偽善者と橙色の世界 その03
≪──……に……が……した。……は、すぐに…………さい≫
花の上では、何かの放送のようなものが流れ始めていた。
ここからではさすがに遠く、すべてを聞き取ることはできなかったわけだが……。
「いやー、俺このあとの展開がなんとなく分かった気がするんだが」
「それも、メルスンの世界の物語の流れ?」
「そうそう。わざわざここに少し届くほど、つまり花全域に伝えている。これは国総出で歓迎してくれているか、逆に迎撃するって証になる。この場合、間違いなく後者だろう」
「なるほど。つまりこれから、リアは国を相手取らないといけないわけだね!」
あははっ、と笑う樹聖霊と嵐聖霊(偽)。
一方、その契約者(仮)となっているお姫様はこめかみを解している……何かストレスになるようなことがあったのか?
「君たち……ぼくは空に居るってだけで弱体化するんだよ? なのに、どうして全部ぼく任せみたいな流れになっているんだい? いちおう契約したんじゃないのかい?」
「いやぁ、だって……」
「リアなら余裕だろ?」
「それは……そうだけど」
うん、弱体化しても強い者は強い。
地面から茨を生みだせないのであれば、別の場所から茨を生やせばいいじゃない。
相手が精霊を視ることができるのか、そのテストもあるので……いや、それよりも先に花の上の人々がどうやってここに来るのかとかも見ておかないとな。
「あっ、メルスン来たみたいだよ!」
「どれどれ……あれは、花か? 機械とかは使わないで、まさかの空飛ぶ花が存在しているのか? まあ、正解はまだ不明だけど。さてご主人様(仮)、どうする?」
「……あれだったら、触媒に使えそうだけれど。使ったら、間違いなく墜ちるね」
「墜落されたら目覚めが悪いか。相手も覚悟しているだろうけど、侵入者の迎撃が目的なのに異世界人に殺されるってのも……可能な限り、生かしておこうか」
力があるからこそ、生殺与奪の権利を保持することができる。
今回の場合、それは飛んでくる者たちを生かすか殺すかだな。
スピーカーのような花(?)を持ったツタでできた戦闘服っぽいヤツに身を包む男が、こちらに向けて叫ぶ。
『貴様、いったい何者だ!』
「どうやら二人は見えていないみたいだね。──ぼくは旅人だ、都市に入れてほしい!」
『ふざけるな! 貴様のように『装華』を纏わぬ者が、空を渡れるはずがないだろう! 何者だ、新型の『魔粉』なのか!』
「……どうしよう?」
ふむ、なんだかわけのわからない新単語が盛り沢山だな。
赤色の世界は『赤の理』以外はだいたい同じだったのだが……こっちは違うのか。
リアと予め言う内容に関して決めてあったものの、さすがにこの世界が創作物みたいに固有の単語でいっぱいだとは思わなかった。
なので、新しく作り直す必要があるか……どうしようか。
「そうだな、とりあえず…………で、──な感じでやってみてくれ」
『貴様、答えぬのであれば魔粉ということで排除させてもらうぞ!』
「そうかい。なら、やってみなよ。ぼくは誰がなんと言おうと人族さ。文句があるなら、コレで決めてもらおう」
少々引き攣った笑みを浮かべ、相手ではなく俺を見ながら拳を構える。
なぜか俺に見えるように中指を伸ばしているのは、何かの意味があるのだろうか?
「ほら、掛かって来なよ」
『……調子に乗るなよ。たとえ貴様が本当に同朋であったとしても、その目に余る行為は許されるものではない! ……だが、力が必要なのは確かな話。ならば、その命を以って証明してもらおうか!』
「おー、メルスンの作戦通りになったー。どうやったの、メルスン?」
「いや、なんとなく。『導士』の力でも働いたんじゃないか?」
シュリュの『覇導』はそれらしい誘導をしていたみたいだし、物語的ご都合主義が働いたのかもしれない。
『かかれー!』
「あとは俺とユラルでサクッと解決。リアが何をしたのか分からない……みたいな感じで締めれば気になったヤツが声を掛けてくる」
「なるほどー。あれ? それって、結局私たちでやっつけちゃうんだね?」
「リアは交渉担当ってことで。俺たちが代わりに交渉(物理)をしてやらないと。さて、そろそろ来るか──“聖霊変質”」
属性を変えても魔法が維持できることは実験済みなので、嵐属性から異なる属性へと存在を書き換える。
いちおうリアの方を確認するが、呆れた表情をしているだけで突如地面に真っ逆さまみたいなことにはなっていない。
「それじゃあ、リアはさっき言った通りめっちゃ強いヤツ感を放っておいてくれ。その間に見えない状態のまま俺とユラルでサクサク拘束して動きを止める。そしたら、また同じように演技をしてくれ」
「分かったよ」
「じゃあユラル、行くとしますか」
「……それ、やりすぎじゃないかな?」
俺が切り替えたのは重力属性。
仕組みがどんなものであろうと、人が生きている限り重力に抗うことはできない。
俺がそうして動きを封じている間に、ユラルが魔力を奪う樹でも花の中に生やせば……はい、それだけで拘束は終了するわけだ。
重力の聖霊……ありとあらゆる概念に精霊は宿ります
問題はそれが表面化しているかどうか、活性化していないどうかです
誰もがその存在を周知し、精霊としての在り方を定めたとき……その姿は人々の前に現れるでしょう
p.s.
誰かと誰かの絡みが見たい、そういう意見を絶賛応募中です
書きづらい者はSS(番外月)になりそうですが、ネタに詰まっている作者は本編に送っていただいたアイデアをツッコむ予定です
……率直に申せば、ヘルプミーです





