表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【更新不定期化】AllFreeOnline~才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します~  作者: 山田 武
第〇四章 試練の魔王と堕ちる者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

146/2525

04-41 撲滅イベント その19

加筆・修正しました(2020/09/15)



 今なお、亜竜の口内では敗北を誘う死の光が生みだされている。

 周りには俺の女たち、そしてクースが倒れている……が、全員は助け出せない。


 おまけに“光迅脚”や“光迅盾”が使えない以上、散らばって倒れる彼女たちの中で、救えるのは──たった独り。


 俺は、どうすればいいんだ!


『──何を言うか、お前にはもう分かっているんダロウ?』


 先ほども感じた、脳裏に過ぎる声。

 希薄だったときとは異なり、より鮮明に、よりはっきりと内容が認識できてしまう(・・・・・・)


「お前は……いったい誰だ」


『おいオイ、今までいっしょに生きてきただろうに──俺はお前で、お前は俺ダヨ。……さっきの話だが、誰を助けるのか決まっているはずダ。どうしてさっさと動かナイ?』


「選べるはずがないだろう! アイツらは俺の女、守る義務があるはずだ!」


『……ふーん。お前、本当にそう思ってるのカ? 本当はアイツらは見捨ててもいいと、心のどこかで思っているんじゃないカ?』


 スッと頭に沁み込む、その声を振り払うように体を振るった。

 そうでもしないと、どんどんその考えに蝕まれそうな気がして。


「そんなこと、思っているはずが……」


『隠すなっテ。俺はお前ダ、すべて分かる。お前はこう思ってイル──「アイツらには後で誤ればいい、今はあの女──クースを助けて好感度を上げるべき」っテナ』


「…………」


 図星だった。

 だからこそ、沈黙する。

 これ以上はいけない……しかし、声はさらに俺の奥深くへ──


『認めろヨ。それが【傲慢】で【強欲】なお前の本性ダロ。お前は【勇者】、そしてここは仮想の世界……本当に望んだ力を、解放してミロ──欲望の限りナ』


「そう……だな。なんで俺が、こんな目に遭わないといけないんだ。悪いのは【魔王】、悪いのは運営、悪いのは世界だ。俺は俺のやりたいようにやればいい、アイツらには……あとで謝ればいいだろう」


 今はクースを救うことだけを考えて、行動するべきだろう。

 あの亜竜、そして【魔王】は俺の経験値になるんだから光栄に思えばいい。


 行動を決めたので、すぐに俺はクースの下へ駆けつける。

 もっとも俺から遠い場所に居るのだが……そんなことは関係ない。


 なぜそうなっているのか、どうしてこんな状況になっているのか、そもそも……あの声はいったいどうして、このタイミングになってから聞こえてきたのか。


 それらすべてに、今の俺は気づくことができなかった。

 ……もし気づいていたならば、俺がああなることは無かったのだろう。


          ◆


 俺からクースまでの距離は、全力で走ってギリギリというところ。

 能力値に物を言わせ、走り抜けてどうにかその場所まで辿り着いた。


 亜竜は間もなく、充填を終えて『息吹(ブレス)』を吐き出すだろう。

 覚悟を決めた今、耐え切ることは可能……だが、それでは()えない。


「今なら……いけるか?」


 先ほどから感じていた、過ぎったナニカと共に胸の中から漏れ出した黒い思い。

 それはなぜか、魔力のようにエネルギーとして使えると感覚的に理解できた。


 一流のプレイヤーになれば、魔力操作ぐらいは簡単にできる。

 意識的にその黒い部分を掬い上げて、使えないはずの能力を使う。


「──“光迅盾”!」


 手の先から、慣れ親しんだ盾が生まれる。

 おそらくそれは、俺の思い……隠さなくていいか、欲望を糧に生みだされたモノだ。


 だからこそ、強く思えば思うほど盾の強さは堅固になる。

 ……逆に言えば、この状況で欲望を高めないと、盾はどんどん光に侵食されていく。


『どうしタ、欲望が足りないゾ? もっと燃やセ、もっと願エ──お前の欲は、所詮邪魔者に阻まれる程度なのかヨ!!』


「言ってくれるな……なら見せてやる、これが俺の、本気の欲だ!」


 クースを頭の中に思い浮かべ、思うままに支配する光景をイメージする。

 綺麗な女だ、だからこそ……俺が支配するに値するのだ。


 そうして考えれば考えるほど、黒い力は無尽蔵に製造されていく。

 すると盾は──真っ黒に染まり、息吹を容易く跳ね除けるように。


『だガ、まだ足りナイ』


「くっ……」


 黒い力は欲望を糧にしている。

 だが、本来“光迅盾”に使うことが想定されていないのか……それを使うようになってから、魔力がどんどん減っていた。


 亜竜の息吹はまだまだ続き、その勢いに衰えは感じられない。

 逆に黒く染まった盾は、少しずつ元の脆弱な光の盾に戻ろうとしていた。


 焦燥は心の隙を生み、黒いナニカがそれを埋めていく。

 より根強く、根深く沁み込む言葉は……俺にとって福音となる。


『欲望ヲ、解放シロ。思いを吐ケ、想いを露セ。声を出セ、声に出セ──解キ放テ!』


「俺は……俺は──すべてを手に入れる!」


『そうダ、吐露シロ!』


「物も力も……女すらも、すべて手に入れて見せつける! 俺こそが勝者、俺こそが最強なんだ──こんな亜竜に負けるわけがない、俺には圧倒的な力があるんだからなッ!!」


 再びぶわっと光の盾は黒に呑まれ、その純度を高めた。

 今や純黒と呼べるほどに染まりあがった盾は、息吹を逸らすのではなく……呑み込む。


 亜竜の息吹を俺は凌いだ。

 呑み込む力は止まることなく、延々と続く猛攻を物ともしなかった。


 すべてが終わったとき、俺は辺りを見渡した──クースは、俺の後ろにいる。


「……他はみんな、死んだか。アイツらは死に戻りしたな──まあ、別にいいけど(・・・・・・)


『ハッ、ずいぶんト黒く染まったナ。けド、だからこそ使えるゾ、誰もより強くなれル、最強の魔法ヲ』


「教えろ」


『いいゼ、心の赴くままに詠エ。これは堕落なんかじゃナイ、栄光へ続く鍵ダ』


 よく分からないことを言うが、それは今さらだろう。

 重要なのはその魔法とやらの力で、俺はより強くなれるということ。


 亜竜もすぐに息吹を吐き出した疲労から回復し、俺を殺そうとするはずだ。

 防ぐだけならともかく、攻撃にも闇を回せない以上──それを使う他ない。


          □


「──落ちろ、墜ちろ、堕ちろ」


 俺だけに捧げられた、世界への宣誓。


「──光を歩みし者へ、踏み外した先には混沌を」


 心のままに詠唱していると、勝手にこの魔法に関する情報が流れ込んでくる。


「──闇を進みし者へ、彷徨うそこには無秩序を」


 本来【勇者】とは外すことのできない職業で、ある使命を課せられるらしい。

 それは就いた奴によって違うらしいが……俺の場合は、運営の駒。


「──遍しモノは停滞し、安寧を望み未来を失う」


 それが嘘か本当か、実際のところは不明。

 しかし心当たりはある……わざわざ初期に【勇者】を与えたのだから、思惑の一つや二つあったのだろう。


「──なればそこに、種は芽生える」


 だが、そんなこと知ったことか。

 俺は俺のやりたいようにやるだけだし、誰の指図も聞く筋合いはない。


「──総てが欲望、望むは終息」


 この魔法はすべてを塗り潰す。

 課せられた使命も、本来の運命も、俺自身の在り方も……。


 正しい道を踏み外し、堕落した【勇者】に与えられたその魔法(うた)の名は──


「終わりの先を今ここへ──“万象堕落”」


          □


 体から力が湧き上がってくる。

 これまでは意識して使わねばならなかった黒い欲望の力を、今では呼吸するように簡単に使えるように。


「今ならすぐに殺れるな」


『ギャァアアア!』


「雑魚が──“闇迅脚”」


 その場で咆えていた亜竜に、新しく獲得した力を試す。

 これまでのように勢いよく踏み出すのではなく、影踏みの要領でとんっと蹴る。


 それだけで──俺の視界は亜竜でいっぱいになった。


『ギャッ!?』


「遅い──“闇迅剣”」


 剣に黒い靄が纏わりつくと、鱗をバターのように斬り裂く切断力を得た。

 代わりに破邪の力を失ったようだが……代わりに威力が上がっているから充分だ。


『ギャァアアア!』


「うるさいな──“三連撃(トリプルアタック)”」


 剣を素早く三回振るう武技で、より深く亜竜の体へ傷を付ける。

 どうやら状態異常も発生させるようで……今の攻撃で『狂乱』が付与された。


「っと、また息吹か……ちょうどいい」


『ギャァアアアアアアアッ!!』


「おらよっ──“闇迅盾・吸収(アブソーブ)”!」


 状態異常の名の通り、狂ったように吐き出した魔力を前に──俺は掌をかざすだけ。

 これまでと同じように生みだされた盾、しかし今回は絶対的な自信を持って構えた。


 純黒の盾が一度目の息吹を飲み込んでいたが、あれは真の意味で呑み込んではいない。

 だが、先ほどの魔法で俺は【勇者】という縛りから外れた。


 その結果、【勇者】が【堕勇者】となったのだが……別にどうでもいい。

 重要なのは力を得たこと──吸い込んだ魔力を、今なら自在に操れる。


 盾はその闇を広げ、俺を包む膜となった。

 亜竜の息吹はそこに触れた途端、攻撃性を失いただの魔力となる。


「返してやるよ──“闇迅盾・反転(リバース)”!」


 それを今度は俺のモノとして使い、そっくりそのまま返却した。

 闇色の膜は亜竜の形を成し、息を吸う挙動から黒い魔力の塊を吐き出す。


『ギャ──ッ!』


「俺に逆らうからこうなるんだ。さて、レベルは……チッ、上がらないか。それぐらい寄越せよな、ケチ臭ぇ」


 目の前に展開された扉、クースがふわりと浮かび上がるとその中へ運ばれていく。

 ……ゲームクリアか、今の俺の力なら何でもできる。


「終わらせようぜ、【魔王】」


 ここで感じた憂さを全部、アイツにぶつければ少しは晴れるだろうよ。



修正前は詠唱を、少々外国語言語でやったりしていましたね

……高二病に感染していたのかもしれません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ