偽善者とPK妨害 その09
夢現空間 修練場
「俺には扱いづらい能力だな……」
当然ながら、模倣には成功した。
フレイ君の火の力、それは彼に向けられた想念すべてを炎に変えて操るというモノ。
こういうのって、チートだよな?
だって恨まれようと慕われようと、どんな感情だって自分の力にするんだぞ。
それをチートと言わずして、何がチートなのだろうか! ……あっ、{感情}ですね。
「ほとんど黒一色じゃねぇか……そんなに人望が無いかね」
持ち主であるフレイ君の火は、間違いなく白と黒、そして赤色に燃えていた。
だが俺はどうだろう、どれだけ絞ろうとどす黒いほどに闇に近い黒色しか出てこない。
眷属たちの協力があるからか、ほんの少しだけ……それこそ火の粉の一粒や二粒だけなら色が付くのだが、それすらも一瞬で闇に呑まれているのだから、もう本当に救いようがないほど縁が欠けているみたいだ。
「眷属に相談はしたけど、何分模倣したスキルだから分からない点が多いんだよな。フレイ君の行く末次第で能力はポンポン変わるみたいだし、不確定要素が多すぎる」
固有スキルとはそういうものである。
前にシガンの固有スキル【未来先撃】を模倣したことがあったが、成長した彼女の能力までは更新されていなかった。
つまりはそういうことなのだ。
そのときそのときで在り方などいくらでも変わるわけで、真似したいならばいつも逐一把握する必要がある。
──なんだかストーカーみたいだけどな。
「未完のスキルだから不安定な部分も多いのか。無理に覚醒させたってのも問題だったのか? けどまあ、主人公ってのは段階を踏んで覚醒させるもんだからなぁ……」
その存在だけは把握していた、主人公候補たちの一人。
彼らは天然の『導士』であり、無自覚の固有スキル発現者でもある。
故に運営神がその一部に絡み、彼らにとってラスボス(候補)である俺を殺させるための準備を整えているらしいが……まあ、そこら辺はどうでもいい。
たとえ誰が何かをするためにどんなことを考えていようと、俺はそんな都合すべてを無視して偽善を振るうだけだ。
そこに意思なんて関係ないんだから、どうでもよくもなるだろう。
「けど、どうせなら好い色であってほしかったな……たしかに悪役として偽善するなら黒い火でいいけど、善人っぽく登場するなら白い火の方がカッコいいのに」
ただ、何もしないのは俺の性分に合わないので──やれることはやってみることに。
「……と、いうわけなんだ。何かいい案が無いか言ってみてくれ」
「知らねぇよ。というか、いい加減その説明なしでいきなり訊くの止めろよ」
困ったときのカナタである。
解析は眷属に任せているものの、突拍子もないアイデアであればカナタやアイリスなどの地球出身の者が一番詳しい。
今回はアイリスが外出中なので、カナタだけを呼んでみました。
「要するにだ、このいかにも悪役チックな見た目をどうにかしたいってこと」
「それが例の勇者っぽい奴からパクったってヤツか? お前、本当にチートだな」
「ん? まあ、{感情}はチートだな。それよりほら、アイデアプリーズ」
変なことを言い出すカナタを急かし、さっさと情報を提供させる。
俺とカナタは違う地球……いわゆる平行世界の出身なので、一部だけ異なる知識を持っているしな。
「と言ってもな……それ、具体的にどういう原理で出してんだよ」
「俺的な解釈なら、好感度の火だな。プラスなら白い火が出て、マイナスなら黒い火。だけど俺は──」
「真っ黒だな、おい」
なんとなく『明けの明星』を起動すると、黒い火は十二枚の翼を模っていく。
なんだか堕天使みたいで、こういう使い方ならカッコいいんだけどな。
「おま、それ……」
「ふっふっふ、だから悪役としての使い方なら最高なんだよ。だけど、白い火がどうしても出てこない……眷属の分は、こうして少しだけ出てくるんだけどさ」
「うわっ、小せぇなぁ……」
「偽善者だからな。恨まれたり憎まれたりする方が多いんだろう」
さっき思ったことをもう一度言っておく。
黒い火がカナタを焦がそうとするので、結界で包んで防いでおいた。
……無差別で燃やそうとする点は、解消するべきだな。
「で、この部分をもっと多くしたいと。全然白色がねぇな」
「赤色はたぶん、知っているとかそういう普通の縁なんだろう。けど、それすら少ないって……あっ、<畏怖嫌厭>のせいか」
「初対面のヤツに物凄く嫌な顔をされるってヤツか? たしかにそうだろうけど……気になることが多いな」
「何か分かったのか?」
しかしまだ確証が無いようなので、とりあえず自分で考えてみるらしい。
俺としては<千思万考>の【思慮分別】もあるので、言ってくれる情報は多い方がいいんだが……。
「……それって、透明すぎて分かんねぇだけじゃねぇのか」
「何か言ったか?」
「い、いや、なんでもねぇよ!」
何か言っていた気がするんだが……俺の気のせいだったか。
いずれは純白の翼をはためかせる、俺には似合わない天使プレイがしたいものだ。
──って、それなら天使魔法で充分だな。
これにて、主人公(候補)との邂逅は幕を閉じます
彼の能力はまだまだ強くなります……白い炎もいっぱい出るでしょう
次回に自己紹介を挟み、今度は赤色の世界へ……そして出会う、異なる『勇者』
p.s.
愚痴を零します
同じ講師が連続して行う講義
なぜ重なると分かっていて、中間テストの日を被らせるのか……
いやまあ、テストはそういうものだと分かってはいる……だが、どうせなら一つに絞って欲しかった!
せめて傾向が知りたかった、何が出るとか言われても言葉じゃ伝わらないものがあるだろう!
……ハァ、暗記が面倒臭い
すみませんね、愚痴で
それでもノルマ(二作品分の執筆)は実行する辺り、業が深い気がしますけど(笑)





