偽善者と橙色の世界 その09
忘れた方への武具紹介
模宝玉:武具を完全コピーできる水晶玉
無槍:ありとあらゆる槍・矛系の性質を使える伸縮自在かつ透明な槍
天魔創糸:万能な糸、異様な魔力伝導率を誇る
「二人とも凄いねー」
「ああ、凄い凄い……いちおうでも聖霊使いなのに、俺たち全然呼ばれないな」
「そりゃあねぇ、最初は正々堂々と一対一で闘いたいんじゃないの? 誰もがみんな、メルスンみたいな捻くれているわけじゃないんだからさ」
「そうかもな……ぁって、俺ってそんなに捻くれてないぞ。そんなんだったら、偽善者をやろうなんて考えないからな」
リアとライカによる模擬戦、それはとても苛烈なものだった。
互いに魔力を用いた身体強化によって、男性の身体能力を凌駕した動きができる。
そしてこの世界特有のシステム──装華。
ある意味、一人ひとりに固有スキルが存在するようなモノだった。
「ほへー、凄いねー。わたしの[橙雪]ってどーにもできないのが自慢だったのにー」
「そうでもないよ。ぼくもこうやって、捌くのが精一杯だ」
「まほーってのもまだ使わないのにー?」
「彼女たちの力を借りるのは、ライカちゃんが本気を出してくれた時だね。まずは、君の期待に応えないと」
リアがドレスアーマー姿なのに、物凄く貴公子っぽい台詞を言っているのはさておき。
ライカが使っている[橙雪]という装華は本当に強い。
「剣もダメだしー、槍もダメー。ならー、次はこれかなー?」
もともとは剣と盾だったはずのそれは、槍と化していた。
だがそれも今、新たな形へ作り変わっていく──その姿を、花吹雪のように散らして。
「じゃじゃーん、ナイフにほーん!」
「……間合いに入られると厄介だね」
「だからこそ、だよねー」
槍は剣よりも遠くに攻撃できるのだが、間合いに入られればそれは隙となる。
いかにしてそうならないように闘うのか、それが問題だ。
「いっくよー──“双斬撃”!」
「ちゃんと間合いさえ分かれ……っ!?」
「あれー、失敗しちゃったなー」
リアは接近してきたライカに、槍を当てられる……はずだった。
だが彼女はナイフが届くよりも早く、そのナイフを武技の軌道に合わせる。
本来はただの空振り。
だが、何かを感じたリアが離れるのとほぼ同時、リアの体の在った場所にまだ残っていた槍が何かとぶつかった甲高い音を立てる。
「……ねぇねぇメルスン、今のはどういうことなのかな?」
「こういうとき、王道だと自分の能力を教えてくれるんだぞ。それか、リア自身が暴いて相手に訊くと素直に答えてくれる」
「──驚いたよ。君の装華、もしかして好きなだけ伸ばせるんじゃないか?」
「せーかーい! そーだよー、だから長いも短いもじゆーじざい。……けど、分かってもどーしよーもないよねー?」
武器の有効距離が変わるだけで、それぞれの武器の優位性が大きく変わる。
長柄の武器は遠くまで届く代わりに、扱いづらい物がある……だが短剣などの扱いやすい武器が一瞬だけ伸びるとすれば?
どれだけ長かろうと、遠心力さえ働いていれば振るうことができる。
そして、それが終わった時点で元の長さに戻れば……彼女にデメリットなど無い。
「ほらほらー、わたしは見せたよー。だからそっちもー」
「……そうだね、じゃあお言葉に甘えて」
《ユラル、メルス。どちらが出たいかい?》
ようやく湧いた聖霊たちの出番。
だが、さすがに三対一はイジメになってしまうと判断だしたのだろう……リアはどちらかの参加を求めてくる。
「ユラル、どうする? 俺はこっそりコピーの作業に行きたいからパスしたいんだけど」
「んー、なら私が行こうかな? メルスンもそうだけど、なかなか聖霊らしい使われ方がされないからねー」
「というわけでリア、ユラルで」
「──了解。ぼくの魔力を捧げる、顕現せよ樹聖霊!」
適当なフレーズを唱えてもらってから、ユラルは半透明な状態になった。
やっぱり演出は大切なので、連絡が取れてもこういうことはやっておく。
……けどまあ、恥ずかしいよな。
俺も示すように魔法を使わなきゃいけないときは、いつもこんな感じなのであんまりからかうことはできない。
『お待たせ―。何か用かなー……って、わざわざやる必要あるのかな?』
『もしかしたらバレるかもしれないけど、それでもいいって言っていたからね。別にいつも通りでいいと思うよ……ほら、メルスも作業を始めたみたいだし、ぼくたちも戦闘で誤魔化さないと』
「えー、なんて言ってるのー?」
「聖霊と対話するための言葉だよ」
なんて会話をしている間に、俺はライカの近くに向かい『模宝玉』を取りだす。
このとき、『無槍』の能力を使うことで水晶そのものを透明にすることを忘れない。
形状は『天魔創糸』にしておいて、ピトッと鎧になっている彼女の装華に張り付ける。
そして模宝玉固有の能力──つまり模倣を発動し、フルコピーを実行した。
「──ッ! ……そこかなー?」
だが、ライカはその瞬間糸を断ち切る軌道でナイフを振るってくる。
別にその程度で斬れる物でもないが、それでは俺の存在を確信されてしまう。
仕方なく一度糸を取り外し、少し離れた場所へ後退する。
『……まあ、バレて当然か。リア、ユラル。『勇者』のサンプルが欲しい! どうにか押さえておいてくれ!』
《その台詞、悪党にしか聞こえないよ。けどまあ、分かったよ》
『ユラル、樹をお願い』
『もう、仕方ないなー。それっ!』
「これが理由だったのかなー? なーんか違う気がするけどー……まずは避けないと」
上手くユラルが捕縛用に生やした樹と、俺の反応を勘違いしてくれたようだ。
……さて、あとはユラルの魔力反応に同調させておけば問題なしっと。
チャンスはそう多くはない、終わる前に終わらせないとな。
自分は戦わず、こそこそと相手の力をコピーする主人公……それって、主人公のすることでしょうか?
しかも相手は選ばれし『勇者』、パクっただけで犯罪になりそうです
ちなみに彼女の装華は『勇者[橙雪]』、代々の『勇者』は『勇者[○○]』という名前の装華です
同様にして、装華にはある法則性が働き同じものは本来二つとして存在しないのです
p.s.
なんてこともあり、花っぽい二字熟語を応募します(感想へどうぞ)
次の話で出るので例えとして出しますが、眠り姫の装華は『■■[睡蓮]』です
……これでは例えにならなかったのですが、二文字の熟語のどちらかを花っぽい字にするということです
睡蓮→水蓮、みたいな感じです





