04-03 草原フィールド
加筆・修正しました(2025/05/04)
移動中、おっちゃんの焼き串を頬張りながら考え事をする。
迷宮都市は主に、探索者と呼ばれる迷宮での活動を専門とする者たちの溜まり場。
迷宮版の冒険者とも呼べる彼らなので、マナーの教養が足りない者も多い。
そういった者たちが大半を占めるため、立ち食いや食べ歩きなどは日常と化している。
「焼き串うめぇ……俺も料理の勉強とか、始めた方がいいのかな?」
現実では酷い成績を出している料理……というか家庭科目全般だが、この世界であればスキルや祝福、称号のサポートがあるのだ。
それに俺は、【料理神】を内包した職業である【生産神】に就いている。
せっかく【神】を冠するまでに、優れた性能を持つ能力があるのだ、使わにゃ損々だ。
「だが、ここには魚が無いんだよな……」
迷宮都市(第四世界)から迎えるのは、当然同じく俺の世界である第一のリーンと第三のルーンのみ。
だが、どちらにも海水魚は生息していないため、外部から国民の商人たちが得た魚しか入ってこないのだ。
第三世界はそもそも海が存在せず、第一世界はあくまでもリゾートとしての海のみ。
生物も魔物も、生命反応のある存在はいっさい配置されていないからな。
いちおう、それでも川魚であればなんとか確保できたし、養殖にも成功している。
海は遠くとも、川ならば割と簡単に訪れることができる……いろいろあったな、本当。
今は鱒(のような魚)や鮎(のような魚)などを、この都市でも食すことができる。
だが先に語ったように、どうしても海水魚は調達できていないのだ。
「……まあ、迷宮で海を用意するにしても、実際に海へ赴くにしても。それなりにやるべきことをやらないとな──っと、着いた」
目的地に、ではないが中継地点にである。
見渡す限り、壁と門しか映らないそこは、迷宮と都市を隔てる境界線だ。
俺とレンの考え、配置した実力を調べるための場所。
実力調べの門とでの言うべきそれは、探索者ならば誰もがお世話になる施設だ。
「まずはここで手続きをして、必要な物を受け取らないとな」
許可証と指輪。
前者はギルドカードのように簡易の身分証であり、非常時における身元判明用の代物。
迷宮での功績を判断し、ポイントを付与。
それによって、俺や迷宮にとっては不要だが、探索者にとっては価値のある物を得ることができる仕組みだ。
後者は──命を守るための代物。
指輪を嵌めた者は迷宮内に限り、死亡時も蘇生&緊急転移の恩恵の転移にあやかれる。
客呼びのアイテムなのか、消費する迷宮用のポイントはたったの1。
死にかけで一層に搬送され、そのまま放置されるんだけどな……これこそ死体蹴りだ。
だが、生きてはいるし、俺の用意した迷宮はすべて第一層に絶対の安全地帯が在る。
そこに転移されるため、リタイアしても何度だってやり直すことができるのだ。
ちなみに、初期設定のままだと、転移時に身包みを剥ぐ(ボロ布をサービス)。
嫌なら先に挙げたポイントを使い、指輪の設定を変えなければならない。
結構ほどほどにお高いので、初心者たちはまずその設定変更を望む。
これができて、ようやく一人前の探索者と言えるそうだ。
閑話休題
さて、話は戻って門について。
門の近くに配置された施設で、先ほど挙げた許可証を提示して門に近づく。
俺と同じように集まった探索者たちが、共に力を合わせて門を押している。
押してみるだけでポイントが貰えるので、ポイント稼ぎに誰もがやってみるのだ。
「なお、門には触れた相手を解析する機能が搭載されており、さまざまな情報を迷宮へ還元しているぞ。お陰で、スキルの開発にも成功したんだよな」
その最たるものが──強奪無効スキル。
ずっと前にスキルチケットで得た保護スキルに加え、探索者を解析──中でも、窃盗系の者たちから集めた情報で出来上がった。
俺も持っている他者の能力を奪う系のスキルは、しっかりと存在している。
なのでそれらに対応した策も、念入りに用意しておかないといけないわけだ。
「さて、頑張って門を開けるとしますか」
接触が条件の解析なので、それなりに時間が掛かる仕様である。
重いうえ、匙加減でその調整までできてしまう……そんな厄介な門なのだ。
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天魔迷宮 草原フィールド
迷宮というとイメージされるのは、やはり洞窟とか地下空間に広がっている代物だ。
しかし迷宮を生みだした際、その定番の地形以外にもいくつか迷宮として創り出した。
「だいたいこのまま、二キロぐらい続くんだよなー。見渡す限りの草原って、見るだけならいいけど実際に歩くとなると大変だよ」
そうして歩くこと数分もすると、魔物たちの姿を発見する。
この迷宮は一定の距離で視界が途切れ、近づかないと先を認識できなくなっていた。
「さてと……“隠蔽”」
超級レベルの隠蔽は、決してその存在を他者に気づかせない。
同レベルの看破ができれば別だが……そこまで至るには、途方もない研鑽が必要だ。
「頑張れ若人、強くなるんだぞ」
相対する魔物たち。
一方は灰色の狼──先ほどまで、美味しく頂いてたグレイウルフ。
そしてもう一方は、集団の小鬼たち。
うんまあ、要するに魔小鬼のパーティーが迷宮に挑んでいるのだ。
「って、あの恰好。もしや……“鑑定”」
俺が気になったのは、司祭のような恰好をした魔小鬼だ。
人族ならまだしも、魔小鬼が崇め奉る神といえば……答えは一つしかない。
「やっぱりか……信仰者だったな」
俺の創造した世界において、好ましく思えないモノが一つ。
それはとあるスキル──信仰、神を信じる者がよく習得しているスキルだ。
俺が『神様見習い』を得てから、そのスキルを得る者たちが現れ始めた。
どういうシステムか分からないが、その効果でいろんな恩恵にあやかれるらしい。
「彼の場合は……天魔魔法が使えるのか」
他にも能力値に補正が入ったり、魔法の性能があがったりする場合があるのだが……有るものを強化するのではなく、無いものを新たに獲得したようだ。
握り締めた杖を媒介に、集束した魔力が白と黒を混じり合わせた色を成す。
それを仲間たちに向けると、それぞれの武器にその色が灯っていく。
「天魔属性はいろいろと特殊だからな……そりゃあ一撃で死ぬわな」
天使と悪魔、相反する存在を無理のない形で両立した存在である天魔。
その影響か、種族固有の魔法を使う場合とある性質が付与される。
「業値差による性能補正。迷宮の魔物はだいたい初期値だから、信仰とかやっている彼らとの差もだいぶあるんだよなー」
そういう背景もあり、狼たちは肉や灰色の毛皮を残して粒子と化した。
自由民でも、迷宮の中なら勝手に還元されてドロップアイテムが落ちるからな。
「遠くにまだ居るな……しばらくは同じことの繰り返しだろうし、そろそろ行こうか」
彼らが負けるとは微塵も思っていない。
気負うことなく、俺は次のフィールドに向けて歩き続けるのだった。
別作品で神聖術式という概念が出ていますが、こちらにも似たようなものはあります
信じる者は救われる(能力的に)、という感じですね
神族の状況が違うので、その辺が差異となります





