偽善者と赤帝の墳墓 その01
忘れた方への人物紹介
ウィー:亡国の姫将軍、『赤王』という力を求めている
赤色の世界 赤帝の墳墓
「ここが……『赤帝』の眠る地」
「たぶん、寝てないだろうけどな。前に来たクソ野郎が帰ってきた、ぶっ殺してやるとキレていること間違いなしだろ」
「……それは、貴公のせいなのだろう?」
「いやいや、俺の偽善は何よりも優先されるべきことだし、必然と言うか運命と言うか。まあ、とにかく俺は悪くない」
さて、俺とウィーは二人っきりで迷宮の中へ侵入していた。
そこはかつて妖精の『勇者』を目覚めさせた、悪意に満ちたクソ野郎が眠る場所。
「そういえばウィー。俺の世界では墓荒らしという言葉が有ってな。財宝といっしょに眠りに着いた王族の墓に侵入しては、呪詛系のカウンターを喰らって死ぬとか言うまったく笑えない現象が起きるんだ」
「……それをわざわざ、墳墓という名の迷宮へ潜る私に行って何を楽しむ気だ?」
「いや、ただ知識を自慢したかっただけ」
「貴公は…………いや、なんでもない」
言葉にはせず、グッと呑み込むウィー。
だが『グッと』したのは呑み込むための動作だけでなく、とてつもない力で握られた拳の方だと俺は思う。
──そんなに腹が立ったのか?
「ウィー。今回は単独で『赤帝』に挑んでもらうことになるけど、たぶん俺のアシストは期待できないぞ。まあ、そんなもの必要ないだろうが、もし緊急信号を受けたら──迷宮ごとここの主をぶっ殺すぐらいが精一杯だ」
「それができる時点で、何もできないという貴公の言は矛盾しているぞ。そもそも、迷宮の破壊は本来不可能だ」
「うちの眷属、たぶん八割はできるぞ。もちろんウィーも、やり方によってはできるし。よければ教えておこうか?」
「…………ぜひ」
ウィーの職業は『将軍』と付く統率系のモノなので、普通の戦闘系職業よりも直接的な攻撃力に補正が入っていない。
それでもかなりレアな職業なので、下級職よりは補正されているんだけどな。
「そもそも、俺の迷宮殺しスキルを活用すれば、それだけで壊せる。隠れ能力だから視ても分からないけど、明確な意志と魔力と攻撃力さえあれば可能だぞ」
「その魔力と攻撃力が問題なんだが?」
「おおっ、意志は問題ないのか。なら話は早いな。ついでに俺の(一途な心)スキルも持っていけばそれでできるだろ。だってほら、破壊の意志さえあればどうにかなるし」
昔は能力補正を制御していなかったので、眷属たちに試してもらおうにも意思とか関係なく、単純な物理能力だけで破壊してしまっていたので検証はできていない。
だがまあ、瞬時に起動させた<千思万考>の【思慮分別】がそれを正しいと教えてくれているので、たぶんそうなんだろう。
「……まあ、そうしておこう」
「ちなみにそれで二つ埋まるとして、残りは何を入れているんだ?」
「経験値や熟練度を向上させるスキルを入れている。武術や体術は、あくまで自分の力で得なければ慣れないだろう」
「……そ、そうだな。なら、先に支援魔法を掛けておくからそろそろ行くぞ」
自分の力で、か……。
補正や大神様の力で強くなっていった俺のどこに、自分の力があったんだろう?
まあ、それも含めて俺だって言ってくれる奴もいたから別にいいんだけど。
ウィーは『勇者』とは違うので、全身全霊の支援魔法を施しておく……もちろん、その魔法に耐えきれなくて死ぬなんてことのないように、その飽和ギリギリぐらいで抑えておいたぞ。
「ぁっ、それは……ぅっ……」
……なぜか、顔を赤くして息を漏らしていたけど。
◆ □ ◆ □ ◆
一階層
入った瞬間、理解した──アイツ、やっぱり気づいているなって。
前回同様、地形反転死者無限湧き……みたいな感じで広げられた罠が多いこと。
「あー、ウィー。独りで行くか?」
「……いや、貴公にも責任は取ってもらおうか。このようなことにした、責任をな」
「はいはい、了解っと」
睨んでくるので、こちらも頷いたうえで視線を逸らして誤魔化す。
迷宮をここまで改築させることに、怒っているのだろう……この世界において迷宮ってどういう扱いなんだっけ?
「ここで、ウィーには二つの選択肢がある」
「……訊こう」
「一つ、俺と真面目に迷宮攻略。二つ、前回のセーブポイントまで移動」
「一、だな」
分かってはいたが、真面目なウィー。
俺が一気にゴールまで行こうと言っているのに、それを許してはくれない。
「それに、二を選んでは私まで同犯となってしまうではないか」
「……えっ?」
「私は正々堂々と迷宮を攻略し、『赤帝』と相見える。そこに異論はないな?」
「いやまあ、ウィーがそれでいいなら俺も全力でサポートするだけだが」
前回からしばらく時間を空けたせいで、それなりにDPを溜めているだろう『赤帝』。
今回は使えないんだが、時魔法も空間魔法もセットで縛っていやがるので、それは間違いないだろう。
──さっき言った第二案は、それを踏まえても使える方法だ。
「まずはここから上の十層までどうやって向かうかだな? あんな高い場所なのに、飛行すると魔物が降ってくるみたいだし」
「貴公……本当に嫌われているのだな」
まあ、<畏怖嫌厭>さんが良い仕事をしているようだな。
……それ以外の理由なんて、絶対否定だ。
「ウィー、一つ言っておかなければならないことがある。この迷宮っていったい何層だと思う?」
「……ここは五十層、と聞き及んでいたと答えるのが普通だと思うのだが……その言い方から察するに、解が変わっているのだろう」
「ああ、嫌われてるんだな、俺」
おめでとう アカイロのメイキュウ は ナナジュウソウ に しんかした!
というわけで、布石を設けていた墳墓へ挑む挑戦者たち
はたして、最深部で待つモノとは?
p.s.
帰り道、小か中学生の集団を見ました
……比率が1:5か6、というものだったので、ハーレムか、ハーレムなのか!? とか思ったりする作者です
こういう目で見てしまう辺り、なろうに染まっているんだな……と思ったりします
 





