偽善者なしの前日譚【煌雪英雄】 後篇
魔王に意識を飛ばされた私は、真っ暗な闇の中を彷徨いました。
そこはどっちが上か下か、左か右かも分からない……水の中に居るような浮遊感を感じる場所です。
そんなふわふわとした空間には丸い球のような物がポツンと置かれていて、何かが光っているように見えました。
私はそれが気になり、ゆっくりと覗いてみることにします。
――そしてそこで、私はある光景を観ることになりました。
『…………』
《――やっと終わったか。豆粒がかなり抵抗したな。……まぁ、良いだろう。お前も中に入っておれ》
(あれ? どうしてあそこに私が。……それに、二人の姿も見当たりません)
目の前には、魔王と私の姿がありました。 しかし、シャルとウェヌスの姿を見つけることはできません。
(それに私の姿、あの時のウルスの姿によく似ている……あぁ、なるほど。二人はもう既にアンデッドになっていて、もう……私も同じ状態なのでしょう)
そこに見える私は魔王の言葉に従い、ウルスのように消えてしまいましたが、その姿はしっかりと確認できました。
その時の私の髪も、ウルスと同じように黒ずんでいて、瞳が映していたのは底の無い闇だけです。
ですが、私は何処にいるのでしょうか。
先程まで映っていたのが意識を失った後の私の姿だと考えると、今のこの私は本来ならいない筈です。
何故なら、魔王は私に言っていたからです――目が覚めることは無いと。
それなのに私は今、闇の中に意識を持って存在しています。
(ウルスは……シャルやウェヌスもここにいるのでしょうか)
そう思って辺りを見回してみても、結局見えるのは闇だけ。
生き物の姿すら見つけることはできませんでした。
仕方なく再び球を見てみたのですが、球から見えるのもまた、ここと同様の闇でした。
――しかし、こことは違うものも映っています。
(……ッ?! ウルス、シャル、ウェヌス!!)
球の中には、黒ずんだ姿をした仲間達が浮かんでいました。
ですが、球の中の私は身動き一つ取ることができず、ただ仲間達を虚ろな眼で見ていることしかできません。
(……今はまだ、見ていることしかできないようですね)
魔王は言っていました、私達を天秤として使うと。
それはつまり、私達は魔王の言う輝きというものを計る為の道具として使われる、そういうことなのでしょう。
ならば、私達もいつかは私達――いえ、魔王以上に強い人に会う機会があるかもしれません。
そんな人ならば、この縛られた世界から私達を解放することができると思います。
……ならば待ちましょう。
例えどんな場所であろうと、仲間達と再会する為に。
例え死の間際であったとしても、魔王の呪縛が解けた際に一時的にでも元の肉体に戻れると信じて。
(今は、本体に干渉できるように頑張ってみましょう)
そんなことを考えた私は、真っ暗な闇の世界で様々なことを行っていきました。
――そして、幾百の時が過ぎました。
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『ハッハッハ! どうしたのだ、お前のその魂の輝きを見せてくれるのではないのか!!』
『……まぁ、確かにそれっぽいことを言った気はするが……』
『ならば、さっさと吾に見せてみろ。その為の相手は用意しているのだ!』
《……おっ、こいつ凄~な。剣が噛みあってるぞ》
《魔法も凄いわね。私でもこれだけの数の魔法を同時に使うのは少し難しいわね》
《しかし、彼の身には呪いが掛けられていますね……それも、かなり強力な物が》
長い時間の間に、私は色々なことを学び、行いました。
幸い当初の目的であった、体を動かすということは直ぐに達成しましたので、次に闇の空間の調査を行います。
調査の結果、私の居る闇の空間は魂だけの存在が漂う世界でした。
今の私の視界には、かつての仲間達が映るようになりましたが、そうなるまでにも色々ありました……えぇ、色々。
そんな調査を行う過程で私は、魔王のスキルの一部を使用することができるようになりました。
どうやら魂だけの存在と私には、そのようなことが可能だったのです。
そして魔王のスキル(魂魄眼)を発動させることで、遂に私は仲間達を視ることができたのです。
それからは(念話)の練習や、肉体干渉を仲間達に教えたりと、楽しい時間を過ごしました……みんなと一緒ですしね。
魔王はその間も、私達の体を使って、強者の輝き――魂魄を調べていました。
ですが、魔王の目に適う魂魄の持ち主は、見つかりません。
数多の大陸を渡る内に、様々な者を見た魔王ですが……現在に至るまで、誰かが持つ魂魄の輝きを視て、満足することはありませんでした。
あの後別の大陸に向かった魔王は、その大陸で『人類連合』と呼ばれる軍勢によって今いる島まで飛ばされました(確か……連合の皆様は行き先は終焉の島と言ってましたね。
シャルに訊いてみたのですが……知っていたのは、かつて神が制御しきれないものを纏めて封印した所という島の概要のみでした)。
――そして今、そんな魔王の元に一人の青年が現れました。
彼は突然魔王の城に攻撃を仕掛け、魔王を呼び出し、対話を求めました。
話をする内、魔王は彼の持つスキルに興味を持ち、私達を使いって彼の実力を試そうとしています。
《なぁ、こいつ……俺達に気付いてるよな》
《気付いてるわね。さすがにこちらの世界にまでは気付いていないみたいだけど》
《でしたら、ワタシ達を倒してくれるように言いましょうか》
(そう……ですね、でしたら伝えてみましょうか)
長い時間を過ごした私達に、既に生への執着は残っていませんでした。
この考えは、私達全員で話し合って決めたものです。
しかし、三人でそのことを告げても、彼は凄く嫌そうな顔をするだけで、私達に止めを刺そうとはしません(ウルスは(念話)を殆ど使えませんでした。代わりに、肉体に自分の意志を籠めるのは得意になっていましたが)。
《おっ、無力化してきたぞ》
《魔王と同じ魔法を? ……ってみんな、彼が使ってるのって神器よ! というより、体のあらゆる所に神器を持ってるわよ!》
《……本当ですね。しかも、神器でなくても聖具や魔具です。彼の持つ装備と同等のものは、宝物庫にも存在したかどうか》
彼は私達に魔王と同じ――いえ、それ以上の魔力を流し込み、魔王から私達の肉体の支配権を奪ってそのまま肉体を別の空間に移しました。
《《《…………》》》
みんな黙ったしまいましたが、それも仕方有りませんね。
別の空間に移された私達の肉体を待っていたのは、透き通る程の白髪に、赤い目をした綺麗な女性でしたので。
『……全く、メルス様も突然の思い付きで行動しないで欲しいですね』
そんな愚痴を零しながらも、彼女は魔法を発動させて、私達を運んで行きました。
《アマル、今の魔法じゃないわよ》
(……違うのですか?)
《あれは魔術よ。誰でも魔法を使えるようにした魔法の劣化版で、魔法より様々な現象を起こせる高性能版よ》
(それって、どっちなのですか?)
《フフン、いいわ。アマル、アンタに分かり易く魔法と魔術の違いをたっぷり説明してあげるわ》
――それから彼と再び会うまで、シャルから魔術について教わりました。
TO BE CONTINUED





