偽善者と攻城戦後篇 その07
「──というわけでミント隊員!」
「はい、はい! はいっ! はいっ!!」
「はいは一回でよろしい。だが、君の熱意はよく分かったぞ……これから君にはとあるクランが占領する場所へ赴き、そこで魔物を処理してもらう」
「おー! らじゃー!」
なんだかナースみたいなノリになっているようだが、当の本人ならぬ本精霊はお祭り騒ぎに疲れて現在就寝中だ。
ミントは俺の指示を受け、ビシッと敬礼のポーズを取ってくれる。
恰好は和服っぽいので、あまり『らしさ』はないのだが……うん、可愛いぞ。
ユウに伝えたのはミントのことだ。
眷属ですらたまに認識できなくなる小ささなので、見つけ出そうとするのであれば、それなりに意識を傾ける必要があるだろう。
「それじゃあ、行ってきまーす!」
「っと、ちょっと待ってくれ!」
「……ん? どうしたの、パパ?」
「目印にしたい。魔法を付与するから、少しだけ待ってくれ──“空間座標・常駐”」
ミントに魔法を付与することで、長距離転移ができないこのイベントエリアでも飛べるようになる、そんな準備をしておく。
なお、相手には魔法に関する類まれない才覚を持つアルカがいるが、常駐魔法を施した魔法はいっさいの魔力反応を示さないため、おそらく気づかれる要因にはならない。
純粋にミントを見つける。
それをできるのであれば、それはそれで満足のいく結果となるだろう。
「今度こそ、行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい!」
勢いよく窓から飛び出したミントは、凄まじい速度で南へ向かう。
小人サイズの蟲の姫、彼女のスペックは決して低いものではない。
とある蛾は最高速度が130km/hを超えるという……その種は空中分解することもあるらしいけど。
ミントはその種以上の速度で、決して自壊することなく飛ぶことができている。
飛ぶために必要なエネルギーを、無理することなくすべて賄えているからだ。
「さて、眷属たち。ミントがあっちに向かえば、あちら側の能力値の調整が行えるようになる。こっちは能力値はそのまま、スキルとか装備は万全な状態で戦うつもりだ」
「ねぇねぇ、メルスン。私はこっちで防衛をしたいんだけど」
「その説明も忘れてたな。さっき決めたことだが、攻城と防衛のどっちをやるかは自由でいい。まあ、どっちかはやってほしいけど、人数差とかは気にしなくていいからな」
「やった。リアンもほら、いっしょにここで防衛しようよ!」
ユラルはリアを誘って、防衛側に就いてくれるようだな。
彼女たちのそれぞれ異なる植物系能力、それは魔物の侵入を妨げるのに使えるだろう。
リアも「うん、分かったよ」と言っているみたいだし……心配ないな。
「じゃあ、二人以外にも防衛が良い奴はここで待機。暴れ回りたいヤツはいっしょに攻めに行くぞ。相手は祈念者だが眷属、死なないしある程度戦える……楽しみにしておけ」
バレたら絶対にクレームが来そうだな……うん、口止めしておかないと。
◆ □ ◆ □ ◆
出発は十分後ということにして、しばらく自由時間にしておいた。
俺はその間に、話しておきたいヤツの下へ向かう。
それは聖性を帯びた剣を携えた猫耳少女。
俺が近づくとその気配を察知したのか、すぐさまこちらを向いてきた。
「ティル、ちょっといいか?」
「何かしら?」
「……あとでソウにも言いに行くけど、絶対に手を抜かないとヤバいヤツの場所に先に忠告しに来ている。全力全開とか、後で揉めるから控えてほしい」
「……たしかにね。この子を使うとなれば、私も手を抜けなくなるわね」
ポンっと手を乗せた剣が独りでに揺れる。
出会ったばかりの頃はそんなことなかったのだが、自我を持つ武具とばかり触れ合っていたせいか……いつの間にかこうなってた。
そのうち、武具っ娘にした方がいいのかもしれないな。
忘れられているかもしれないが、ティルも広義の意味では武具っ娘に該当するし。
「……変なこと考えないでちょうだい。私のは女神様に願った結果よ」
「月鎖の神、だったよな? 輝夜姫に聞いても知らなかったその女神様、いったい何をしてその神格を得たんだろうな」
「私たちの国だと、災害をもたらす魔物を月に封じたという話だけど……実際はどうなのかしらね? ミシャット様には感謝をしているけれど、そこだけは不明だからなんとも言えないわよ」
まだ運営神が簒奪などをしてなかった頃の話なので、今さら知ることもできない。
それができるのは、休眠状態に入っている彼らを起こしてからだろう。
方法は分かっていないが……とりあえず運営神をどうにかしなければ、すべての神が活動を再開することはない。
「話が逸れてるわよ。要するに、私は別の剣で挑めばいいのね?」
「ああ、いっそのこと大量の聖剣でもくくりつけて……冗談、冗談から」
「あら、この子ったら拗ねてるわね。メルスもあまりイジメちゃダメよ」
「はいはい、悪かったよ……そのうちお前用の新しい鞘でも新調してやるから、それで勘弁してく──うぉっ!?」
それなりに装飾などもされている良品ではあったが、さすがに鞘ごと戦闘に組み込んでいるセッスランスの王剣を支える鞘には敵わなかった。
なので、そのことを提案してみると……いきなり鞘がスポーンと抜けたのだ。
原理は分かる、自ら聖気を解放して鞘を押し出したのだろう。
──けど、いくらなんでも早すぎるだろ。
「この場合、どうすればいいんだ?」
「はあ……この子には私からしっかり言い聞かせておくわ。メルスはソウに、抑制するように言ってきなさい」
「まあ、アイツの場合は常に押さえつけられているから大丈夫だとは思うけど……それでもなお、心配できない自分がいる」
「それ、たぶん当たるわよ」
何も言わずに戦場へ送り込んだら、世界が破滅しちゃいました。
そんな展開になりかねないのが、ソウという存在の凄いところだよな。
神々の大半は眠りに着いていますが、祝福が稼働しているように一部分は機能しています
新作の神器を寄越せ! とかは難しくとも、貰ったアイテムをアンテナ代わりにして眠りに着いている神々と特殊な方法でコンタクトを取ることもできるとかできないとか
……偽善者にはできない方法で、猫耳剣姫はそれを行いました
p.s.
暇を潰すのに、話が長い山田武作品はちょうどいいのかもしれません
最近のブックマークの増えっぷりときたら……本当、感謝して良いのやら
作品に関する感想やご意見も、そんな感じで増えていけばいいのに……とか思う作者でした





