05-10 報酬カタログ その04
加筆・修正しました(2025/05/20)
修正してもクオリティが変わらない部分がございますが、予めご了承ください
「──メルスさんはその、いろいろと常識外れですので。しっかりと観ておかないと、大変なことになりますよ」
「大変なこと? あとレイ、今なんだか見るのイントネーションに違和感があったような気がするんだが……」
「気のせいですよ。私たちのみで監視をしている限り、上にメルスさんの情報が伝わることはございません。知られてしまえば、より強引な方法で調べてくるでしょうし」
「だいぶ前から情報が見れなくなっていたらしいから、私たちも見ていたのは全体用の映像と誰かの視界を介してのモノだけど。凄いわよね、本当にいろいろと」
リョクのレイドイベント、闘技大会の無双プレイ、過去やリア充撲滅イベントにおけるやりたい放題……そういった事柄を次々と挙げていくレイとシンク。
なんだろう、この湧き上がる衝動は。
胸の内から心は揺さぶられ、強引に体を動かそうとする。
そう、これはまさに──羞恥心。
過去を一から漁られ、それらを一つひとつ丁寧に詳らかにされていく……ここまでされて、何も思わない奴などいないだろう。
というかさらっと恐ろしいことを。
えっ、見たものってGMたちに共有されてたの? ……マジか、立ち振る舞いとか気にしないと。
「……問題はその都度、[GMコール]が利用されることです。メルスさんのやっていることは、すべてが想定外。訊ねられ、隙が出来た際に上が調査を行えば……庇うことができなくなります」
「まあ、俺自身自分の状況が本来あるものから外れていることは分かるけどさ」
「そうですね。特に問題となったのは、発言の中にあったスキルの習得についてです」
「──個有スキルか?」
先天的(?)なチートが{感情}スキルであるならば、後天的に得たチートは間違いなく[眷軍強化]ということになる。
眷族に対する強化度合いが異常なうえ、スキルや経験値の共有までできる。
おまけに、いずれはあらゆる階級の能力を共有できるようになる……うん、チートだ。
「所有していることしか把握していません。また、その所有者がメルスさんであることも公式ではありません。しかし、祈念者用に用意された[称号]が、祈念者の内誰かが個有スキルの所有を表しています」
「[称号]……ああ、『初めて』系か」
「その名をご存じであれば、理解もお早いかと。本来は極めて習得難易度が高く、生涯で得ることのできない者の方が多い階級のスキルですが、祈念者に関してはそのルールに該当しません」
「SP999の消費で得られるもんな。絶対に無理じゃない、エンドコンテンツぐらいにしておけばいづれ誰かが辿り着いていたか」
俺の場合は【節制】の能力がSPの消費を最低限にしてくれたからこそ、通常よりも早くその地点に到達できた。
だが、そうではない祈念者たちでは、まだまだ先のことだろう。
SP999、いっさいSPを使っていない者でも全然足りない数値だもんな。
イベントの報酬として、少量なら交換できる旨は書いてあったっけ?
……まあ、俺にチートスキルが備わっていなければ、少しずつ溜めていたかもな。
「……本来、そこに至るのは一、二年後であると予測されていました。現在はスキル枠を圧迫している職業スキルや種族スキルも、ポイントを獲得するためのものでした」
「そういえば、わざわざいくつかの職業スキルを分けて入れてあったな。自由民と、仕様に違いがあったみたいだが」
「用いている肉体が異なる以上、違う理の下で生きるのは当然です。それを少しずつ、彼らに合わせていくのが私たちの仕事でもありますが」
「要するにアレよ、祈念者と自由民なんて差はそのうち無くなるわけ。死に戻りがある以上名残は残るでしょうけど、いづれは区別もできなくなるわね」
過去の王都イベント後、アップデートで酒や食事に関する状態異常が追加されていた。
あれもそうして、自由民に近づけるための一環だったのかもしれないな。
「……凄いんだな、GMって」
「そうよ、ようやく分かったの?」
「ああ、降参だよ降参。そもそも、地頭で勝てるとは思ってもいなかったし。それで……俺に聞きたいことがあると思うんだ?」
「はい。単刀直入に申し上げますと──メルスさん、貴方の個有スキルの詳細を開示していただきたいのです」
ここまでの話から察するに、おそらく眷族の詳細も分からなかったようだ。
そうでもなければ、ここまで話を飛躍させはしないだろう。
今の眷族たちは、自由民でも祈念者でもない中途半端な存在になっている。
つまり俺のようなイレギュラーな存在が、これから増え続けるということだ。
「スキルの内容を話して、俺……いや、俺たちに影響は出ないのか?」
「レイ……いえ、この場合はGMとして約束しましょう。この情報はGM間でのみ共有されるものであり、それ以外の存在にはいっさい口外しないことを」
「私も約束するわ。一人より二人、その方がメルスも安心できるんじゃないの?」
「……まあ、二人にそう言ってもらえるってのは、男冥利に尽きるな。そこまで言われて言わないほど、俺も腐っちゃいないよ」
そうして俺は、[眷軍強化]に関する詳細を把握できている限り話した。
未開放の部分は……まあ、使えないのであえて省いたが。
「メルスって……」
「ん?」
「メルスって、案外凄かったのね。なんというかこう、凄いって感じがしないのよね」
「まあ、否定はしないぞ。ただ、俺はそのそこまで凄くはない力でもできることを、これからもやっていくだけだし」
偽善は現実世界でもできるし、これまでも少しはやっていた。
ただこの世界だと、力があるがゆえにこれまで以上にできていただけのこと。
「それに、俺は主人公って柄でも無いしな。自分がやりたいこと……つまり偽善ぐらいしかできないんだよ」
「でも……」
「?」
「そのお陰で、メルスが偽善をしたから救われた人もいるんじゃないの? メルスが手を差し伸べて、喜べるようになった人もいると思うのよ。感謝だってしているわ……名前を貰えて、私がそうだったんだから」
シンクはギュッと俺の手を両手で挟み、顔前ではっきりと言葉を伝えてきた。
単純に言われるよりも、なんというか……想いのようなものが伝わってきた気がする。
もしも、俺が初期設定から始まった怒涛の展開を体験していなければ。
ただの凡人として、何も起きない日々を改善しようと抗うだけだっただろう。
レベルも上がるしスキルも伸びる、それでも根幹は変わらない。
GMたちと会うこともなく、彼女からこんな言葉を聞くこともできなかったわけだ。
「…………」
「な、なんか言いなさいよ!」
「……ああ、悪い。ちょっと、嬉しくてな。こっちの世界で、そういえばちゃんとお礼を言われていたって、再確認できた。素直に、喜んでいいのか」
「当たり前よ。この私が保証するわ」
GMであるシンクのお墨付きであれば、その保証は確証と言っても過言じゃないか。
少し卑屈が過ぎたか……今だけでも、前向きに物事を考えてみてもいいかもな。
そんな風にシンクと会話をしていると、これまで会話から外れていたレイが戻る。
「すみません、少しいろいろと考えてしまいまして……シンク、たしかメルスさんに名付けの報酬を用意していましたね?」
「え? あっ、はい。加護を、お姉様も渡しているのでいいかと……」
何かをシンクに確認するレイ。
その突然の質問に、俺は何のためなのか分からず首を捻る。
「そうですか……ちなみにですが、もし何か貰えるとしたら、メルスさんは何を報酬にしてほしいですか? えっと、仮定の話です」
「うーん……急に言われると悩むな。やっぱり、いろいろと欲しい物はあるし」
とはいえ、【生産神】に就いているので大抵の物は用意できるんだけど。
時間さえあれば、お城や蘇生薬、果ては神器だって創れるからな。
「何でも構いませんよ。もちろん、私たちに与えることができるものであれば」
「……今、何でもって言った?」
「テンプレな返答をしてるんじゃないわよ。お姉様は言ったわよ、私たちに与えることができるものって」
「いや、そこは重要じゃないんだ。ある意味それが、一番重要とも言えるけど」
問題はそれを、物とは呼べない点。
響き的には『モノ』だが、それは日本語の話であり外国語やこの世界の言葉では違う意味になっているかもしれないこと。
ああだこうだ、頭の中で脳みそをフル回転させ、青少年特有のアレな発想が浮かび、それを否定し──それでも心のどこからか湧き上がる衝動を抑え切れず、想いは言葉に
「──じゃあ、二人が欲しい」
「「……えっ?」」
「二人をモノ扱いってのは、本当に悪いと思うけどな。こういうときでもないと、言えないと思うし。……ははっ、急にバカみたいだよな。悪い、今のは無かったことに──」
「「まっ、ちょっと待って」ください!」
なんだか姉妹だなぁと思えるほどハモらせながら、二人が俺の台詞を遮った。
先ほどの姉妹喧嘩よりも苛烈に会話が続いた後、顔を赤らめた二人に質問される。
「こ、コホンッ! め、メルスさん、先ほどの言葉の意味はいったい……?」
「そのまんまの意味だな。あのときは俗物な物しか要求できなかったけど、本当はレイ自身の方が魅力的だったな。ただ、あのときは女神様って感じで手を出しづらい不可侵感があったけど、今ならはっきりと言える」
別にレイが俗になったとか、そういうわけじゃない。
ある程度冗談として、大目に見てくれるだろうと思えたからだ。
ついでに言うと、直感スキルもわずかにアシストしてくれている。
……こっちの方が喜んでくれるだろう、そういった変なアシストではあったが。
シンクの先ほどの言葉もあったので、まずはトライしてみることに。
もちろん、怒られたら謝って、報酬は無しでもいいと言うつもりでいた。
烏滸がましいにも程がある、そんな愚かなことを言ったわけだからな。
重ねていえば、もっと言えと直感スキルは告げていた……思いは全部、吐き出せと。
「人間の男たるもの、欲しい物は金と力と女だ。金も力も今は充分にあるから、もう要らない。現実だとそんなことは言えないんだけど……今はこの世界の話だろう? なら、一番欲しいものは女ってことになる」
「「っ……!」」
「出会って一回や二回、俺たちの関係はまだその程度でしかない。けど、レイが妹思いなのも、シンクが姉を大切にしていることも。二人が祈念者たちのことをどれだけ想ってくれているのかも知って……やっぱり惚れた」
愚直に、思っていたことを伝える。
フェニやレミルとの関係を知っている彼女たちであればこそ、こんなバカげた台詞もとりあえず聞いてくれると思っていた。
「まずはお友達から、ってのが定番だとは思うけど……他の祈念者に取られるぐらいならいっそのことって自棄になっちゃったな。だから頼む、どうかこの想いに応えて──」
「と、とと、とりあえずこの辺にして、解散しましょう!」
「え、ええ、そうね。申し訳ありませんが、お開きということで……」
シンクもレイも、なんだか慌てふためいているようだが……どうしたんだか。
なんて思っていると、シンクが突然こちらに叫ぶ。
「そ、そうだった! メルス、すぐに目を閉じて!」
「……急だな。いきなりどうし──」
「お願い!」
「……いやまあ、いいけども」
必死に懇願されてしまえば、理由を聞く必要なんて失われる。
偽善……だとそれを思い込み、ならば当然だと意識が切り替わり、受け入れた。
まあ、目を閉じるだけであれば何も心配は無いという前提があるからな。
まさか、二人がこの隙を突いて俺を殺すとかそういうことをするわけじゃ──。
「「~~~~~~!」」
「……ん? 今、何かしたか?」
「い、いいえ、何もしていませんよ!」
「そ、それよりもういいわ! それじゃあ、今日はここでお仕舞よ。また何かあったら会えるから、そのときを待っていなさい!」
「? ああ、分かった。二人とも、必ずまた会おう」
瞼を開くと、そこにはこれまででもっとも頬を赤らめた二人がこちらを見ていた。
しかも、なぜか目を開いた直後は距離が物凄く近かったが、すぐに遠くまで離れる。
……もしかしたら、さっきの感触がその原因なのかもしれないな。
送還の光に包まれながら、そんなことを考える。
──両頬に感じた、小さく仄かな二つの温もりを意識して。
※あったかもしれない会話
メルス「シンク、いまさら思ったんだが」
シンク「?」
メルス「イベント中のあの『非リア共!!』って、素で言ってたのか?」
シンク「あぁ、あれは台本を読んでたのよ……何よ。まさか、私がそう言いたくて言ったと思ったの?」
メルス「いや、そういうわけじゃないんだが……なんというか、ヤケに印象深くてな」
シンク「それは間違いなく、あの台本を書いた運営側の想いね。だって台本にも、『(思いっきり、同志を立ち上がらせるように)』ってわけの分からない指示があったもの」
メルス「へ、へー」
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