05-06 第一層 後篇
加筆・修正(2025/05/09)
※注意
作者なりの精一杯です
……読み漁った方がいいかしら?
大量の虫が飛び交う中、俺は魔力を展開することで確保した安全空間から抜け出す。
当然、そうなれば隙を見せた俺にその虫たちが向けられる。
「──“空間歪曲”」
それは俺の誘導。
空間魔法を自分の向かう先に使うと、虫たちのど真ん中を突っ切る。
虫たちは俺を襲おうとする……が、それはできない。
空間を捻じ曲げて、俺の進む方向へ来れないようにしたのだ。
そのことに焦ってか、質ではなく量で補うように更なる虫が投入される。
ある意味、雲のように真っ黒の虫の団塊が生みだされるが──それでも先へ進んだ。
「見ーつけた」
◆ □ ◆ □ ◆
彼女に触れ、ようやく模擬戦は終了。
いろんな意味で捕まえるのが難しかった彼女だが、それでもスキルで指の筋肉をコントロールすることでどうにか成功した。
「うぅ、やっぱりまだパパには勝てないよ」
「ふっふっふ。俺に勝とうざなんて、数百年は早いかな。まあ、探索者たちを退場させるには充分なやり方だ。今度は魔物の姿と人の姿を使い分けて、戦う方法を考えてみるのがいいかもな」
「は~い!」
彼女──ミントは10cmもない美少女であり微少女(大きさが)なので、そりゃあ捕まえるのも大変である。
俺の言葉を聞き、ミントはレミルと共に特訓を開始する。
そうして残された俺の下に、フェニがやってきた。
「ふむ、さすがはご主人だな」
「……だいぶ苦戦したがな。虫魔法で用意した虫で時間を稼ぎ、瞑想をして魔力を、体力譲渡で生命力を確保する。これだけでも、長期戦をできるんだよな」
「最後の手には驚いたぞ。あの霧は、いったいどのようにしてミント殿のみを生かして勝利したのだ?」
「殺虫剤だ。ミントは異常耐性スキルがあるから、問題ないって分かっていたしな。多少強引だったが、そういう部分も含めて圧倒的な勝ち方っぽいだろう?」
クラン『ユニーク』のノロジーが有していた、固有魔法【科学魔法】。
アレからいろいろと試して、現実で得た知識を基にやってみたのが──殺虫剤の生成。
特に過去の代物は、人体にもかなりの悪影響が残るため禁止されているほど、凶悪な物が多い……それらを科学と魔法の力を掛け合わせて、生みだそうとしていたのだ。
結果としては成功。
ただし、この世界では耐性スキルというものが存在するため、それらの保持者には通じないことが判明。
それでも有象無象には通用するので、今回のように大量の虫を駆除するという状況においては、適した使い方であった。
「そうだ、フェニ。少し大切な話があるんだが……いいか?」
「ふむ……話してほしい」
唐突に、話題を切り替える。
だがフェニは俺の表情から、真面目な内容だと察してくれた。
「レミルの……指輪ができたんだ」
「ほぉ、それは行幸。ならば早く渡してあげると良い。それで、どうしたのだ?」
「…………今ので重要な部分は終わったな。俺の感覚からすると、こういうのはフェニに言うべきことかなと感じていたんだが」
暴走時の俺は、フェニをハーレムの一員として誘った。
なので、究極的に言えば事前報告など不要だが……そうもいかんだろう。
フェニの反応は、とても穏やかだった。
激情するでも冷ややかになるでもなく、ただ素直にそれを喜んでいる。
俺がその反応を不思議に思っていると理解したのか、あっさりと理由を教えてくれた。
「……ご主人。我はもう一人のご主人から、
ご主人が餓えて欠けていると言われた」
「…………本心から答えるが、その意味は全然分からない。ただ、俺はお前たちを家族だと思っている。けど、ただの家族以上に繋がりが欲しい……指輪にはきっと、そんな俺の欲深さが籠もっているのかもな」
指輪を創る際、俺は彼女たちのことを想って製作に当たっている。
だがそれが、百パーセント純粋な恋だの愛だのといった想いかと訊かれれば……否だ。
聖人なんて心清らかな人種ではないので、そういった邪な心ぐらい持ち合わせている。
眷族たちは美(少)女揃い……俺だって、劣情を抱いているはずだ。
「ただ、分からないんだよな。こっちの世界だと俺は、{感情}スキルの影響であのときみたいな状況以外だと、基本的にこんな精神状態のままだ。だから、俺には絶対という保証ができない」
「いや、ご主人はいつも我らに親身だぞ。それは接している我らが、ご主人以上に感じていること。だから何の気兼ねも要らない、望むままに……どうか、レミルを」
「ああ、分かっている」
俺以上に、彼女は俺のことを理解しているのだろう。
少なくとも俺は、自分の望むままにという考えが持てない……だからこその偽善者だ。
でも、フェニは肯定している。
ならば、自分の望みを訴えよう……ただ、想いを伝えるために。
◆ □ ◆ □ ◆
フェニがミントの下へ向かい、代わりにレミルがこちらへやってくる。
特に何も聞かされていないようで、少々戸惑った顔をしていた。
「お呼びでしょうか、メルス様」
「その……だな、レミル。お前に、渡したい物があるんだ」
「渡したい物……ですか?」
「ああ。大切な物なんだ──これを、受け入れてほしい」
空間から取り出す演出を交え、小さな箱から指輪を取りだす。
……フェニの時と似た感じなのだが、そういった部分を考える脳が無いんだよ。
「これは……メルス様」
「これが俺の、レミルに対する想いだ。共に居てくれ、ハーレムに加わってくれ……そして、家族になってくれ」
あの時と違い、異様な精神の高揚などは感じられない……そして、必要ともしない。
自分の拙い言葉だが、それでも俺なりに考えて言葉を綴る。
言っていることは屑同然、正直ぶん殴られてもまったく不思議ではない。
……残念なことに、俺の話術はこれを最高の告白だと認識しているようだ。
彼女は一連の流れを、ただ無機質な光を帯びない目で見ていた。
そしてしばらくして、やがてポツポツと語りだす。
「…………メルス様」
「なんだ、レミル?」
「私は言いました。私にできることは、メルス様にこの身を捧げることだと。そして、メルス様は私の思うが儘に振る舞うことをお許しくださいました」
「そ、そう……だな」
それは撲滅イベントの際、非リアたちが妬むようなことをしながら話したこと。
それを思い出して少々顔が赤くなるのを感じながら、彼女の話を聞いていく。
「私の覚悟はすべて決まっています。どのような形であれ、私はメルス様と共にありたいのです。そして、メルス様が私にそのようなことを求めていただけることを……大変喜ばしく思います」
「レミル……」
「メルス様、厚かましいお願いではありますが……どうか、それを私に付けてください」
「わ、分かった……やるぞ」
差し出された左手、そしてその薬指。
相変わらずのお節介のせいで、嵌める場所はそこ一箇所のみ。
緊張で震える指を抑え込み、ゆっくりと彼女に触れる。
俺とは違い、柔らかなその手を掴み……指輪を通した。
「ど、どうだ?」
「凄く、嬉しいです」
「そうか……なら、俺も創った甲斐があったな。レミル、ふつつか者だがこれからもよろしく頼む」
「はい、こちらこそです!」
この後、フェニが来て……いろいろと交わすことになる。
が、それは俺と眷族たちの秘密ということにしておこう。
なお、第二層の予定は今のところありません
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