偽善者と東の西京 その04
「式神の召喚に、特別な詠唱などは必要ありません。魔力と札さえあれば、誰でも契約して召喚することできます」
そう言うと組合員は、ずっと持っていた札に魔力を籠め始めた。
「大切なのはイメージ、符を通じて契約した相手と繋がる扉を心に思い浮かべて──この場へ手繰り寄せる!」
魔力の高まりを感じたかと思えば、今度は組合員の隣に新しい生命体反応を感知する。
そして、その場所でポンッと小さな爆発と閃光が生まれ──現れた。
「この子は『一つ目小僧』のヒー君、私と契約した式神です。戦闘力はあまりありませんが、斥候能力に長けていますよ」
和服の小さな子供……だが、その顔についている目の数が異なっている。
そんな妖怪が、式神として符から召喚されたわけだ……口寄せとは違った形で召喚を実行したわけだな。
「こんな見た目ですけど、私よりもご高齢の式神でもあります。何か尋ねるのであれば、しっかりと敬語を使ってくださいね」
「──おう、よろしくな新人共! ……というかお前、ヒー君は止めろって言ってるじゃねぇか」
「と、式神もとい妖怪は見た目と実際の年齢が異なる場合があることを忘れないでくださいね。かつて、それを怠った結果悲惨な目に遭った方もいるそうですから」
「……ったく、お前は変わらねぇな。ここからは俺主導で説明していくぜ。妖怪の何たるかを洗いざらい教えてやるよ」
そんなこんなで、説明者は組合員から彼女の式神へ交代となった。
都の外から来た者はともかく、子供たちはこういう光景にも慣れているのだろう。
特に興奮するわけでもなく、当然の結果のようにそれを受け入れている。
一方、俺のようにそうではない者の中には困惑気味の者が居た。
これから、妖怪と式神契約的なことをするのだから……慣れないといけないのにな。
「いいか、妖怪ってのは多種多様だ。お前たちや俺のように人族を模した奴、動物を模した奴、植物を模した奴……珍しい奴だと道具や建物みたいな奴もいる。そして、下級と上級もあるんだ」
「下級妖怪と上級妖怪の違いは、この街に張られた結界の外で正常に活動できるかどうかだ……ああ、ちゃんと説明してやるよ。正常じゃなければ、活動できるさ。だがずっと外に居ると……汚染され、『荒魂』になる」
「そうなると、もう魔物と同じだな。荒魂は自分の妖怪としての概念に忠実になって、ただ暴れるだけの存在になる。だからこそ、下級妖怪はこの結界の中で契約者を見つけておくわけだ」
精霊と似たような感じだな。
一定の領域から出ると、何かしらの問題が生まれてしまう点とか。
精霊も、魔物になってしまう場合がある。
その原因は環境を穢された場合など、主に精霊そのものに原因が無いことが多い。
精霊の場合は、環境を改善したうえで鎮魂の儀的なことをすれば元に戻るのだが……妖怪の場合はどうなんだろうか?
「生まれつき上級の妖怪も居るし、下級から上級へ成り上がる妖怪も居る。ちなみに、俺は下級だぞ。上級だったらわざわざコイツと契約しなくとも、外に出られるんだしな」
「……妖怪は式神として活動して経験を積んで、レベルを上げて上級妖怪を目指します。私とヒー君の契約の一つにも、定期的にレベルを上げることが入っています」
「昔はどいつもこいつも上級だったが、今はそんな戦いもないからな。魔物を倒して地道に上げてくしかないんだ。人族と契約して外に出て、それこそ地道にな」
昔は敵対する人族を殺していれば大量の経験値が手に入って、それで荒魂となる前に上級妖怪になれていたのだろう。
だが『陰陽道師』によって平和となり、そうできない状況が生まれた。
故に異なる手段──人族との契約を介して上級へ至ることを選んだわけだ。
「──とまあ、俺からの説明はこんな感じで終わりだ。あとは任せたぞ」
ヒー君こと一つ目小僧の妖怪は、登場時と同様にポフッと光を生みだした次の瞬間には消えていた。
気になって魔視眼で観察してみたところ、一度魔力に還元されて符の中に入り、刻まれた送還術式によって亜空間へ行ったようだ。
「最後に、皆さまに符を配布します。一人ずつ受け取ってください」
符が貰える、ということで子供たちのテンションが急激に上がった。
都外の者たちも、こっそり拳を握らせるなどのアクションをしている。
全員が符を受け取ったところで、組合員は改めて説明を行う。
「この符は位階が3辺りの妖怪までしか式神契約をすることができません。この街に住む下級妖怪の方であれば、それで充分だからです。外に居る妖怪や上級の方と契約を結ぶのであればもっと上質な符を探してください」
符の作り方は秘匿されているため、組合や専門の店で買わなければならないんだとか。
だがそれでも、普人が作る符では位階9ぐらいまでが限界らしい。
それ以上は技術に特化した種族が作成した符、もしくは迷宮などで見つかる符を使わなければならない……まあ、生産神の加護で作り方は分かったので、俺自身が手を加えればどうにかなりそうだ。
「では、これにて説明会を終了します。妖怪の方に迷惑を掛ける契約の強要にだけは気を付けてくださいね──犯罪になりますから」
そう言われたところで、説明会は幕を閉じた……それを言わないといけないって。
いったい、何度それが罪として繰り返されたんだろうな。
次回、揉める
はてさて、いったいナニと揉めるのやら
p.s.
お昼からぐっすりと寝てもなお、眠くなる作者です
人の欲望とは際限がないといいますが……睡眠欲もまた、例外ではないんですね





