偽善者と攻城戦後篇 その02
※シスコン爆発?
ギュッと抱き着いてきたカグを、俺もほんの少しだけ力を加えて抱き返す。
何もしなかったり力をいっさい加えない場合、カグが寂しがるとカカが言っていた。
「おにーちゃん!」
「おおっ、カグ! カカに頼んでくれたんだな、助かったよ!」
「えへへ、カカもお返しがしたいって言ってたんだ」
「それでも、カグの協力なしじゃ成し得ることのできなかったことだ。少なくとも、俺にはカカを頼るってアイデアは無かったしな」
カカは神であり、神頼みは俺のポリシーに反している……いやまあ、充分リオンに偽装工作を頼んではいるけど。
戦闘系だけでも、神々の手を煩わせないようにと考えているのだ。
なのでカグの行ったことは、絶対に俺ではできなかったことというわけだな。
ポンッと手を頭に乗せる。
つい、みたいな感じで撫でられるのは、ひとえに眷属たちによる調教の結果……なのかもしれない。
「カグがずっとカカを降ろし続けていられたのも、できるように頑張ってきたからだ。初めからそうだったわけじゃない。カグが頑張ろうと思ってやり続けてきたからこそ、ここは二人に守られたんだ」
「そう……なのかな?」
「自信を持ってくれていいんだぞ。現れる魔物は、本来カグの歳じゃ逆立ちしても勝てないレベルだし……そもそも単独ですべてに対処するのは、できない眷属も多い」
広域殲滅ならまだしも、制圧──ただ破壊するだけでなく対象を選ぶことが、できるような戦闘法を取らねばならないからな。
うちには過剰な力を発揮してしまう者、単体戦を繰り返さねばならない者など、特定条件下で真価を発揮する者が多いのだ。
「さて、カグ。とりあえず休もう。カカからも聞いていると思うし、自分でも分かっているだろう? いかに頑張ってくれたとはいえども、これ以上はもう限界だ」
「……うん、分かってる。おにーちゃん、それじゃあいっしょに寝よう!」
「そうだな、いっしょに……って、え゛?」
「寝よう寝よう、早く寝よう!」
俺を引っ張るカグ、それを振り払うことは容易い……が、それはできない。
このままでは道徳的にアウト! 何より眷属を傷つけるようなことはしたくないのだ。
となれば、変身魔法を使えば妖女状態になれるので問題ない。
眷属優先ルールを使用して、自身の姿をモブから美少女へ変える。
カグもそうなることは分かっていたのか、不満も文句も言わず、態度にも出さない。
意識を切り替えメルとして、今度はカグの前に進み出る。
「うん、それじゃあカグ、どこで寝たい?」
「えっと、お布団がいいかな? スーおねーちゃんのお布団がいいと思う。おにーちゃんがすぐに元気になるもん」
「分かった──『堕落の寝具』。それじゃあ中に行こう。ちゃんと、良い場所に案内するからね」
もっとも早く生まれた【怠惰】の魔武具。
この世界で安住の地を求め、もっとも安全な場所を生みだすための力を宿している。
俺とカグは瞬時に着替え、布団へ潜った。
そしてその周囲を結界が包み込み、ふわりと浮かび上がる。
「安心してね、誰も私たちの眠りを妨げる者はいないから。ゆっくりと寝よう……おやすみ、カグ」
「うーん……おや、すみ……」
「うん、おやすみ」
ニコリと笑ってから、瞼を閉じるカグ。
すぐに彼女の状態は『睡眠』となり、意識はこことは異なる場所へ。
「私も……寝るよ。アン、任せていい?」
《おやまあ、気づいておられましたか》
「カカとカグに気を使って黙っていてくれたみたいだね。とりあえず、寝ている間の指揮はアンに委ねるから……最悪、領域は放棄して良いから、カグは守っていてよ」
《メルス様もお守りいたしますよ。ご安心してください》
そう言ってもらえて何より。
俺も安心して、意識を落とせ──
≪──占有領域『都市トレモロ』にて、偶発的レイドが発生します≫
ああもう、面倒臭いんだよ!
カグと共に寝る、それを邪魔するのであれば容赦などする必要しない!
先にカグの周りに感知を妨害する結界を構築し、魔力を一気に解き放つ。
それらすべてをここではない場所へ送り込み、イメージした光景で現実を塗り潰す。
「魔導解放──“彷徨える豊樹の大海”! アン、徹底的に潰して!!」
《本当に過保護ですね、メルス様は。先に申しておきますと、思考を割いて調査するようなことはしないでくださいよ?》
「……分かった、止めておく。だから頼んだよ、アン」
《お任せください。必ずや、死守します》
魔導はきっかり三十分、現れる敵対勢力すべてを迷いの森へと閉じ込める。
眷属たちは、それを処理していくだけ……もちろん、迷いの影響はいっさい受けずに。
……そろそろ寝た方がいいかな?
意識をスキルで遮断して、『眠る』という行為を始めるのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
≪──占有領域『都市トレモロ』、偶発的レイドが終了しました≫
≪討伐数──評価:S≫
≪レイドのレベルはすでに最大値です、魔物の数を増大させます。失敗した場合は通常レベルへ戻ります≫
きっかり三十分、俺とカグは意識をこちらへ呼び覚まされて目を開ける。
体の疲れを取るためのものだったので、これぐらいで充分だった。
「おはよう、カグ。調子はどう?」
「うん、おはよう! わたしは大丈夫だよ。おにーちゃんは?」
「私もバッチリかな? やっぱり、休むのは大切なんだね……」
完璧に防げたようだが、現場がどうなっているか分からない。
素材の回収もあるし、一度様子を見に行っておこうか。
今回の魔導は直接的な攻撃とはなりえませんが、強力な支援魔導です
迷いの概念が組み込まれていますので、感知・探知・察知の性能は弱体、方位不明、感覚錯乱など……代わりに戦う者が居るなら、有能すぎる魔導です
……消費魔力がそれなりですが、今の偽善者はin the お布団ですので
p.s.
暇な方には、ぜひとも読んでいただきたい大量話数な山田武作品
広めてもらいたい……が、その手段に欠けている作者です
Twitterはやっていますが、更新ツイートしかやっていませんし……レ、レビューって、どうでしょうか?(錯乱)





