偽善者なしの『極塔之主』 その01
『極塔之主』シリーズスタートです
とあるVRMMOにおいて、ある日、こんなやり取りがあったとされる。
『なあ、一番難易度の高いダンジョンって、一体何処の誰が造ったダンジョンなんだ?』
『まあ、個人で造ったか集団で造ったかで微妙に変わったりするんだが……多分、一番は『KANATA』の造る『天極の塔』だな。もう結構なプレイヤーやNPCが挑んだが、未だに攻略されてないダンジョンだからな』
『へぇ~、俺は姫の『機動城塞』の捜索に忙しいからな。そういうのは全然知らないんだよ。ぶっちゃけこの話も、何故か急に訊きたくなったから訊いただけで、そこに行く予定は全然無いな』
『……ああ、『アイリス』の造った動くダンジョンか。確か色んな場所を転々としてるから、全然見つからない幻のホ°ケモン扱いにされてるんだっけか』
『そうだよそうなんだよ! 『ハウルさん家の動くお城』とか『移動要塞デストロイスパイダー』とかもあるにはあるけど、そんな移動系のダンジョンの中で最も高難易度かつ優しさに溢れたあのシステム! やっぱり姫って感じだな~って思うんだよ』
『……結構前からやってるが、あんまり分からないんだよな、その気持ち。
まあ、それは置いておくにしても、あの塔はちょっとレベルって言うか次元って言うか……とにかく、何か他のダンジョンとは違うナニカがあるんだよ』
『へぇ~、そうなんだ~』
『お前から訊いてきたんだろうが!』
かつてそのVRMMO――『Dungeon Master Online』において、その塔はある日突然消息が不明となった。
誰一人として攻略ができないでいたその塔は、ゲーム内において建てられてちょうど百年を過ぎたその日――地面が抉り取られるような形で消え去っていたのだ。
攻略しようと日々励んでいたプレイヤーたちは、最初の内は捜索したが、製作者側に問題が起きたのだと自己完結をし、探すのを止めた。
そして、『天極の塔』は一種の都市伝説という形で人々の頭の片隅に忘れ去られた。
そして現在、『DMO』において無敗を誇れたダンジョンは二つしか存在していない――が、どちらもそうして、ある周期を境に消息を不明としたのであった。
SIDE ???
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そこは、塔の最上階に用意された、ごくありふれた家具が揃った部屋である。
窓は閉まりカーテンが掛けられ、外を見ることはできない。
「あぁーだりぃ~。おいコア、ここに来てから一体どんだけ経ってるんだ?」
ソファの上で寝転がっていたその少女は、あくびをしながらそう言って、誰もいない空間にそう語り掛ける。
褐色色の肌と白い髪、普人よりも少し長い耳を持った彼女は、優れた容姿を歪ませて、心底退屈であると語り掛ける先に訴えかけていた。
するとそれを感じたのか、どこからか声が聞こえる――
《このダンジョン内で用いられている時間と照らし合わせますと……百年が経過していると思われます》
「そりゃあ暇に感じるわけだ! ったく、急に異世界に飛ばされてからあの手この手で生き残ろうと必死に頑張ってたって言うのに、まさかの強制転移で封印だぞ? こっちの世界の神様ってのは、どうにも堪え性が無いと言うかなんと言うかねぇ」
《そうですね。この世界において、絶対に攻略されないダンジョンというものが不要だったのでは? と思います》
「ったく、何の記念だか知らねぇ機能なんか使わなきゃ良かったぜ」
《ですから忠告したのです。不用意に使わずに、一度お確かめになられては? と》
「あぁっもう! 過ぎたことを言ってたって仕方がねぇじゃねぇか! 大体、あのときコアだって特に怪しい部分は無いって言ってただろうが! 俺だけが悪いみたいに言ってんじゃねぇよ!」
《ワタシはただ、あの機能が正しく使えるかどうかを答えただけであって――――》
二人のこのやり取りは百年間ずっと続けられている……が、二人の言葉からは親愛の情が感じ取られ、これがただの暇潰しであることは明白である。
――しかし、いつも通りであったのはここまでであった。
ウー ウー ウー ウー ウー ウー
《――ッ! マスター、これは!》
「……あぁ、百年間使われちゃいないとはいえ、ちゃんと覚えているぞ。侵入者か……確かここって誰も入って来られない場所じゃなかったっけか?」
《恐らく、少し前に感知された来訪者かと思われます。ただいま、一階層目の映像を用意しますのでしばらくお待ちを》
突然警告音が鳴り響き、彼女たちの会話は打ち止められる。
しかし両者ともに、その音を待ち侘びていたようにも思えた。
《――お待たせしました、映像が出ます》
「……ん? こりゃ女か? コア、確か前に言ってた来訪者って――」
《はい、確か男であったと。……その反応も既に行方が分かりませんし、もしかしたら別の者が新たにここに来たのかも知れません》
「俺にとっちゃあそっちの方が好都合だな。
この体が男に会ってどういう反応をするのか……正直、恐怖物だしな」
そうやって会話をしていると、映像に映っていた女が、見えていない筈の映像の始点に向かって発声していく。
それは、彼女たちの百年の停滞を打ち壊していく喜劇――その最初の出来事である。
『あっあ……ゴホンッ。このダンジョンのマスターに告げる! これから一時間後に、このダンジョンにダンジョンバトルを申し込みます! 拒否する場合はそのまま攻略するので、ぜひ受け入れてもらえるとありがたい。
……では、また一時間後に』
ポカーンと呆けたような表情を二人がしている間に、彼女は満足そうな顔を浮かべ、この場から立ち去っていった。
TO BE CONTINUED





