偽善者と『魔獣之王』 その01
今日より『魔獣之王』篇スタート!
エレト平野
あれからしばらくして、俺は平野の最奥に来ていた。勿論だが、再び強者に挑む為である。新しいスキルもある程度使いこなせるようになったので、多分大丈夫だろう。
そんな全く安心を持てない自信と共に、前回同様結界を抜けると、目の前には真っ黒な空間が広がっていた。
(――"夜目")
暗い所が良く見えるようになる(夜目)を発動させたのだが、何故だか(夜目)が機能しなかったので、空間内は闇に包まれたままである。マップ機能を使うことも考えたのだが、≪マップが存在しません≫と出てしまった為それは無理だった。
まぁ、視覚が駄目なら別の部分で確認すれば良いしな。
俺は"収納空間"に入れてあった石ころを投げてから、【七感知覚】を使って辺り一面の情報を集めた。
……うんうん、このエリアは直径500m程の半球状ドーム型、結界の中心には一体の魔獣がいるみたいだ。何やら鎖で雁字搦めに縛られているようなのだが、その魔獣さんは特に何も気にしない様子で寝ていると思われる。
鎖には、魔獣さんから体力や魔力、氣力を奪って、結界を維持するのに使う機能があるのか、七感の内魔力を感じる部分が、鎖からコンバーター的な機能を感じ取った。……魔獣さん、多分慣れちゃったんだろうね。吸い取られるの。
【七感知覚】で分かったのはこれだけだ。
まぁ魔獣さんを倒しに来た訳じゃないし、魔獣さんがどうしたいかで、その後の予定は決めるかな?
俺は考えるのを放棄して、【七感知覚】で見つけ出した魔獣さんの元へ向かった。
しばらく歩いていると、視界内に何か赤く光る物を確認できるようになった。
それは空から地面に垂れており、まるで糸のように存在していた。恐らく、鎖なんだろうな(俺のパクったグレイプニルも糸だし、鎖のような糸か、糸のような鎖か……そんな違いなのだろうか)。
鎖は【七感知覚】で感じ取った時と同じように、魔獣さんの力を吸い取ることで発光しながら体に絡みついていた。ここからでは、獣さんの輪郭は確認できるが、詳細を見ることができない。もう少し近づくか。
魔獣さんとの距離が約10m程になると、ようやく詳細が見えるようになった。
一言で言えば、魔獣さんは合成獣だった。
体毛は白、魔獣さんというより聖獣さんと言えるような色合いである。
両翼は黒、眠っているので折り畳まれているが……間違いなく、悪魔の翼であった。
尻尾は緑、鋭い牙や長い髭が生えた口を大きく開いて眠っている竜が、そこにはいた。
他にも色々な動物や魔物の要素が、眠っている魔獣さんには組み込まれていた。こ、これは、まさに――お揃いだな。
(異端種化)を使用時、使う因子を全て魔物にすると、そりゃあまぁSAN値チェックを行う必要があるものになったりする……その組み合わせは、勿論封印決定だった(色々と試していたら、因子を大量に使う方法を見つけた)。
さて、まずは魔獣さんを起こさないように注意しながら、鎖の方を鑑定してみるか。
前回リアを鑑定した時、茨はそれを敵対行動として受け取って俺に攻撃を行ってきた。
魔獣さんも鑑定に気付いて俺に攻撃をしてくる可能性があるから、まずは魔獣さんに関係ない部分から行うことにした。
(――"鑑定眼")
いつも通り、神氣を練り込んだ神眼を発動させて、頭の中に流れ込んできた鎖の情報を確認する。
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封魔の血鎖 製作者:■■■■
神器:鎖
RANK:X 耐久値∞
リュキアに住む民達の思いを元に、■■■■が自身そのものを変換し、創り上げた鎖
魔獣を束縛・封印するのに特化している
〔■■■■が命を賭して封印した後に、リュキア国の信仰神"■■■■■"により、魔獣の力を吸い上げ、結界として利用する能力が付与された〕
装備スキル
(■■■……)……………………………………
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鎖に干渉したのが俺より上位の神だったからだろう。鑑定結果の殆どが虫食い状態だ。
■■■■さんって誰なんだろうな。民達の思いを元にその人自身が頑張ったってことはつまり、その人は偉い人――王とかだったのかもな。
そして、その人が何やかんやで魔獣さんを封印した後、そこの神様が結界を作成した。 恐らく、誰かが魔獣さんの鎖を外して何か悪事を企てないよう、魔獣さんを弱体化――もしくはそのまま殺害を考えて体力や魔力、氣力を奪って維持する結界にしたのだろう。
でも、魔獣さんは一体何をしたのだろう。人々は魔獣さんを封印する為に何かを願い、恐らく偉かった■■■■さんが命を捧げ、神様である■■■■■様が、結界を創り脱出をさせない様にするような魔獣さんって何者?
鎖を鑑定しても魔獣さんが起きることは無く、そのまま眠っていた。合成獣という見た目はともかく、無防備な姿をさらしている姿は実に微笑ましい物だ。
……よし、決めた。もし、魔獣さんさえ良ければ、俺は魔獣さんを――にする!





