偽善者と配信イベント前篇 その05
配信イベントで見つけた【怠惰】の素質持ちに、魔王少女にならないかという勧誘をしてみた……保留にされました。
「画面の前のみんなにも、分かりやすく説明してあげるよ。セジュちゃんも、準備はいいかな?」
「はいッス!」
「それじゃあ、魔王少女っていったい何なのかを、魔王少女任命マスコットなこの私がご説明しましょう!」
[パワーワードが強過ぎるよ]
[あとそれ、ここでやる必要ある?]
[創作物だとありそうだけど、現実でいちいち七面倒なことをされるとキレそう]
最下層からわざわざ転送陣を使わずに上層へ向かう、俺とセジュラス・スロースという配信者。
宙に浮かぶカメラっぽいモノを意識しながら、二人で洞窟型の迷宮を進んでいく。
その間、俺は彼女のレベリングをしながら魔王少女について説明をする。
「まず、そもそも魔王少女って何なのかという説明だね…………うーん、まあ平たく言えば魔王の力が使える少女だね」
「安直ッス」
「はっきり言って、もう魔法少女は居るからね。セジュちゃんの知り合いにも、魔法少女が居るんじゃないの?」
「居るッス!」
「凄い魔法少女も居るには居ると思うけど、はっきり言ってソシャゲぐらい当たり外れがあると思うんだよね。でもその点、魔王少女だからね。性能はピカ一、ゲームなら最高レアリティ確定なんだよ!」
[まあ、大当たりの中でも更に当たり外れがあるのが昨今のガチャですけど]
[環境次第で使えなくなる、とか定番]
[今のご時世、ただ魔法少女ってだけじゃ強そうに感じられないのは何となく分かる]
「そうそう、他にも……おっ、ちょうどいいところに魔物が現れたね」
「……自分、気配なんて分からないのに鳥肌が立ってるッス」
「イッツ本能! ここの魔物って、とっても強力な個体ばかりだからね。セジュちゃんみたいな初心者が迷い込んだら、普通は即死ですぐ死に戻りだよ」
イベントが始まって、いくつか迷宮を調べているから分かることがある。
どうやらイベントエリアから行ける迷宮には、必ず何かしらのギミックがあるのだ。
生配信の醍醐味、それはアクシデント。
編集し切れない突然の事態に、配信者たちがどう対処するのか……視聴者たちはそのライブ感を求めている。
配信スキルしか持っていない場合、編集不可の生配信しかできない仕様なのだ。
多くの者がそうしてアクシデントに遭遇して、本来の予定を狂わされている。
その点、セジュラス・スロースは運がいいのだろう……ナックルが配信を観ていて、俺に救援へ向かうよう指示が入ったわけだし。
「ど、どうするッスか?」
「普通に倒すけど……縛りプレイの最中だったんだよね。まあ、リスナーのみんなには申し訳ないけど、今回は救援がメインになったからそれは無しだね…………よし、せっかくだしセジュちゃんにプレゼンをするよ!」
「プレ……ゼン?」
「魔王少女のね。セジュちゃんにあげたいのは【怠惰】の魔王少女の力、その一端を紹介するよ」
そうこうしていると、セジュラス・スロースが気配を感じ取った個体が眼前に現れる。
それは鉱物系の魔物定番のゴーレム、ただしその身を構築するのは様々な宝石群。
「『宝石傀児』だね。迷宮の底の方だから、かなり強めだけど」
「……あのー。自分、鑑定:石のスキルがあるんスけど、使っただけで凄いレベルが上がりましたッス」
「格上に使うとそうなるよ。ああでも、だからって何度もやっていると、挑発行為として見られちゃうから気を付けてね……まあ、今回は一発でアウトみたいだけど」
「うひゃー! く、来るッス!」
「というわけで、さっそく魔王少女の凄いところをお披露目だー!」
手抜きで使っても充分に倒せるだろうが、今回は映えとやらを重視している。
意識して{感情}を引っ張り出す──気怠くなる精神を押さえつけ、能力の発動。
「──“停滞止静”」
「あっ!? えっと……魔王少女ちゃん!」
[直撃だった!]
[聞いたことない技名だな]
[というかセジュちゃんに名前を教えてないじゃん。一瞬、なんて呼ぶか悩んでたぞ]
そういえば、名前を言ってなかったな。
いちおう適当に決めた挨拶で『こんメル』と言ってはいたが、だからってそれが名前と分かるかは別の話か。
初心者みたいだし、そもそも初期設定のままじゃないから頭上に名前なんて表示されない……悪いことをしたな。
「うーん、まあいっか。セジュちゃん、わたしのことはメルって呼んでほしいかな」
「えっ、今の……大丈夫なんスか!?」
「これが【怠惰】の魔王少女の力の一つ。効果は無敵」
「む、無敵ッスか!?」
[AFOでもごく少数しか発見されてない]
[ほとんど最上位職だし、そうじゃないのは何かしらの代償付き]
[攻撃無効スキルは一日一発だけだし、これもそうなんじゃないの?]
攻撃無効スキルは俺も持っているな。
アレを持っているかいないかで、無茶ができるかが変わるので優れたヤツは祈念者自由民問わず、だいたい持っているらしい。
「ふふーん、あんな使い切りのスキルと同列視しないでほしいな。“停滞止静”は回数制じゃなくて消耗型、ちゃんと対価さえ払えればずっと無敵状態だよ──こんな風にね」
ほんの少し、畏怖嫌厭の邪縛を意識するだけで宝石傀児が突っ込んできた。
何度も何度も殴りつけてくるが、俺はかすり傷一つ負わず平然と立っている。
その姿に驚いている様子のセジュラス・スロース。
同時に、何を消耗しているかも考えているはず……彼女はこれを払えるのかな?
※宝石傀児
その名の通り、構成物質が宝石なゴーレム
その種類や質によって性能に差が存在する
生きた状態でもピッケルで採掘されたり、錬金術で加工されたりと不憫な魔物でもある…………だいたい死を以って償っているけど
p.s. 無字×1092
うーん、数字……
減らすよりも増える方が速い現状
仕事疲れもあって、余裕が無い
時間が欲しい……切に願う作者でした





