偽善者と『勇魔王者』 その04
「さぁさぁ、食べ物は沢山ありますし、飲み物やお菓子の方もいっぱい揃えてあります。じゃんじゃん食べちゃってください」
ナフキンを首に巻いた彼女にそう勧めている俺は、料理人の格好をして料理を大量に生産している。
少し前
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彼女がお腹を空かせているのは九割九分九厘俺が悪いと思う、なので彼女が望む料理をいっぱい作ろうと思っていた。
『ほ、本当に、私が食べていいの?』
「もちろんですよ。ただ少しだけ、私も一緒に食べますがね」
"収納空間"から取り出された料理の数々を見て、匂いを嗅ぎ、焼ける音を聞き、彼女の食欲を刺激してみたが……。
『毒……とか、入ってないの?』
「入れますか? 一度食べたら止められない止まらないと言われた、海老煎を」
『……(ジュルリ)』
「では、追加しておきましょうか」
『……ッ! こ、これを食べて眠くなった私を殺す計画を「立ててませんよ」……なら、これを食べる代わりに後で何かをしなければいけないとか――』
「――それなら、一口食べたらものは最後まで食べてもらうことにしましょう。なぁに、どれも美味しい物ばかりですから、お嬢さんはいっぱい食べてくださいね」
『……うぅぅ』
……何やら困惑している様子だが、それも彼女の過去が関わっているのだろうか。
多分だが前にも料理系の罠でも張られて、油断した隙に殺されかける……とかあったんじゃないかな?
食べ物は粗末にしないで欲しい。
『……えぇい、こうなったら一か八か!』
彼女はそう言って、近くにあったハンバーガーを掴んでカプッと食べる。
『――ッ!?』
「どうですか? 私の料理は。美味しくないなら今すぐにでも片付けますけど……って、これは聞く余裕もありませんか」
『――――(ガツガツムシャムシャ)』
初めて食べたハンバーガーが御気に召したのか、近くにある物を片っ端からドンドン食べていった。
『――――(ガブガブ……)』
「食べますね~、そこまで気に入ってくれると、私としては嬉しい限りですよ。これ、実は全部手作りですから。……あ、御代わり必要ありますか?」
『――――(ガブガブ……コクリ)』
「分かりました。とりあえずはお腹を満たすことだけに専念してくださいね」
回想終了
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……で、今は必死に料理を作ってるってワケなんだよ。
彼女の食べるスピードは眷属たちと比較しても同等のものだったから、"不可視の手"も使い、猛スピードで生産作業を行ったぞ。
今はだいぶ食ったので、『手』は発動させなくても問題無いスピードだが、料理全てを作るために消費したMPが、俺の全MPの二割を超えたことには驚いた……幾ら俺が誘導したとはいえ、どこまで腹が空いていたんだろうかねぇ、彼女。
『……美味しかった』
俺が並べた料理を全て食べ終えた彼女は、最後にそう言った。
「お気に召したようで何よりですよ。味の方は本職には劣っていますが、レパートリーなら負けないと自負していますよ。お嬢さんはどれが一番美味しいと思いましたか?」
『最初に食べたものかな?』
「ハンバーガーですか。空腹は料理のスパイスとも言いますし、もしかしたらそれが原因かもしれませんね。ハンバーガーにも色々な種類がありますし、今度は別の味の物を用意しておきましょう」
『……(ジュルリ)。あ、ありがとう』
「いえいえ。勿論、ここから出ないならば、私が料理を作る機会もありませんけどね」
『え……っ!?』
「だって当然じゃないですか。お嬢さんに説明したように、私はこれから出る為に色々な人のところへと向かわなければ行かないんですよ? それなのにお嬢さんは、ここに居たままご飯の用意だけして欲しいと仰るんですか? ……アナタ、【傲慢】では?」
アレ風に言いたくても、全然言えない。
――やはり、声優さんは素晴らしいと思います。
そんなどうでも良いことを思っている間にも、彼女は何かを悩んでいます。
……なら、もう少し背中を押すか。
「では、少し提案をしましょう」
『……提案?』
「はい、提案です。私には(契約魔法)もありますから、この提案を受け入れていただければ――お嬢さんには美味しいご飯は当然のこと、寝心地の良い部屋まで提供します」
『っつ!? て、提案って何?』
なんかもう落ちそうだな。
目をキリッとさせてきたけど、口元から滴が垂れてきていますし。
ネロのときにも少しだけ出てきたが、(契約魔法)は絶対遵守を誓う魔法だ。
発動に少々手間が掛かるが、一度使用すればそれは必ず機能し、誓ったことをその者に守らせる……そんな魔法だ(ま、(遊戯世界)の方が遵守させる力は強力なんだがな)。
「お嬢さんには、私の眷属になってもらいたいのです。眷属とは、私にとっての家族であり、仲間であり、守るべき者であります。私は偽善者を名乗っていますのである程度の善行ならやりますが、善行には対価を求めています。何かをしたなら何かを貰う……人として当然の権利だと思っていますよ。お嬢さんがもし眷属になっていただけるなら、私は美味しい食べ物と住む所……それと家族を提供します。私自身も、家族という繋がりが欲しかったんですよ。だからこそ、眷属という形でそれを実現させました。お嬢さんの家族が貴女に一体何をしたか、それは分かりませんが、貴女が私の手を掴んでくれるならば、私は貴女の家族になりましょう……血では無い繋がりを持つ、新たな家族に」
『…………どういうこと?』
う~ん……もう一回、説明が必要かな。
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