何か身分を証明する物はお持ちでしょうか?」
スッと、ギルドカードを提示する。
「……あ、はい。なんだかすいません。例えどれだけ実力のある冒険者であろうと、この規則には従ってもらってますから。あ、入場料は50Yです。借りていくのなら、また別途で料金を頂きますよ」
「いえいえ、私は読みに来ただけですよ――はい、50Yです」
「確かに頂きました。では、お静かにお願いしますね」
そうして、図書館への入場が許可された。
……受付のお兄さんなんだけど、俺の顔を見てなんだか嫌そうな顔をしてたな。
眷属にも言われていたけど、これが<畏怖嫌厭>の効果なんだろうな~。
強者はそれぞれの方法で状態異常や精神攻撃に強いから、俺を不細工程度で認識していた(まあ、最初からそうなんだけど)。
だが、それがあまり強くない俺と同じ一般ピーポーは……<畏怖嫌厭>の効果をストレートに受けてしまい、そのような反応をしてしまうというわけだ。
ハァ……、顔を隠す仮面でも付けるかな?
閑話休題
さて、何を読もうかね~。
ここは初心者用の町なんだし、基礎知識ならばたくさん置かれているんだろう。
――{夢現記憶}でフルコピーだな。
<八感知覚>で周りに俺以外の存在がいないかを確認してから、作業へと移る。
体から“不可視の手”を展開し、本を同時に開いて目を通していく。
頭を空っぽにして、脳の許容範囲以上の情報を呑み込むように流していった。
この動作を{他力本願}で自動化し、俺の意識を介さなくても行えるようにする。
また、これとは別に{多重存在}を起動し、本の用意や周囲の警戒を行わさせる。
APは無尽蔵に使えるし、無駄遣いしても困らないだろう。
……地形情報や魔物や草木の情報、お伽噺や英雄譚。スキルや職業、魔法や武技の情報まで何でもござれ! ……生産もあるよ。
<千思万考>も同時に使い、一度に百冊程記憶していった結果……数十分後には大半の本の記憶が終了した。
うん、司書さんの近くで怪しいことはできないからな。ここからは丁寧な作業をやっていかないと……。
そうしてさらに時間をかけ、一時間後には全ての本を憶えることができた。
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第一世界 天空の城
最初にこの世界へと帰還した際、なぜか物凄く祝われた。
パレードやパーティーを何度も行い、クタクタになってしまう程だ。
……同様のことを、別世界でもやらされたからかもしれないが。
<箱庭造り>で環境の調整もより上手くできるようになったし、(愚物生成)で野良の魔物も出せるようになった(ダンジョンもあるが、この世界が平和しかないと思わせるのは子供の教育に悪いからな)。
これからは、世界の文明水準も向上していくだろうよ。
そういえば、一度各世界の代表を一ヶ所に呼んで、これからの世界についてを話し合ったこともあったな。
終焉の島を経て識ることになった情報の大半を告げ、それでもまだ、俺の世界の住民であり続けるかを訊いたんだ。
……答えを思い出すのは、ちょっと涙がでてきそうだから止めておこう。
その話し合いの末、代表たちにとある魔道具を渡してそれは終了となった。
住民たちはそのまま、俺は多国の主となってしまったよ。
今はそんなお疲れな日々とはお別れして、落ち着く天空フィールドの中で【怠惰】に過ごしているってわけだ。
読み終わった本は、解析班と<千思万考>がそれぞれ情報の選別を行っている。
不確定な情報は人心を惑わす……的な? まあ、どうせなら正しい情報が欲しいしな。
そうして頼むのも仕方がないよ。
「ハァ……、超寂しい」
俺は指に嵌められた、円九分割印が刻まれた指輪を見てため息を吐く。
いろいろあったので、今では俺を監視している眷属は存在しない。
そのため、俺に念話で話しかけてくれる眷属も居なくなっている。
……うん、呼べば反応してくれるけど誰か一人に呼びかけると……大変なんだよ。
【嫉妬】? 【憤怒】? まあ、分からないけど、それをしたら起き得る未来を想定して、念話はあまり必要以上にしないべきだと理解している(何か特別なことが起きたら、すぐにでも連絡するが)。
先ほど挙げた話し合いで直接会ったリョクとは……まあ、色々と桜桃並に篤い思いをぶつけたんだけどな。
「……次、何しようかな?」
とりあえず、世界の加工でもしようか。
そんなことを考えながら、俺はゆっくりと目を閉じた。





