偽善者と星の海 その10
第五惑星
我々人類は、ついに到達した。
まだ誰も来たことのないそこは、活動可能とされても技術的な問題などによって辿り着けていない未開の地。
「ここが火星(仮)か……ここ、Gとかいなきゃいいけど」
「なぜじゃ? これまでの傾向から見ても、クジラ以外の魔物が居るはずなかろう」
「ああ、うん……分かってはいるんだ。だけど、異世界人はみんな気にすることなんだ」
俺だけではない、カナタやアイリス、それにアカの姉弟もまた知っているのであれば、絶対に注意するだろう。
少なくとも火星モドキの迷宮を見る限り、あまりおかしな点は見受けられない。
……そう、迷宮という意味では異常は確認できなかった。
「主様よ、光の道では無くなったのう」
「人が活動可能ってことなんだろう。だから自分で自由に動けってことなのかもな」
「このような場所では、クジラも空からしか迫れぬのではないか? いや、それゆえに主様は別の存在を警戒したのであるか」
「……えっ? あっ、あー。そう、だな。そういうことだ」
それなら別に、Gだけを警戒しなくてもいいだろうに……いや、もっとも環境適応能力が高い生物を挙げるのは間違ってないか。
それにこんな場所だ……普通の生物じゃ、対応なんてできないだろう。
「たしか火星は大気が薄いし、重力が小さいせいで水が失われたらしいぞ。世界は冷えているから氷結しているらしいし、空の上でも寒い場所特有の現象があるようだ」
「……では、なぜ火星なのじゃ? 水や氷に関する名が付くのではないか?」
「足元を見れば分かるが、赤いからな。地球から見れば赤っぽいイメージだったんだ。ちなみにこれは酸化鉄──赤さびをいっぱい含む岩石が地表を覆っているかららしいぞ」
「たしかに。見渡す限り、一面が赤く染まっておる」
ここは冷たい風が吹き荒れ、来る者から体力をガンガン奪っていく。
しかもそれは昼のレベル、夜になるとさらに苛烈な勢いで殺しにかかってくるだろう。
普通の者ならどう攻略するだろうか……海王星から順にやっているのであれば、最初と同じように対策を施せばいいのか。
……あっ、俺とソウは(ry。
「寒さだけの場所だが、その分面倒臭い地形がセットなんだろうな。クジラは……ああ、とりあえず上に居たな」
「主様、あれもどうにかしておくか?」
「無益な殺生……とか今さら言うのもおかしいけど、襲ってこないならこっちから仕掛ける必要はないだろう。せっかく泳いでいるんだ、そのまま放っておいてやる」
「相分かった。主様がそう言うのであれば、儂も戦う必要がないほうが楽じゃ」
とりあえず、地表には陸を泳ぐクジラ……なんてヤツがいないことを確認してから、再び迷宮核を求めて移動を開始する。
こんな環境なんだから、おそらく核も普通に地表のどこかに隠されているだろう。
「そうなると、俺のスキルで探すのが手っ取り早い気がするな」
「どうするのかのう、主様」
「……まあ、使うか」
迷宮知覚スキルを行使し、辺り一面を探っていく……さすがにすぐ見つけられるなんてご都合主義はないので、再びやり直しとなったわけだが──
「主様……」
「うわっ、マジかよ」
「どうやらスキルが放出した魔力の波動に反応し、クジラは動くようじゃのう。主様のスキルの範囲は広大……こうなるわけじゃな」
「あっ、えーと、そのー……すまん」
クジラが突如動きだし、いっせいにこちらへ向かって突撃してくる。
しかもそういう罠的な起動の仕方をやっているからか、なんだかいつもより凶暴そう。
さすがにこれは罪悪感がな……。
いっさいソウは悪くなく、その気になれば隠すこともできたのに、怠った結果クジラを呼びだしてしまった俺の怠慢が原因だし。
「まあ、ソウなら余裕だろうけど……」
「うむ、あれくらいであれば二十だろうが三十だろうが余裕じゃが?」
「…………よし、とりあえずアイツらにバレないように探ることを目的にするか。ただ、今回はサクッと進みたいから、ソウが全部倒したら次をって具合にどんどんやるぞ」
「速くできるとよいのう」
人化状態で龍の翼を背に広げ、上空へ向かうと殲滅を開始するソウ。
己の練り上げたエネルギーを拳や脚、翼に纏わせてクジラを屠っていく。
「スキルなら【神出鬼没】や超級隠蔽を使うのがベストだろうな……それをイメージだけで行うには、どうすればいいか。今回のクジラの場合、魔力の波動が引き金なんだよな」
コッコッと足を踏み鳴らし、迷宮核を探ってみるが……迷宮知覚スキルよりも範囲が狭いので、余計に見つけづらい。
「擬似魔眼もやったし、やっぱり魔力込みでやるべきだな。うーん……なら、闇属性の魔力で隠蔽性を高められるかな? …………できるのかよ、チートスペックだなー」
改めて迷宮知覚スキルを起動するが、近づいてくるクジラの数が減った。
ソウが殲滅しているのもあるだろうが……それでも効果があるのだと思いたい。
「範囲を広げれば──あっ、見つけた」
「むっ、主様。どうやらその顔は見つけたようじゃのう」
「ああ、早く行こうか……次が楽しみだ」
これまで五つの惑星(型迷宮)を巡り、その順番に法則性を見出してきた。
海王、天皇、土、木、火とくれば……その次の場所は──あそこに違いない。
今回もいろいろと裏ではやらかしています
普通は失敗したら大被害を受けるはずですし、探知が成功することもめったにありません
相応の職業に就いて補正にあやかり、レアなスキルで探ってどうにか……みたいな感じでした
p.s.
修正話──更新しました
今回は第二・三世界を歩きます
少しずつ……修正のストックが尽きてきたんですよね





