偽善者と邪気錬金
夢現空間 生産室
錬金術絡みの問題だった……ということもあって、俺の気分はそれ一色だった。
あらゆる生産活動に対応した生産室の中、暇潰しにさまざまなモノを生みだしていく。
「はあ……これが『悪徳の妙薬』か。オリジナルの性能はともかく、同じ名前として認定される物にはなったみたいだな」
祈念者謹製のアイテムなので、生産神の加護を持つ俺でもすぐには作り方が分からず、暗中模索感覚で錬金していた。
しかしこれは、間違いなく俺の作り方。
痛々しい錬金術師ヘルメギストスが作ったレシピは、俺のやり方とは異なるだろう。
「悪徳の泥(仮)を混ぜたレシピなんて、普通は使えないだろうし……となると、前に試したアレが使えるか?」
終焉の島には邪気が漂う場所があり、そこに生息する生物は微量ながらに邪気を身に宿している。
そしてそれは魔物だけでなく、植物も……『邪香草』という草もまた、その一種だ。
これは終焉の島だけでなく、すでに大陸側でも発見している。
「そんな草から邪気を抽出して、集める。それを丸薬にして中に閉じ込めれば……まあ、これが本来のレシピかな?」
状態異常を引き起こすアイテムなのだが、それ以上に邪気を使うことがポイントだ。
これを混ぜるだけで、今回の麻薬みたいにアイテムに変化を持たせることができる。
回復アイテムはその効果を減衰や反転させたり、攻撃アイテムはその効果を増したり。
決して、その行為そのものが犯罪というわけではない。
ただし邪気を扱うのは、この世界の人々的にアウトと認識されている。
「ただまあ、そんな倫理観を祈念者は持ち合わせていないからな……だって知らないし」
邪気云々は忌み嫌われている場合も多く、文献を真面目に読むようなヤツでも無ければ知らないだろう。
しかも情報はスキルを持たない祈念者でも読める共通語ではなく、少々古い言語の場合が多いため、知られていない。
掲示板には上がっているかもしれない……だが作れるアイテムが便利ならば、そんな倫理観は無いも同然になるだろう。
「『悪徳の妙薬』を作るために必要な錬金術スキルのレベルは低い。最低限抽出さえできれば、なんとか作れそうな気がするし。レベル上げに必要ないのが幸いだったな」
入ってくる錬金術の経験値的にそうなのだろう……邪気を扱う特化した錬金術師ならともかく、普通の錬金術を尊ぶ者にとって、邪気は害悪だろうに。
「ああでも、こういう使い方だったら役に立つのか……って、ここでやると危ないな」
邪気を含んだ錬金、そのいい方法を閃いたが生産室でやりたくは無かった。
なので部屋を後にして、それができる場所に移動する。
◆ □ ◆ □ ◆
修練場
「はーい、というわけで今からデカい魔物を生みだしまーす。倒したい奴はここにサインしてねー。抽選するからなー」
イベントに欠ける夢現空間なので、この場に居た暇な眷属たちがササッと署名する。
その中から厳選かつ適当な抽選の結果、一人の眷属が選ばれた。
「えー、お前かよ」
「……何か不服かのぅ、主様よ」
「いやだって、お前が出たらほぼ確実に苦戦なく勝利するじゃん……はぁ、チェンジできないかなぁ」
「ぐふぅっ……そ、それでこそ主様じゃ」
世界最高峰の戦闘能力の持ち主、おそらく『超越種』にもなれた化け物。
そして何より今は被虐体質の……銀色の古龍たるソウだった。
人化しているものの、マイナス効果のはずの能力値低下を超えた技術の体得。
天賦の才とかそういう次元じゃない……異常の一言で纏められる才覚の持ち主だ。
「まあ、別に良いけどさ。それじゃあ、実験の開始だ」
トンッと足を踏み鳴らすと、<箱庭造り>を起動して地面を操作する。
形成するのは50mほどの巨大な魔法陣、そしてそれを覆う巨大なコロシアム。
魔法陣には各地に触媒を捧げる儀式台が形成され、杯のような物を置いておく。
「それぞれに、だいぶ前に採掘したまま忘れていたドラゴンの骨を入れていきます。……化石状態だと『竜の化石』としか出ません」
ランダム性のあるやり方だが、だからこそ最悪の方向へ傾いてもらいたい。
頭、胴体、翼、尻尾など各パーツを魔石といっしょに杯に載せていく。
「そして最後に、中央の巨大な杯にはとびっきり大きな魔石を……そして『悪徳の妙薬』濃縮バージョンを入れて──完成です」
あとは魔力を流すだけ。
夢現空間なので縛りによる束縛の無い今の俺が持つすべての魔力を注ぎ込み、この蘇生儀式を執行する。
「さてさて、何が生まれるかなーっと。話が通じる相手じゃなかったら──ソウ、すまないがサクッと殺っちゃってくれ」
「うむ、承知した。じゃが、主様がすべてを取り仕切った儀式から生まれる存在……そう簡単にはいかんじゃろぅなぁ」
「化石になっている時点で、生存競争の負け組だ。お前には勝てないだろうさ」
「……そうじゃな。どんな相手であれ、儂も潰せばよいだけのこと」
そして魔法陣は輝き始める。
外側の化石たちが光を発し、それが中央の杯へ向かい──どす黒く染まっていく。
ああ、うん、予想はしていた。
けどやっぱりというかなんというか……何か、ありえない現象が起きるな。
アイテムデータ
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悪徳の妙薬 製作者:メルス
ランク:S
説明:邪気を中に籠めた丸薬
摂取した者は邪気に体内から汚染される
[錬金・調合の際に使用することで、完成するアイテムを大きく変異させる]
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次回、(普通は)最狂の龍が降臨する!
果たして、いったい(最強の)ドMはどうなる!?
[おそらく、ご期待には添えないことを予め記しておきます
ただ、その先の物語は……]
p.s.
本当に地道にブックマークが増えていく、ありがとうございます
しかしながら、話数が多すぎてなかなか手が伸びていないような
ただ、圧縮ができない作者でして……むしろ修正版など、加筆していますし(笑)
作者、求められれば大抵のことはやっています
それも、何も来なければしていないのと同意
どうか作者に働く悦ら……じゃなくて快ら……じゃなくて楽しみを教えてください





