偽善者なしの元英雄達の選択 中篇
『浄化って言ってもな~……俺は聖人じゃないから、少し荒っぽい方法しか取れないぞ』
彼はウンウン悩みながらも、最終的に私の選択を受け入れてくれました。
《なぁ、これ凄くなかったか? ここの奴らが無言でスキルを発動させるのもそうだが、今俺達を運んでるこれ、どうやって発動しているんだ?》
《……(魔量視)が発動しないってことはそれ以外のもの……氣を使ったってこと? あぁでも、それならそこの馬鹿が気付かない筈ないし、だけど……(ブツブツ)》
《あらあら、シャルに興味をそそったものみたいね》
現在、私達は礼拝堂に移動中なのですが、私以外のみんなは、何もない宙に浮かんで運ばれています。
それは彼のスキルによるものだと思われるのですが、シャルの言う通り原理が全く分かりません。
魔法で無いことだけは私にも分かるのですが……。
そんな方法で運ばれた先――礼拝堂と呼ばれる部屋――は、とても神聖な場所でした。
聖氣が中を満たしていて、本来アンデッドが立ち入ったならば、入っただけで浄化されるぐらいの神聖さです(それでも居られるということは、それだけ魔王の力が凄まじいということなのでしょう)。
《これは……。コラーニ様の神殿よりも、神聖な力を感じ取れます》
ウェヌスもそれを感じ取ったらしく、私達にそう教えてくれました。
あそこも……かなり感じ取れる場所だったのですが、そこ以上ですか。
《だけどよ、見た感じ神像が置かれてないんだが……アイツは一体、どこの神様を崇めてるんだ?》
本来、礼拝堂や神殿にはその場所がどの神様を崇めているかを明確にする為、必ず神像が置かれている筈なのです(多神教やその場所で崇める神様に深い縁を持つ神様が存在する場合は、複数の神像が置かれている場合もありますが)。
……しかし、この場には神像は疎か、人の形を成した者が描かれたものすら、存在していませんでした。
かつてギルドの依頼で討伐に向かった邪神教徒の者達ですら、名状しがたい像を崇めていたというのに。
『じゃあ、早速作業を行うから、意識を落とすぞ。目が覚めた時には浄化だけは成功させておくから、リハビリは自分でやってくれ』
(……みんなを、頼みます)
『あぁ、偽善者に任せとけ』
彼はそう言って、私達の体に触れていきました。
すると――。
《アマル! アンタの体が……!》
シャルは、最初に触れられた私が突然倒れたことに驚いているようですね。
《どうやらあれは、魂と呼ばれるものなのでしょうね》
《……おい、アマルから二つの玉が出て来たぞ。なんで、二つ出てくるんだ?》
ウェヌスの言う通り、それらは恐らく魂なのでしょう。
一つは私の物。
もう一つは――今まで私の体を操る為に使われていた物。
魔王が私達を操る為に使っていた媒介が、恐らく彼の掌の上で転がっている、黒い玉なのでしょう。
彼は、私達の魂を安全な場所に避難させてから浄化を始めるようですね。
私達は、彼が八つの玉を運ぶのをゆっくりと眺めていました。
彼は玉を別の所に置いた後、私達の体の前へ戻ってきました。
そして、無詠唱でもできるであろうスキルの発動宣言をして、私達の体に――手を突っ込みました。
《えげつね~な~。あれ、どうやってるんだよ……》
彼は体に差し込んだ手を、まるでマッサージでもするような手つきで動かしてました。
恐らく、なんらかの効果があるものなのでしょう。
それを確かめる為、私は様々な解析系のスキルを発動させて視てみました。
(……どうやら、体を聖氣に耐えうる物へと強化しているのだと思われますね。
(魂魄眼)によると、彼の体は現在、霊体になっています。そしてその霊体の体で、体のあちこちに力を注いで、浄化に掛かる負荷に耐えられように弄っているのだと思います)
長い時間の中で、私は魔王のスキルを一部使えるようになってはいましたが、いつこの繋がりが断たれるか。
そうなった場合、今使える(魂魄眼)はどうなるのか……。
それを不安に思った私は、自力での習得に漕ぎ着けました(片目だけ発動させて、もう片方の目でどうにかして仲間達を視ようとしたり、色々とやってみました)。
『……よし、ここまでで――"保存"』
《……ッ!? 何よあのスキル。アマルの体の機能だけを完全に止めている?! ……(時空魔法)が有っても、そんなことはできないのに。
どれだけ難しい条件を満たせば、そんなスキルが使えるようになるのよ……》
世界を維持することにも使われる魔素は、本来留まることを知らず、絶えず流動する性質を持っている……そう考えられていたのですが。
――彼はそんな昔から知られている世界の法則を、容易く壊していきました。
(時空魔法)や(時魔法)は、確かにものの状態を止めることができますが、それは魔力を消費している間だけのこと。
魔力の運用を止めた途端に、その物の時間は再び動き出してしまいます。
《本当に何なのよあのスキルは! 気になってしょうがないじゃない!!》
《こっちに来てから分からないことばっかりじゃねぇか。引き籠ってた賢者様には知らないことがいっぱいだな》
《……ちょっと来なさい。アイツがどうやってアレをやっているのかの実験台にしてあげるから》
《嫌に決まってんだろ、そんなもの》
《(ブチッ)……いいからやらせなさいッ!!》
全く、ウルスも余計なことを言わなければ何もないというのに……。
ウルスとシャルの友情の深め合いは、彼の作業が全員分済むまで続きました。
《《……深めてなんか(ない)(ねぇ)ッ!!》》
TO BE CONTINUED
回想は次で最後です





