04-29 撲滅イベント その07
加筆・修正しました(2020/06/23)
レミルが奇行に走った後、すぐに襲ってきたリア充及び非リア充たち──つまり全員。
前者は仲間の弔い合戦を、後者は完全な私怨が理由で共闘していたっけ?
それらすべてをレミルは迎撃し、俺との接触を続けている。
何がどうしてそうなったか分からないが、レミルはなかなか止めようとしないのだ。
「ぐんぐんレベルを上がるわけだ……スキルも手に入っているだろう?」
「はい。光魔法や回復魔法、大剣術及び大盾術なども習得しております」
「そっか、順調で何より。──で、いつまでこうしているんだ?」
「メルス様が嫌というまで……ダメ、でしょうか?」
最高の感触が俺の思考を鈍らせ、延々とこの時間を送らせている。
祈念者が来ては正常な思考を取り戻し、ダメだと思うがすぐに思考を奪われてしまう。
なんという悪魔の罠。
天使であるはずなのに……ハッ、天魔の守護にはこんな隠し効果まで!?
だが……俺は甘い男ではない。
血が出るんじゃないかというレベルで唇をギュッと噛み締め、泣く泣く言わねばならない台詞を伝える。
「離せ、レミル」
「あと三分……いえ、分かりました。申し訳ありませんでした」
「……そんな顔をしてほしかったわけじゃないんだ。ただ、いつまでもこうしていると、俺の決心が鈍るからな。すまないが、時と場合を今度からは考えてみてくれ」
「……畏まりました」
血涙を流す覚悟で告げた言葉で、ようやくレミルは引っ付き虫を止めてくれた。
しかし、まだ諦めていないのか、瞳がうるうるとしているので……目を逸らす。
そうしていると、気配探知スキルによって知っている気配が近づく様子を掴めた。
レミルもすぐに反応しており、武具を下げて迎え入れることになる。
「何かあったのか、フェニ?」
「なに、ちょうどご主人の気配を見つけたので挨拶に行こうと……しかし」
なぜか言い淀むフェニ。
どうしたのだろうか……ま、まさか、どこの馬の骨かも分からぬ輩に絡まれ──
「そこの女は、いったい誰なのだ?」
その表情からは、負の感情染みたものは感じられない……眷族の感情は、なんとなく分かるようになったんだよな。
ともかく、互いに察してはいるだろう。
それぞれ同じ印を刻む者、知覚できるとすでに調査済みだし。
「ああ、紹介するよ。こっちはレミル、フェニと同じく眷族で家族……まあ、とりあえずの志望は盾らしい」
「フェニ様ですね、お話はレン様より。私の名はレミル、以後お見知りおきを」
「──で、こっちはフェニ。レンの迷宮の守護者で、眷族と家族……うん、そしてハーレム一号さんです」
「おお、レン様から。ふむ、私はフェニ。こちらこそ、よろしく頼む」
こちらこそ、とレミルもフェニと軋轢なく挨拶が終わる。
少し恥ずかしくて誤魔化してしまったが、そこに関しては何もツッコまないようだ。
「しかし、ご主人。私との時間はごく僅か、だというのに……」
「フェ、フェニさんや?」
「……ご主人に、私の気持ちが理解できるだろうか?」
自分、物凄く不満ですというフェニ。
抑えていたものが、出てきたのだろう……それを向けるのが俺だけでよかった。
ならば、解決もできよう。
とっておきの方法を、俺は知っている。
「…………今度、フェニの望むやり方でやってやる」
そう告げると、少々不服そうだったフェニの表情も満足気なモノへ。
その『や』にどんな当て字が入るのか、喜びや悦びに満ちた顔が教えてくれるよ。
「面目ないってヤツだな。完全に周りに流されててさ」
「コホンッ……ご主人だからな。まあ、それもそれで愛いところだと思う。しかし……レミル殿。レミル殿は盾、つまりご主人の守護者になりたいというのか?」
「はい。それが今の私にできる最大の──」
「足りないな。レベルが、というわけではない。もちろん、覚悟も足りている。単純に、力が足りていない」
そんな中、フェニがレミルに告げた言葉。
なんだか雲行きが怪しくなってきた気もするが、レミルもレミルで心当たりがあるような表情をしているので様子を窺う。
「ご主人には悪いがはっきり言っておくと、祈念者たちは弱い。だが、ごく一部の者たちは我も敵わない。無論、ご主人の恩恵に頼り切りならば話は別だが」
「…………はい」
「人族は魔物のように単純な力比べをするわけではない。工夫、技術、テクニック、呼び方はさまざまだが、持てるすべてを費やすことで魔物を倒している。ただスキルの力を使う現状では──守り切れないぞ」
俺もまた、ある意味能力値頼りの戦いではダメだと考えて技を磨いた者の一人だ。
俺より強い奴なんていくらでもいるのだから、生き残る術を確保しなければならない。
……何よりも、単純な力を得ることを避けているのだ、相応の苦難困難が降りかかってくるのも当然と言えよう。
「フェニ様──どうか私を鍛えてください」
「ほぉ……なぜだ?」
「フェニ様の仰る通り、私には力が足りていません。私自身、全能感に溺れた末にメルス様に敗北した身。独りで力を付けようと、敵わない敵がいることは百も承知。ですが、それでも私はこの方を守り抜きたい!」
「レミル……」
たとえばだが、正々堂々と『ユニーク』相手に戦えば負けるだろう。
俺やフェニがいっしょに居ても、分断されて同じ結果になる。
彼女がどうしてそこまで俺を守ろうとしてくれるのか、今の俺では理解できない。
しかし、それでも純粋な想いだけはしっかりと伝わってきた。
「……うむ、ご主人を守りたいというその気持ち。さすがはご主人の選んだ眷族、そして我と同じ家族。その想い、しかと見させてもらったぞ! ならば我も、その想いに応えて手を貸そうではないか!」
「あ、ありがとうございます!」
「──というわけでご主人、今から我とレミルはさっそく修練に入る。すまないが、しばし外させてもらう」
「ああ、俺も自衛ぐらいはできる。だからレミルも、そんなに申し訳なさそうな顔をしないでくれ。こっちはスーに頼むからさ」
そんなこんなで、二人には人が来ない場所の座標を教えて転位してもらった。
避難所として隠蔽工作なども済ませてあるので、気づかれることは無いだろう。
「……でも、寂しくなったなー」
再び誰も居なくなった戦場。
レミルとフェニが一蹴してから行ってくれたため、この場には誰もいない。
……やることが無くなってしまった。
はてさて、どうすればいいのやら。





