偽善者と死者の都 その07
今話の登場人物
カグ:邪炎神の転生体(器)、可愛い!
ソウ:生命最強の銀色古龍、ドM
アン:以心伝心な機械っ娘、目が死んでます
夢現空間 玄関
「ただいまー」
「あっ、おかえりなさい!」
「おお、今日はカグがお出迎えかぁ……気疲れが一瞬で吹き飛んだよ」
「?」
帰ってきた俺を迎えてくれたのは、燃えるような髪と瞳を持つ少女だ。
どうやら今日も『迷宮学校』に行ったようで、可愛らしい制服を身に纏っている。
「何かあったの、おにーちゃん?」
「ちょっと強い人の所に出かけてな、昔凄いことをした人たちと、いっしょに食べ物を食べてお祝いをしていたんだ」
「お祝い?」
「まあ、いろいろとな。そのときにおでんを食べていたんだが……あとで食べるか?」
うん! と嬉しそうに微笑む姿は、実に天使のような愛らしさであった。
もともと(邪)神が転生しようとした器でもあるのだから、容姿が整っているのは当然と言えば当然なんだが……うん、可愛い。
「カカはどうしているんだ?」
「寝ちゃっているみたい。気配が感じられなくなっているもん」
「そうか」
記憶も意識も権能も、すべて失って世界に平和をもたらそうとした邪神は、何の因果か少女の肉体にすべてを持ったまま転生した。
そして今も、時折その少女が心配で動向を陰ながら見守っている。
──要するに、心配性な保護者だな。
だが、そんな邪神様もいつもカグを見守れているわけではない。
なんらかの理由でその膨大な力や権能の大半が奪われてしまっており、回復に長い年月が掛かりそうだからだ。
「カグはどうして玄関に居たんだ?」
「おにーちゃんがそろそろ帰ってくるって、アンおねーちゃんが教えてくれたんだよ」
「嬉しいねぇ……まだ帰って来てないヤツは誰だ?」
「グーおねーちゃんとリュシルおねーちゃんとマシューおねーちゃんだよ」
あの三人は……たしか、リーンで研究をしているんだったか?
国民にも優秀な学者たちが誕生して、さまざまなことを研究している。
今日はその報告会をしていたと思う。
「あの三人も大変だな……カグ、お腹は空いているか?」
「うん!」
「そうかそうか。さっきのおでんもそうだけど、おやつにデラックスなパフェでも作ってみよう。祭り騒ぎでおでんばっかり作ってたから、少し変わった物を用意したいんだ」
「うわぁ、ありがとうおにーちゃん!」
実際、おでんと酒ばっかり見ていたしな。
ジュースもあるにはあったが、あんな戦場に来ていた子供の内レベル五まで達する者などごく少数だったので、アイも含めてほんの僅かな消費しかなかった。
しかし、このあと俺が作るのは──眷属の眷属による眷属のための料理だ。
改めて、一から学び直す気持ちで想いを籠めて作る必要があるだろう。
カグには申し訳ないが、至高と呼べる品はおそらく生みだせない──せめておやつ感覚で、軽く食べてもらいたい。
◆ □ ◆ □ ◆
「儂が『超越種』? いや、違うじゃろう」
「まあ、そりゃあそうか」
「なにせ、神をも追い返したからのう。候補であっても、実際には成れん」
アイから聞いた『超越種』候補の一人であるソウに自覚があるか訊いてみたところ、やはり無いようだ。
ただ、ソウに限っては『解き放つ』という言葉が噛み合わないんだよな。
「お前をあそこに縛り付けていたモノは、何もないんだよな?」
「うむ。しいて言うなれば、俗世の世界そのものが楔であった。主様と出会うまで、いわば世界が灰色であったとも言える」
「じゃあ、今は何色だ?」
「無論──桃いぐふっ!」
色呆けドMの尻を蹴る。
四つん這い状態で時折蹴らないと質問に答えないとほざいたので、こちらも全力で対応してやっているのだ。
「となると、別のヤツが候補だったのか? 封印となると該当するのは多いが、異常個体で封印されていたヤツか……つまり、お前はもう用済みだな」
「そ、そんな──ぎゃうっ!」
「うるさいな……お仕置きされたいのか?」
「ぜ、ぜひに!」
言質は取ったので、さっそく行う。
取りだした紐を瞬時にソウへ巻きつけ、神気を注いで完成だ。
「ほら、独りで遊んでろ。お前のあらゆるエネルギーが尽きかけたら勝手に取れる」
「~~~~~!」
「あー、悪い。声は聞こえないようにしてあるんだ、それじゃあ頑張ってくれよ」
「~~~~~!」
妙に悶えているソウは無視して、図書館に移動して本を漁っていく。
同時に、アイやレベル五に住むアンデッドたちから集めた情報を転写し、記憶から抽出した情報を注いでいく。
「メルス様」
「どうした、アン?」
「メルス様の手に入れてくださった情報のお蔭で、転職条件に詰まっていた者たちが救われました。その感謝がしたいとのことです」
「あそこにはいろんな職種のヤツがいたからな。そりゃあ二、三人ぐらい喜ぶヤツもいるだろう。祝いをするぐらいなら、街のみんなにおごってやれと伝えておけ」
国民の喜びは分かち合うものだ。
そして悲しみは国が請け負い、喜びに変えてまた配る……そんな国であればいい。
まあ、それができるのも眷属が居ればこそだけれど。
「二、三人ほどではなく、二、三十人ほどいるのですが……どうされますか?」
「意外と多いな……聞いた職業はどいつも最上級に近い職業だったぞ?」
「メルス様の恩恵をあやかるこの国は、優秀な者たちばかり誕生しますので」
……これは、調査すべきことだな。
いつの間に俺の世界は、戦闘民族を生むような場所に変わっていたのだろうか。
一部情報公開
最上級職業:一般人にとって最上位は固有職業
しかし人数制限があるため、同じ条件で転職しても異なる職業に就く場合がある
前者を極級職、後者を超級職という……無限級じゃないぞ
p.s.
Web小説のいい所って、好きな話を書いていい点ですよね
普通の小説で生命最強決定戦のような長ったらしい話をやっていたら、絶対に不評を買っていますよね……とまあ、話の流れで分かるかもしれませんが、いずれそんな感じになるかも知れません
さすがに100話は無いですが……まあ、撲滅イベントぐらいにはなったらいいなぁ





