偽善者と東の島国 その11
草木が眠る丑三つ時。
天を覆う鈍色の雲は、何かを暗喩するように気分をとても重くさせる。
しかしそれでもやることがある──睡眠不要スキルを使い、黒い世界で見張りを行う。
「──そして、現れた」
『…………』
「忍びにもそれぞれ派閥があるらしいが……まさか、人外の者も同時に出てくるとはな。いったいお嬢様はどれだけ嫌われている」
建物の中へ迎え入れる気は無かったので、彼らを歓迎するのはあくまで外でだ。
ヤチヨお嬢様の影と建物全体の影をリンクしていたので、現れて同時に任務を遂行し始めた瞬間を狙い──影の中へ呑み込む。
「さて、貴様らには死んでもらおう。どうせ負け組に居たことそのものが罪なのだ、別にどうなろうが誰も悲しまない」
『ッ──!』
「かかってこい。脱出の方法は私を殺すことだけ、他に選択肢など存在せぬ」
『死ね!』
ドストレートな殺し文句を受け、俺もまた彼らと同様に術式を構成する。
よく思ったのだが、魔法が知られていないからこそ使えるんだよな……構成から何までほぼ違うので、まだネタはバレてない。
「忍術“火鱗粉”!」
「忍術“水葬壊”!」
「忍術“風閃刀”!」
「忍術“土射落”!」
「忍術“無力球”!」
五行説の相剋やら相殺やらいろいろとあるが、この世界ではそれ以外の属性を持った術なども存在する。
特に目立つのは、やはり無属性の忍術であろう──無遁とか聞いたことないし。
「妖術“鬼々壊々”!」
そんな忍術ばかりの刺客の中に、一人だけ角が生えている者が居た。
その身に纏う力を触媒として、触れた物をすべてを砕く破壊力を手に入れたようだ。
見た感じ、鬼人族と似たような容姿。
額に角が生えていること以外、特に目立った特徴など少し大きいということぐらい。
しかし存在感が明らかに異なる……これが妖怪という存在なのか。
──まあ、全部無駄だけど。
「“影手”」
火の粉が飛ぼうと、水が放たれようと、風の刃が来ようと、土が降ってこようと、魔力の球が現れようと、破壊のオーラが生みだされようと──そのすべてを影でできた数千の手が阻むことで、無力化することができる。
なぜわざわざ自分のフィールドに誘ったと思っているんだか……縛りの間だからこそ工夫を重ね、自分が圧倒的に優位に立てるような環境を用意した。
そこには予めセットされた無数の“影手”が配置されており、一度の発動で俺の要望した数だけ同時に発動される。
忍術も妖術も魔力が必ず混ざっている、ならば同じ魔力で出来た手で相殺可能なのだ。
「持ちうるすべてを使ってかかってこい。あらゆる手を許容してやろう、だから魅せてくれ──お嬢様を殺すだけの意志を持っていることを」
「チッ、やってられっかよ。こちとら雇われだぜ? なんでここまでして自分の命を買わなきゃいけねぇんだよ!」
そんな中、突然先ほど挙げた鬼が叫ぶ。
雇われとは、そのままの通り仕える主も無く金で仕える者を決める者たちのこと。
妖怪なので正式雇用ではなく、彼だけは臨時雇用となったのだろう。
「……そうか、貴様は雇われていたのか。ならばその不幸を恨め、そして後悔しろ。女を一人殺れば終わる、その依頼を単純なものだと思い込んだその愚かな選択を」
「い、嫌だ……俺はもっと、殺して犯して喰らい尽く──」
「死屍と化して傀儡となれ。死すらも生ぬるいの永劫の奴隷へ──“影傀儡”」
「うごぁああああぁ! ──アッ」
悲鳴は潰え、目から正気が失われる。
口から液体を垂らしながら、覚束ない足取りで同業たちの下へ向かっていく。
その動きはさながら不死者……彼らの見る眼もまた、汚物を見るような視線だ。
「哀れな末路だな。欲に溺れたこの者は、最後には生存欲求というもっとも原初の欲望を叶えることも叶わず、それ故に生を渇望する存在となった。さりとてそれは、この者だからそうなったとも言える……分かるか?」
『…………』
「忠犬にはそれに相応しい末路というモノがあるだろう。さて、それがどういったものか私には分からぬが……貴様ら自身でそれを試すのもまた、一興というモノであろうか?」
『ッ──!』
ゆっくりと動きだす無数の触手。
真っ黒な影が這い寄るその光景は、それなりに精神に影響を及ぼしているだろう。
「に、忍術“紅蓮劫火”!」
「──“影檻”」
「なっ──ぐぁあああああああぁ!」
「焼死か──“影傀儡”」
自身の忍術を檻の中で受け、焼き焦げて死亡した忍者──彼もまた傀儡となってゆっくりとした挙動で動きだす。
少し異なるのは、未だに消えない焔を全身で纏っていることだろうか?
「時間はいくらでもある。先ほども言ったが逃げるためにも依頼を果たすためにも俺を殺す必要がある」
『…………』
「ああ、そうして沈黙していてもいいが……貴様らの仲間は、とっくに死んでいるぞ」
『ッ──!』
なるほど、俺が気づけないようなバカだと思っていたのか……癪に障るな。
まあ、さすがに分身体が強すぎてやられるなんて考えてもいなかっただろうし、仕方ないといえば仕方ないけどさ。
──とりあえず、もう一回情報収集だな。
いずれ武技や魔技の説明資料集も出したいところですね……今回の術、名前だけで分かりますか?
火鱗粉:火の粉を飛ばし、意識した場所を燃やせる
水葬壊:水に閉じ込め水圧でぷちゅん
風閃刀:風の刃でスパッと斬る
土射落:土砂のように大量の土を飛ばす
無力球:エネルギーの塊(多様なカスタマイズ可能)
皆さま、いいアイデア……本当にありませんかね?
p.s.
なろう原作のアニメがどんどんテレビで……憧れますね
アニメ化できるような作品を書いていない作者が言うのもアレですが、憧れだけは抱いています
偽善者:カットされそうな場所ばかり
虚 弱:盛り上がるバトルが無い(一方的に死んでいるだけ)
チャット:主人公はともかく、周りの出番が微妙
催眠術師:……倫理観(制限が入りそう)
練っているアイデアはあっても、実行する時間と気合がありません……まだまだ夢の話というわけです





