05-04 森林迷宮
加筆・修正(2025/05/05)
なお、サブタイが『迷宮』であって『フィールド』ではないのは、当人の認識的に迷ったりいろんなギミックがある場所ってただのフィールドかな? という感じだからです
森林フィールド
草原を歩き続けてしばらくすると、突如として視界に映る光景が切り替わる。
足元に生えていた植物も、今では頭上を越える大きさに成長していた。
「ここまで生い茂っていると、上から俯瞰して道を探すってのも無理そうだよな……どうせ空から見るのは無理なんだけど」
森の樹木から一定以上の高さになると、重力魔法による罠が施している。
空を飛べる種族がショートカットしないようにという、俺からの親切設計だ。
とはいえ、森ギリギリの高さなら飛ぶこともできるし、飛ばないなら制限も緩い。
一瞬だけ跳躍する、転移するみたいな方法なら……どうせ落ちるわけだしな。
「最初から森に挑む気が無いからこそ、徹底的に落とすわけだし。木登りで探すのがセーフなら、ジャンプぐらい良しにしないとさ」
それに、この森には霧が漂っており、空から見ても一定以上の距離は認識できない。
草原フィールドは迷宮の機能だが、こちらはそれを魔法で再現してみたモノだ。
なのでたとえ跳んだり登ったりしても、別にそれが直接攻略には繋がらない。
おまけに空間魔法を迷宮の力で強化し、間違えたらやり直しな迷路に弄ってある。
「それもこれも、闘技場さまさまだな。お陰で好きなことができる」
それらは少しお高めなDP消費があったのだが、闘技場でがっぽり儲けられた。
国民たちが使い、その内部で消費したエネルギーがポイントに還元される。
初期に搭載した終了後のリセット機能があるから、誰も損はしないからな。
それらを使って迷宮を強化、誰にも踏破されないようにしているのだ。
「さて、俺の所にも魔物が出てきたか」
これまでは超級の隠蔽に加えて、生活魔法の一つ“消臭”で体臭を消していた。
なのでこれまでは魔物に気づかれることも無かったが、それはもう解除している。
あくまでも、国民たちの探索を邪魔しないための配慮だった。
しかし森まで来る者は少なく、探索者同士の遭遇も少ないのが森林フィールドの特徴。
俺に気づくのは、もう魔物たちだけ。
ならばむしろ曝け出し、少しぐらいウォーミングアップをしておくべきだろう。
「色は灰色から緑色へ。『森狼』か……俺の相手じゃないな」
武器換装スキルを起動し、無手から突如握り締めた武器で森狼たちに攻撃を行った。
現実の武器を模した、[岩融]という大薙刀を勢いよく振るう。
刃の部分だけで1mを超える代物だが、この世界でなら軽々と扱うことができた。
その結果、薙ぎ払い上に向けた際に風が生じ、それに舞い上がるアイテムを視認する。
「一撃で死んだのか……やり過ぎたな」
武技などはいっさい使っていなかったが、その膂力だけで振り回した結果だった。
ついでに言うと、辺りも散々だ……木々が砕け散り、霧も払われている。
「弁慶さん、マジパナいっす。よくもまあ、こんな物を振り回せたな」
木々も霧も、時間経過で自動的に修復されるとはいえ、その破壊痕は凄まじい。
危険だと判断し、武器は再び元の場所に戻しておく。
もともと換装スキルで出した武器には時間制限があるので、いずれ消えていたけどな。
◆
それからも魔物は何度か遭遇してきたが、その都度武器を使って倒していく。
せっかくの修練チャンスなので、いっさいのスキルを用いずに、だ。
今までも時々こうして、スキルに頼らない技術を会得しようとしてきた。
実際それは、僅かずつではあるが形を成しており、この世界でなら再現もできている。
……現実世界だと器用さとか攻撃力の隠しステータスである筋力が足りないからか、全然上手く使えないんだけどさ。
「もしかしたら、スキルの恩恵を剥奪する能力や仕掛けがあるかもしれないからな……どういう状況にも対応できるように、何でもできることはやっておかないとな」
さらに言うと、『模宝玉』ことギーのスキルによる武技の再現は完全マニュアル制。
武技は模倣できていても、スキルはそこに含まれない……動きに補正が入らないのだ。
同じく武器専用の能力も、完全に再現するためには自力で制御しなければならない。
武術だけではなく、注ぐエネルギーの制御もまた必要になる……ハードルが高いよ。
「まずはスキルの動きを完全に使いこなし、魔力とか精気の制御を限界まで突き詰める必要がある。武術とか魔法はそれでいいが……あのスキルはなぁ」
いろんな意味で堕ちてしまった元【勇者】のシャインが使っていた“限界突破”。
アレも理論さえ分かれば、スキルが無くとも使うことが可能だ。
魔物は目的地に着くまで、まだ出てくる。
この世界の肉体のスペックなら、多少失敗してもいずれはすべてを成し得るはず……問題は惰弱なモブ精神だけだし。
「さて、どこまでできるかな?」
一度武器で戦うのは止めて、拳を構える。
体術の場合、より精密なコントロールが必要になる……魔力と精気の同時強化から、自分の体を同時に守る必要があるからだ。
だが、限界突破を使えば、それと同等以上に高難易度の制御が求められる。
ここから先は、しばらくそれを試してみようじゃないか。
◆
「そろそろ森を抜けられるかな……」
俺は祈念者の中で一番早く迷宮に潜った功績で、称号と共にスキルを得ていた。
迷宮地図スキル──[マップ]スキルに連動して、自動的に地図を作成してくれる。
まあ、俺はそれ以前に【迷宮主】なので、機能の一つである[管理]で迷宮のすべてを知ることができるんだけどな。
だがスキルのレベリングには、それを使ったところで意味は無い。
自分の足で情報を集め、地図を作ればスキルのレベルが上がっていく。
それに、その裏技は自分の迷宮でしか使うことができない。
ならば、迷宮関連のスキルはしっかりと磨いておいた方がいいだろう。
「山が見えてきたか……その下に、目的地があるって感じは実にいいな」
自分で設定した地形なので、当然それは把握していたんだけども。
元は無かった物だが、目的地である迷宮の上に新しく築いた代物だ。
「いつになったら、ここに探索者が来るようになるんだろうな……『千尋山』に」
空を穿つほどの高さでそびえるそれは、かつてレンと話し合って決めた大迷宮。
誰かがここ、『天魔迷宮』を攻略出来たら開放する予定の場所だ。
「まあ、まだ実装はできていないから先の話になるけどさ。今はこっち、洞窟の中に用があるからな。さぁ、天魔迷宮に行こう」
待ち侘びたミントとの再会はもう間もなくだ……どんな成長を遂げたんだろうな。
※複合迷宮
複数の迷宮核を有し、異なるコンセプトを持つ迷宮が纏まっている場所
その在り方には幾つかパターンが存在するが、第四世界の迷宮群の場合はレンが管理する一つの迷宮が、その他の迷宮すべてを管理している形
それぞれが踏破されても存続可能、また【迷宮主】が討たれてもある条件を満たさない限りは、崩壊することが無いちょっとイカれた仕様
 





