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【更新不定期化】AllFreeOnline~才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します~  作者: 山田 武
偽善者と還る理 十七月目

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偽善者と星の銀貨 その11

こどもの日記念 連続更新三話目です



 この物語──『星の銀貨』において運命の女神は、特定の人物に使命を与えるようなことはしていなかった。

 そうせずとも、自身がやり直しの能力を与えるだけで充分だと理解してたからだ。


 献身的に身を捧げる少女は、そのすべてを以って神との約定を果たそうしていた。

 そこにいっさいの恐怖は無く、神への貢献という行いそのものへの尊さを覚えるだけ。


 望む望まない、少女の倫理観はそこではなかったのだ。

 たとえ運命神で無かろうと、邪神が手を差し伸ばそうと少女は信じていた。


 ──相手が神族の者だから、と。


 導かれるように狂った運命の歯車は、少女の在り方を歪めようとしている。

 信じる神の思うがままに、自己すらも切り捨てて捧げようとしてきた少女が、誰かのために自身がどうすればよいか、考えられるようになった。


 ──はたして歪みとは、決して起きてはいけないことなのだろうか。


 歪みから生まれた美、というものがある。

 決して自然には生まれないモノを人工的に生みだし、そこに美を感じるというものだ。


 ──では、少女はどう歪んでいく?


  ◆   □   ◆   □   ◆


 解体作業は任せてもらったので、パパッと複製魔法でコピーしたあとで中身を解体(バラ)して少女と分配し合う。

 だいぶ遠慮していたのだが、肉が喰いたいのだと話したら他の素材は貰ってくれた。


 あと、魔獣からは装備品もドロップする。

 こちらは俺が装備しても意味がないものというわけで、少女が受け取った──何でも使えるってのは、本当に便利だよな。


 そうして移動中の俺たちは、未だに野原を歩いていた。

 だがその視界の先に、薄っすらとだが建物らしきものが見え始める。



「目的地はそろそろでしたか?」


「うん……この先に神殿がある」


「わざわざ森を抜けたこの場所に……いったいどうしてでしょうか?」


「詳しいことは分かっていない……けど、普段は使われていない……」



 つまり、特殊な儀式の時だけこっちに来てそれを行うと。

 まあ、空からお金が降ってきたり、突然少女の衣装が変わったりするんだから、そうしておいた方がいいのか。



「もしかして……あれでは?」


「うん、間違いない……あれが神殿……」



 地球において、少女は野原で銀貨を授かる描写なのだが……神という存在が確立しているこっちだと、しっかりと神殿の中で報酬を受け取ることになるのか。



「来て……」


「はい、分かりました」



 歩を進めていれば、少しずつその神殿の大きさも分かっていく。

 自然風景と同化してしまっているその場所は、大理石でできた柱や床に蔓などの植物が絡みついている。



「古いように見えますが……これは、整備しても変わらないのですか?」


「分からない……ただ、普段は使われていないから……」


「そうなると。これは神殿側の問題なのかもしれませんね」



 町ができたのが先か、それとも神殿ができたのが先か……いずれにせよ、互いの距離がもっと近ければよかったものを。


 そんなことを思いながら、中へ入る。

 神殿内はそれでも少々整えられており、植物による侵攻は防がれていた。

 同時に、神気のような気配がするので、それで植物を排除しているんだとも感じる。



「神聖な場所ですね……」


「うん、同意……」



 さらに奥へ進んでいくと、そこには一体の神像が置かれていた。

 石像とは思えないほどに細かい所まで彫られた、凡庸な俺ですら神々しさを石から感じてしまう女神像だ。



「あれが……」


「そう──献上の神『ディーサ』……」



 長い髪を広げ、両手を空に掲げている美女の像──それはまるで、星々に何かを捧げているようにも取れる幻想的な光景だった。

 そう見えるよう、女神像の上には何もなく透明な魔力の壁しか存在しないわけだし。



「このあとはどうされるのですか?」


「私が祈る……約定を果たせたのか微妙だけど、ここまで来れたら祈るように神託を受けていた」


「では、私も祈りましょう。あなたが無事、約定を果たせることを」



 コクリ、と頷いた少女は女神像の前で膝立ちをして瞳を閉じた。

 すべての指を絡めている手は、少女の真摯な気持ちを表すようにギュッと握っている。


 俺に神の神意とやらを聞く力は無い。

 直接俺と会い、拳と共にクレームをぶちまけられたことはあるが、少なくとも神託とやらを聞いたことは一度も無い……のか?



「あの次元の壁、たしか声が聞こえたような気がしたな……」



 あれがリオンの言う通り、大神によるものだったなら……神託だったのか?

 今となっては調べることもできないが、いずれスキルレベルだけでも上げてから再挑戦してみよう。



「おおっ、なんか綺麗だ……」



 そんなこんなしている内に、少女の物語はクライマックスのようだ。

 一瞬空が光ったかと思えば、キラキラと輝くナニカが降ってきた。


 それは手を掲げた少女の元へ──それを受け取った瞬間、彼女を中心に眩い光が神殿を照らすように放たれる。



「……これで、任務完了ですね」



 光が収まったとき、そこには少女がとても綺麗な衣服を纏って立っていた。

 目からはホロリと涙が零れ出ている、不思議な美しさを誇りながら。




次回更新は18:00となります

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